振り返るとそこにはあの日忘れた涙のあとがあった
@gream
第一章
プロローグ
そこはいつも光に満ちていた。
朝も夜もなく、いつもやわらかな明かりが降りそそぎ、庭の木々は決して枯れることがなかった。
そこには学校があり、遊び場があり、食堂があり、子どもたちは日々を忙しく駆け回っていた。
ある子は声を張り上げ、椅子をひっくり返して騒ぎを起こす。
ある子は笑いながら花びらを空へ撒き散らす。
ある子は壁際で震え、なかなか輪の中に入ろうとしない。
ある子は誰彼構わず抱きつき、離れようとしない。
喧嘩も笑いも絶えないが、子どもたちはその賑わいを愛していた。
それが日常であり、彼らにとっての当たり前だった。
やがて、遠くから鐘の音が響く。
子どもたちは顔を見合わせ、静かに列を作って歩き出す。
白い服を着た大人たちに導かれ、光の部屋へと入ってゆく。
そこではまばゆい輝きが待っており、子どもたちは一人ずつその中に包まれていく。
彼らにとっては日課であり、遊びと同じくらい自然なことだった。
その列のなかに、ひとりの少年がいた。
彼はとてもおとなしい子で、いつも人の背中を見つめていた。
騒ぐことも笑うことも少なく、ただ静かにそこにいた。
光を浴びるたびに、彼はふしぎなものを耳にした。
小さなつぶやきのような声。
誰も気づかないが、確かにどこからか届いてくる。
「どうして、あんなことを……」
それはとても切実な、悲しい声だった。
少年は胸の奥でその声を抱きしめるようにして歩いた。
ただ、その意味を知ることはなかった。
町はいつまでも明るい。
影ひとつ落ちないその場所で、子どもたちは今日も遊び、笑い、喧嘩を繰り返していた。
そして少年は、誰も振り返らない背中の向こうに、まだ誰も知らない声の正体を見つめ続けていた。
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