俺と後輩と首吊り事件 ーー犯人は俺じゃねえんだわ
大濠泉
第1話 古代遺跡の呪いは健在だった!?
最近の俺は孤独だ。
たしかに、俺は街中で生活する者としては異色の出自だ。
もともとは妾腹の次男坊とはいえ、子爵家の出なんだ。
が、生来、怠け者なせいもあって、見習いに出された騎士職を勤め上げることができず、民間の冒険者に収まった。
それから十年ーー。
冒険者が板につき、すっかり街のみんなに馴染んで、仲間が大勢できた……はずだった。
それなのに、今では、冒険者組合に行っても、誰も話しかけてくれない。
この街の冒険者組合の職員は、みな様々な色をしたブレスレットをかけている。
かつては俺に「ブレスレスレットをやろうか」ーーつまり「職員にしてやろうか」と誘いかけるほど、俺は組合職員に可愛がられ、仲良くなっていた。
そのつもりでいた。
それなのに、今では誰も相手にしてくれない。
受付に行っても、受付嬢ですら、ひとりも近寄ってきてくれないのだ。
みんなカウンターの奥の方で、忙しそうなふりをするだけだ。
酒場に足を運んでも、独りで飲むしかない。
カウンターで飲んでいると、両隣の席から客は逃げていく。
バーテンからも嫌な顔をされる。
かつては俺の周りには大勢の仲間が集まり、その仲間の彼女たちも一緒になって、ワイワイガヤガヤと楽しくやっていたものだった。
冒険者パーティーを組んで、リーダーを務めたこともある。
それが今では、たった独りで酒を飲むしかなくなっている。
理由ははっきりしていた。
些細ないたずら心から始まった出来事が原因だった。
この街の近郊には、有名な古代遺跡がある。
一つは〈奈落のダンジョン〉と呼ばれる迷宮だ。
大きな穴がほぼ垂直に
おかげで〈帰らずのダンジョン〉とも言われている。
それともう一つ、有名な古代遺跡が〈ナーバス神殿〉だった。
千年以上昔の神殿遺跡だ。
すでに廃墟になっているのだが、その遺跡を探索した者たちが、次々と首吊りをしたという、いわく付きの遺跡だった。
もはや名も忘れられた古代の神を
ある日、俺は、その古代遺跡〈ナーバス神殿〉に、嫌がる後輩を無理に連れていった。
後輩は肌が色白く、いつも不健康そうな
でも、器用に、様々な系統の魔法を使うことができた。
魔道具製作に興味がある俺にとって、良い話し相手になってくれた。
いつものごとく魔法談議に花を咲かせた拍子に、例のナーバス神殿の話になった。
そのとき、後輩は過剰な反応を示した。
「ソコへ行くのは、なんていうか、嫌ですね。
肝試しに行くにしても、もっと別の所が良いっていうかーー」
俺は、いつも悠然としている後輩が気後れしているのを見逃さなかった。
露骨にビビってる感じだった。
「なんだよ。マジで古代の呪いが怖いってか?」
俺がからかうと、後輩は真剣な面持ちになった。
「いや。そういうんじゃないっす。
でも、ああいうところでは、何があるかわかりませんよね。
だからーー」
「俺も一緒に行くからよ。
俺は冒険者なんかやってるけど、本当は魔道具製作者になりたいっていうこと、知ってるだろ?
それぐらい、仕掛けモノに凝っているんだ。
そんな俺から見ると、古代遺跡っていうのは最高なんだよ。
様々なトラップがあって、巧妙な仕掛けが多い。
その構造を考えたり、調べたりするのが大好きなんだ。
まぁ、奥の院までは行ったことはないんだけどーー。
だから、行ってみたいんだよ、おまえを連れてってさ」
そこへ、気が合った冒険者仲間どもが割って入ってきた。
「なんだ、なんだ? 肝試しか?」
ナーバス神殿の表御殿は、身分の貴賤を問わず、近在の子供たちにとって、定番の肝試しスポットだった。
「そう言えば、この優男は別の街からやってきたヤツだからさ。
あそこで肝試しやったこと、ないんだってよ。
連れて行ってやろうぜ」
俺は仲間たちと大いに盛り上がった。
後輩は、女に人気がある優男だから、俺たちはからかい半分の気分があった。
でも、まさか、後輩が小便をちびるほど怖がるとは思わなかった。
その日は、遺跡まで、大勢の仲間たちとゾロゾロ連れ立って歩いていった。
大勢の女性たちもいた。
だが、後輩の怖がりようは尋常じゃなく、初めは釣られて面白がっていた女性陣も「可哀想よ」「許してあげなよ」と俺らを非難するほどにまでなった。
でも、これが逆効果となった。
臆病なさまを
かえって俺たちは強引に後輩を神殿の奥の院にまで引っ張り込むことにした。
ナーバス神殿の奥には、あっさりと辿り着いた。
古代遺跡ならではの、異様な雰囲気に満ちていた。
白い
教壇の背後に幕がかかっている。
その幕をはだけると、真っ白な壁があり、そこに怪しげな紋様があった。
「なんだ、こりゃあ?」
丸にバッテン印が入って、そこに目玉のように
仲間たちはせせら笑った。
「こりゃあ、紋様というより、魔法陣か何かだ」
「コイツを目にしたら、気が狂うってやつ?」
「冗談だろ? こんなの、便所の落書きだぜ」
「ほんと、こんなのにビビってんじゃ、世話ないよな」
笑いながら、俺たちは奥の院から出た。
怖がってた後輩も出る時は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
怖い噂も、実際に入ってみたらこんなもんだと、拍子抜けした気分だった。
が、翌日、笑えない事態が起こった。
後輩の優男が首を吊って死んだのだ。
遺書も残さない自殺だった。
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