第2話『まずは情報収集で一つよろしくお願いします』
[5月1日(金) 喫茶店
「第一回チキチキっ!!
岩城柚さんにどうやってアプローチすればいいのか、作戦会議~~~~!!!!」
傍らでは、「おー」という興味なさそうな義人の声と拍手。
そして、目の前では呆れ顔の早乙女さんが苦笑いを浮かべ、俺の注文したミルクティーを淹れてくれている。
「……皆さん、お願いです。
どうすれば柚さんと俺が付き合えるか一緒に考えてください」
ペコリと頭を下げ、そしてそのままカウンター席へと腰を下ろす。
「よっ、他力本願!」
「いや、ホント頼むよ……。
俺一人の鳥頭じゃどうすればいいのか分からんのよ……」
これはマジの事実。
フラれたり断られたりすることが多い現状、どのようにアプローチをすればよいのか、俺自身の成功例が少なすぎる。
というか、成功例なんて無。
これは忌憚なき意見を仰がねば……と、義人を
「綾瀬君の作戦は?」
「『ガンガンいこうぜ!』」
「うわぁ……」
俺の返答を聞いた早乙女さんは、眉間に皺を寄せドン引いていた。
しかし。
生憎、俺にそれ以上の作戦は存在しない。
というか、それ以外に取れる手段もないのが現実問題として挙げられる。
「……ということで、二人に聞きます。
俺はどうすればいいでしょうか?」
すると、俺の問いに早乙女さんはミルクティを作る手を止め、小首を傾げた。
「まぁ……何て言うか、その……。
いきなりアプローチかける前に色々とやることがあるんじゃないかな?」
「と、言いますと……?」
「綾瀬君、柚ちゃんのこと……知ってる?」
「っ……?
もちろんです。
背が高い、可愛い女の子です」
「それは、そうなんだけどさ……」
早乙女さんは本日何回目かもう分からない呆れ顔を浮かべて、俺の目の前にミルクティを置いた。
「アタシが言いたいのは、柚ちゃんのもっと詳しいプロフィールとか……。
要は、その女の子がどんな子で、どんな性格で、何が好きで、って言うのを把握している上でアプローチするのと、何も情報が無い状態でアプローチするのとでは、有効性が変わってくるんじゃないかなーって話」
「うお……、何だか頭良さそう……!!」
「有効性」という頭の良さそうな言葉の響きに浸りながら、俺は早乙女さんの言葉にうんうんと頷く。
「いきなりガンガン来られるのも苦手な子だっていると思うし……。
まずは情報を集めてみる、ってのが大事なんじゃないかな」
そう言いながら、早乙女さんはカウンターの内側にある小さな丸椅子に腰掛け、優しげな笑みを浮かべる。
「……あっ、早乙女さん、一ついいすか?」
すると、それまで黙って早乙女さんの話を聞いていた義人がおずおずと手を挙げた。
「……?
どしたの?」
「早乙女さん、彼氏さんいると思うんすけど、どうやって付き合ったのか、その経緯とか……参考にならないっすかね?」
「あっ、そうですよっ!!
早乙女さん、彼氏いるじゃん!!
どんな感じで付き合ったんですか!?」
すると、義人の言葉を聞いた早乙女さんの頬が僅かに桃色に染まり、恥ずかしそうに「えー……」と視線を四方八方へと彷徨わせる。
「正直……参考にならないというか……何というか……、う~ん……」
腕を組み、モゴモゴと口の中でムニャムニャと言葉を転がす早乙女さん。
しかし、如何せん今俺が欲しいのは他でもない恋愛経験者の意見。
とりとめのない恋バナにこそ、ヒントが隠れている可能性が高い。
「イケメンすか?」
「多分、普通……かな」
「めちゃ高身長とか!?」
「身長は……あんま変わんないかも。
向こうが2、3センチ上……くらい」
「ほえ~、あんま高くないっすね」
高身長女子が好きな俺だけど、早乙女さんも女子の中ではなかなかに身長が高い方ではある。
身長目測には定評のある綾瀬分析を以てすると、早乙女さんは165くらいはあるのではないだろうか?
ともかく平均よりは高く、スラッとした印象。
「部活でエース張ってるとか?」
「帰宅部だし、めちゃくちゃインドア。
アタシから誘わない限り、家から出てこないかな」
はー……。
何だろう。
何か……、イメージが沸きづらいと言うか……。
早乙女さんくらいの美人であれば、絵に描いたような主人公の如き男が隣にいそうなもんだけど……。
それは義人も俺と同じことを思っているようで、意外そうな瞳を早乙女さんへと向けていた。
「えっと……これは、素朴な疑問なんすけど」
「?」
「――――彼氏さんの、何が一番好きなんすか?」
これは……。
義人も思いきったなー、と思うのと同時に、俺としても一番気になったところ。
話を聞いている限り、正直早乙女さんの彼氏に特別なところがあるとは到底思えない。
最早、当初の「作戦会議」という本題からはズレてしまうが、俺は早乙女さんの返答を聞くべく、押し黙った。
「えぇ……。
うん……えぇ……?
マジかぁ……」
早乙女さんは顔を真っ赤にしながらも、何とか義人の疑問に一応の回答をするべく頭を捻っているのが見て取れる。
あーでもない、こーでもないと首を傾げていたが、早乙女さんはやがて蚊の泣きそうな声で、「……アタシを、ずっと好きでいてくれるとこ」と呟いた。
「「……」」
「……」
そして、店内を支配する束の間の静寂――――。
「「……」」
「……」
「……よっ、姉ちゃん。
惚気るねぇ」
「……何か、すいません」
「っ……!!
アタシの話はもういいじゃん!?
本題に戻ろうよ!!」
カウンターをバンバンと叩きながら、顔を羞恥に染め上げる早乙女さん。
……普段大人っぽい人が時折見せる、こういうテンパった姿って可愛いんだなぁ……と、また俺は新たな学びを一つ得た。
「となると……、やっぱまずは情報収集ですかね。
でも、柚さんのことを知っている人に俺達は心当たりもないし……」
一応、柚さんが身に纏う制服から俺と同じ
しかし、我が校は一学年300人強、クラスも8クラスもあるというなかなかのマンモスっぷりであるため、入学から今の今まで学内で姿を見たこともない。
早乙女さんから、柚さんが「二年生」であることを聞きつけ、先週の邂逅以降二年生の教室のあるフロアを歩き回ってみたものの特に収穫も無し。
「それに関しては心配しなくてもいいよ」
「……?」
「
言うが早く、早乙女さんは自身のスマホをフリックし始めていた。
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