第2話 シュルシュタット・ジオリール
フォルモード公国、辺境の町シュルシュタット・ギルド。
王領であるこの地は、第三王子であるジオリールが統治している。国境に面してはいるが緊張感はなく、豊かな土地で穏やかに暮らしている領民たちを見守っている。問題があるとすれば国境近くにある、両国にまたがる小規模な魔の森。もともとはかなり大きな魔の森であったらしいのだが、国境にもなっている大河に分断され、しかも森と森の間にある中洲には魔の森を分断したと証明するように教会が建っていることによって双方の魔の森にいる魔物は川を越えての行き来はしないのである。
そんな森から、時々魔物が出現して領民たちの田畑を荒らし、人を襲って被害を与えることがある。
しかし、この森があることで魔物狩りをする冒険者たちが訪れ、ギルドが建ち、街として栄えるという反面も持っている。おまけにシュルシュタットの町は地形から良質な鉱物が取れることも多く、職人たちも制作工房を構えることが多く、職人ギルドも栄えている。
ジオリールはベッドの中でうんと伸びをすると起きだした。
まだ夜明け前。屋敷の使用人たちが起きだして、朝の支度を始めたころだろうか。素早く一人で身支度を済ませると、足音を忍ばせてテラスにつながる掃き出し窓をあけた。
さらりとした、朝の風が部屋の空気を一掃する。
ジオリールにとっては、待ちに待った朝だった。
シュルシュタットの町は、自分の配下にある武官の一人、リウム・ガルト伯爵に執政を任せている。文武に秀でた逸材で、つつがなくこの領地を治めてくれている。若くして妻を亡くし、以降は側にいてやれなかったと文官に転じた変わり者だが、その理由が三人の娘を育て上げるためであったことは知っている。
だからこの重要な地を執政官として任せた。
魔の森からの侵攻を防ぎ、国境を守るという武の面と、職人の町として有名な街を抱える、商工のトップとして文の面を抱える執政官として如何なく手腕を発揮してくれている。伯爵位としての所領はないが、その分の働きはしているとジオリールは感謝している。
一方、そろそろ引退してのんびりしたいとこの頃は配下を鍛えて後継者育成に努めてる。
そのリウムから、正式に連絡があったのはもう一年近く前になる。
ずっと探していた冒険者チームが、ホームベースであるシュルシュタットの町に帰ってきたタイミングと、自分がこの地に来られるタイミングがずっと合わなかった。
本当は知らせを受けてすぐ、ここに来たかったが、王子という身分はそれを許さなかった。定期的に連絡を受けてはいるとはいえ、早くその人に会いたかった。
叫びだしたくなるほどの興奮がそこにあった。
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