第3話 再会
井戸も畑も作れないまま一年が過ぎ、僕は四歳になった。別に畑や井戸や水車を作るのが僕の使命ではない。リバーシを世界に広めるつもりもない。
今日はメルスさんが娘を連れて来る日だ。
メルスさんはウチの隣の商店の店主でパパの親友らしい。我が家には仕事上の付き合いもあり、良く出入りしていたが娘さんは連れてこなかったな。
「クロームと同い年みたいだよ?」
「可愛い子みたいだけどクロームには敵わないでしょうね!」
「「わはははは!!」」
両親は僕を溺愛してくれるが、この世界で出会った人達は美形なので正直顔の良し悪しが分からなくなっていた。前世基準なら僕は間違いなくイケメンなのだが、有り難みは薄れていた。自分の事をイケメンって言うのも嫌だな…
「メルス!良く来たな、スカーレットちゃんもようこそ」
「遊びに来させて貰ったよ、さぁ!スカーレットも挨拶して」
スカーレット!?なる早!?なんだか懐かしい名前が飛び出したね。
「スカーレットですわ、四歳の小娘ですが、どどんと仲良くしてやって欲しいですわ」
あの話し方、間違いなくなる早だ!サポート役と言っていたあの…
それにしても全然目を合わせないな、なる早。
「こんにちは!僕はクロームと言います。なる早で仲良くなりましょう」
「ひっ…」
「「「なる早?」」」
「さぁ僕の部屋に行こうか?」
「うぅ…なる早で行きましょう……」
項垂れたまま連行されるスカーレットちゃん。
「す、凄いねクローム君。あのスカーレットが大人しく…」
「いつもは良い子なんだよクロームは」
「子供は子供同士が1番よ、今日は来てくれて嬉しいわメルスさん。向こうでお茶でも」
➖➖➖➖➖➖
「ど、独房…ですわ!?」
「僕の部屋だよ」
「えぇ…ベッドしかありませんわよ?」
「僕が怪我をしないように両親が物を置かない様にしてるんだ」
僕の部屋への感想が独房って…確かにベッド以外何も無いけど…
「窓がやたら高い所に有りますわね…おまけに鉄格子、すんげぇこえぇですわ…」
「窓?うわっ鉄格子!?」
四年も過ごしたのに今気づいた。
「ど、泥棒防止だよ…多分」
「独房…」
両親からの溺愛…歪んだ愛情…軟禁…嫌なワードが脳内に溢れて……
「いやいや、ちゃんと部屋から出して貰ってるからね!敷地内は自由なんだから!」
「外に出た事はあるんですの?」
「…」
ウチは鍛冶屋で武器を売っている、武器の使用感を見る為の訓練場を兼ねたそこそこ広い庭が有る。家はそこそこ広く大きい。だからウチから出なくても閉塞感は感じ無いんだ…
と言うか、僕らはまだ四歳だ!
どこから両親の歪んだ愛情から僕を軟禁て考えになったんだろう?
「コホン!スカーレットちゃんは僕がここに生まれて来たって気づいて無かったの?」
「私は天使ですからバシッとクローム様の居場所を突き止めていましたわよ!我が家のお隣からガンガン気配を感じていましたもの」
「なる早、四年」
「今日が初外出だったんですの、私も溺愛されてて…」
「あぁ…」
確かにスカーレットちゃんは外見だけは繊細な感じだからなぁ。
「内面も繊細ですわよ!」
ひぃ心が読まれてる!怖ぁ……心を読まれるって落ち着かないわ…
「スカーレットちゃんは魔法を使える?良ければ教えて欲しいんだけど」
会話の流れを変えてみる。
「そういえばクローム様は全属性魔法と魔法のクリエイトを貰ってましたわね、手をばばっ!と出して下さいですわ」
言われるままに手を出すとスカーレットちゃんが僕の手を両手で包む、目を閉じ、祈るスカーレットちゃんは天使っぽい。
頭の中にパチンと音が響いた。
「終わりましたわ!後は使いたい能力を思えば検索できますのよ」
「検索?検索システムなんだ…?」
まぁ良い。武器クリエイトしか使わないと誓った身だが、考えを読まれるのは嫌だからね。
読心ガードを作って常時発動しとこ。スカーレットちゃん、そろそろ手を離してくれないかな?
「握っていても良いじゃありませんの?私達たった二人だけの幼馴染ですもの!後、読心ガードは…ぐぬぬ、読めなくなりやがりましたわ!出会ってから美少女とか可愛いとか言われて喜んでいましたのに…」
ひぇ、最初から心を読まれてた!?神界にはプライバシーの概念が無いのかな…
まさか可愛いとか言われて僕に惚れたとかは無いと思うけど、僕の手を頬に擦り付け始めたよ。
「そうそう、僕達の将来の事を話そう!」
「えっ!?私達の…将来!?」
僕としては、学園で冒険者としてのルールを学んで、ゆくゆくは冒険者として活動。素敵な武器を使うそこそこの冒険者になって、魔物を狩って財産をそこそこ残して老後に…
「天使でも構いませんの…?」
「はぁ?」
二人セットの冒険者なら楽に依頼をこなして魔物も倒せるだろう。是非もない。元々スカーレットちゃんは僕のお目付け役だ、最初から二人セットさ。天使も人もあるはずが無いんだ!
「僕達は元から二人セットだよ。」
「くぅ〜〜っ!こう言うのを求めていましたの!!幼馴染シチュ!ハァハァたまりませんわ…」
流石女神の使徒、使命に燃えているのかな?いや、使命を燃やしちゃったのか…
まぁ僕は自分の武器を色々な人に見せびらかす…いや、素晴らしさを知ってもらいたい!そのついでに魔物とか倒せれば良いんだ。
「スカーレットちゃんは何歳から学園?学校に通うか知ってる?」
「んー確か12歳から入学、そこからは学科によって任意のタイミングで卒業出来るとか…」
「好きなタイミングで卒業出来るって…事?」
「そうですわね。家業を継いだり、なる早で家計を助けたい者も居ますからですわね」
「なるほど!僕は家業は継ぐ気は無いけど、なる早で世界を旅してみたいよ」
見つめ合い頷き合う僕達。彼女も僕に卒業を合わせてくれるみたいだ。
その時、ドアがノックされ
「スカーレット、そろそろお暇しようか」
メルスさんが娘を迎えに来た。
「楽しかったかい?」
そう尋ねるメルスさんに
「私達の将来をズバッと話し合いましたの…」
頬を染め、伏目がちにこちらを見るスカーレットちゃん。蕩けた空気の女の子の背後には、額に青筋を立てた鬼がこちらを光のない目で見つめていた。
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