第4話 『掃除で発覚!? 迷宮の裏道
ギルドに正式登録され、誤認Sランク勇者と祭り上げられた俺は、さっそく初任務を受けることになった。
王都近郊にある迷宮の調査。定番中の定番だ。
「勇者様、どうかご武運を!」
「俺、ただ掃除しかできないんだけど……」
街の人々に見送られながら、俺はリリア王女と護衛の騎士見習いカイン、それに受付嬢のアイナまで同行することになった。どうやら“監視役”らしい。
「誤認Sランク様の実力、この目で確かめさせてもらいます」
「いやいや、あれ絶対バグだから……」
迷宮の入り口は、岩肌に口を開けた洞窟。中はじめじめと湿っていて、足音が反響する。
俺は緊張で胃が痛くなっていた。
「ひぃ……暗いし、じめっとしてるし」
「ここからが冒険の始まりですわ!」
リリアはやけに楽しそうだ。
一方、カインは胸を張って木剣を構え、得意げに言う。
「安心しろ、勇者様。俺が前衛でお守りします!」
「いや、前衛は頼むけど……俺は何もできないからな?」
そのやり取りを聞いたアイナが冷たく笑う。
「“誤認S”様の言葉、全部謙遜に聞こえるんですよね」
「いやほんとだって!」
奥へ進むと、魔物の群れに遭遇した。
数匹のゴブリンが、ギャアギャアと叫びながら突進してくる。
「出たな!」
カインが叫び、リリアが詠唱を始める。
「……聖光よ、彼の者を照らせ!」
俺は慌てて後ろに下がり、壁際に避難した。
だが、背中にヌルッとした感触が。
「うわ、なんかベタベタしてる!? 苔? カビ?」
気持ち悪くて仕方なく、ポーチから布を取り出しゴシゴシと壁を拭いた。
――その瞬間。
壁に刻まれていた古代魔法陣が姿を現し、眩い光を放った。
重苦しい空気が晴れ、石壁がゴゴゴと動き始める。
「な、何だ!? 壁が動いてる!」
「まさか……隠し通路!?」
目の前に現れたのは、真新しい石畳の小道。
誰も知らなかった安全な裏道が、掃除しただけで露わになったのだ。
「……え? 俺、またやっちゃった?」
仲間たちは唖然としながら俺を見つめていた。
光に照らされた通路は、これまで誰も踏み入れたことのない新しい石畳だった。
カインが目を丸くして叫ぶ。
「す、すげえ! こんな安全そうな道が……今までの迷宮地図には載ってませんでした!」
アイナは信じられないというように水晶の記録板を確認し、眉を寄せる。
「確かに……。通常なら魔物の群れを突破して三日はかかる区画を……これを通れば一時間で核心部に着ける……?」
リリアは感極まったように両手を胸に当て、俺を見上げる。
「ユウト様! またしても奇跡を起こしてくださったのですね!」
「ちょ、ちょっと待って。俺はただ、壁が汚れてたから拭いただけで――」
「勇者様の“掃除”が、古代の封印を解いたのです!」
「いや、掃除っていうか、ベタベタしてて気持ち悪かったから……」
「その清浄なる心が迷宮に通じたのでしょう」
……だめだ、完全に話が勝手に美談になっていく。
裏道を進んだ一行は、拍子抜けするほど順調に迷宮を突破した。
ゴブリンやトラップが出現するはずの場所を、あっさりスキップしてしまったのだ。
「まるで勇者様のために用意された道だ……!」
カインが興奮気味に言う。
「いや、俺が用意したんじゃないし」
やがて出口に到達した時には、まだ昼過ぎ。
本来なら丸一日かけても出られないはずの迷宮を、半日もかからず攻略してしまった。
王都に戻ると、ギルドは大騒ぎだった。
「勇者様が未知の通路を発見したらしい!」
「迷宮攻略時間を大幅に短縮!? 伝説更新だ!」
気がつけば、俺はまたもや英雄扱い。
アイナまで真顔で言う。
「……あなた、本当にただの高校生なんですか?」
「いや、マジでただの……」
だが、周囲の歓声がそれをかき消す。
「勇者様! 勇者様!」
「救世主だ!」
俺は肩を落とし、ため息まじりに呟いた。
「……また俺、何かやっちゃいました?」
――こうして“掃除で迷宮を攻略した勇者”の新たな伝説が、王都に広まっていったのだった。
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