第12話 戦争への序曲

 記事公開から数週間、社会は混乱の渦に巻き込まれていた。

 大物政治家の家族の関与が明るみに出たことで、国内は怒りと不信に満ちた群衆で溢れた。

 テレビやネットは炎上状態で、政府は沈黙を続け、事態の収拾はつかない。


 しかし、それだけでは終わらなかった。

 記事をきっかけに、天下り企業の存在も次々と浮上する。

 政治家と密接に関わる企業経営陣の名前に、元総理大臣の影がちらつく。

 企業は権力を盾に、証拠隠滅や情報操作を行い、社会にさらなる混乱を広げていた。


 由紀はニュース画面を見つめ、静かに拳を握る。

「真司……あなたの闘いが、ここまで広がったのね」

 だが、胸の奥には絶望もあった。

 暴露は成されたものの、社会の秩序は崩壊寸前で、圧力と隠蔽、腐敗は留まることを知らない。


 その混乱に乗じ、海外からの圧力も次々と加わる。

 経済制裁、軍事的威嚇、外交的圧力――国は追い詰められ、対応に苦慮する。

 国内の混乱と相まって、戦争の可能性が現実味を帯び始めていた。


 港湾地区で、由紀は深く息を吸う。

 街は静かだが、空気は重く、夜の闇は冷たく深い。

 真司の死と復讐、そして政治家暴露の影響は、もはや個人の戦いを超え、国家の命運を揺るがすものとなっていた。


 企業、政治家、警察、海外勢力――

 すべてが複雑に絡み合い、社会の秩序を破壊していく。

 そして由紀は理解した。


 ――真実を暴くことは、決して安心や平穏をもたらすものではない。

 それは、新たな混乱と絶望を生み出す刃でもあった。


 由紀の瞳に映る夜景は、光と闇が交錯している。

 赤く染まった港の水面、ネオンに反射する人々の影。

 すべてが、戦争への序曲を奏でているかのようだった。


 由紀は胸の中で、真司の言葉を反芻する。

 ――「犠牲者の声を、消させはしない」

 だが、犠牲は増え続ける。

 真司の復讐、政治家の隠蔽、企業の圧力、国際的な動き……

 すべてが連鎖し、抗えない絶望が社会を覆い始めていた。


 夜風に吹かれながら、由紀は静かに口を開く。

「……真司、見ていて。世界が、私たちの知らない力で動き始めた……」

 港の水面に揺れる光が、未来の混乱を映し出すかのように揺れていた。


 戦争への序曲は、すでに始まっていた。

 個人の正義が国家の混乱を生み、絶望と復讐が絡み合うこの世界に、誰も抗えない。

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