第3話 抹消された証言

 真司が新聞社に戻ると、編集部の空気はいつも通り慌ただしかった。

 だが、彼の心はざわついていた。昨日の河川敷で見たあの女性のことが、どうしても頭から離れない。


 彼女は怯えた目で、何かを伝えようとした。

 しかし警察に追い払われ、言葉は最後まで途切れてしまった。

 真司は手帳に書き留めたメモを何度も見返し、彼女の存在を追う決意を固める。


 翌朝、真司は近隣住民に聞き込みを開始した。

 しかし、女性の行方を知る者はいなかった。

 ある商店主は「昨夜、家に帰る姿は見た」と言ったが、訪ねてみると家は空き家だった。


「引っ越したのか……?」

 真司は眉をひそめる。

 ――いや、それにしても急すぎる。


 さらに調べを進めると、防犯カメラに映っていた女性の映像も、一部が削除されていることが判明した。


「誰かが意図的に消した……」

 真司は冷たい怒りを胸に抱く。


 その夜、自宅で同じジャーナリストである妻・由紀に話すと、彼女は真剣な表情で言った。


「もうやめて、真司。あなたまで巻き込まれるのは……」


 真司は手を握り返す。


「でも、放っておけないんだ。あの女性も、犠牲者も、誰も救われないままになる」


 翌日、真司は再び現場へ向かった。

 河川敷には、昨日よりもひんやりとした空気が漂っている。

 川沿いの草むらに、かすかに踏み跡が残っていた。


「まだ誰かが、ここを通った……」

 真司は息をひそめ、足跡を追った。


 やがて、河川敷の端にある小さな倉庫の扉に気づく。

 扉はわずかに開いており、中からかすかな物音が聞こえた。


 真司は慎重に近づき、扉の隙間から中を覗く。


 そこには誰もいなかった。

 だが、倉庫の床にはノートや書類が散乱しており、ページには昨日の河川敷での目撃情報や不可解な痕跡の記録がびっしりと書かれていた。


 ――誰かが証拠を残した。しかし、すぐに回収された形跡もある。


 真司は背筋が凍るのを感じた。


「この事件、普通じゃない……誰かがすべてを操作している」


 その瞬間、背後で小さな物音。振り返ると、倉庫の影の奥で人影が動いた。


 暗闇の中、真司は静かに呟く。


「……来たか」


 川風が吹き抜ける中、影はゆっくりと消えた。

 だが、その気配は確かに、彼に迫っていた。

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