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夜が更け、冷たい風が山頂を吹き抜ける。
水上、
源兵衛は猟師の罠を、巌は地形を活かした防衛策を、そして水上は、それらを
その男たちの張り詰めた議論を、
罠を仕掛け、敵を迎え撃つ。
それは確かに有効な手段なのかもしれない。
だが、ここは
この場所の
「皆様」
志乃の、静かで
「試させてください。私のこの『
彼女は水上を見つめた。
「
その提案は、志乃が最初に口にした「待ち伏せ」という作戦の、大胆な完成形であった。
敵の戦力を
それは、この『鎮めの乙女』にしか実行不可能な
「…なんと」水上は
源兵衛も、深く長い息をつくと、猟銃を静かに床に置いた。「…山のことは、山の主に任せるのが一番じゃ。鎮めの乙女様の
巌だけは志乃の身を案じ、まだ納得しきれない様子であったが、彼女の固い決意の前に何も言うことはできなかった。
志乃は三人の仲間たちに深く頭を下げると、社の中心にある円形の
彼女は目を閉じ、深く、深く息を吸い込んだ。
自分の意識を、再び、この山そのものと同調させるために。
彼女の祈りに
それは
光は志乃の身体を優しく包み込むと、彼女の『鎮めの力』と共鳴し、その輝きをゆっくりと増幅させていく。
やがて金色の光は、社の床から壁へ、そして屋根へと広がり、この
その光は外の闇を払い、山頂一帯を、まるで真昼のように明るく照らし出した。
それはどこまでも穏やかで、清浄で、あらゆる穢れを拒絶する、絶対的な神域が生まれていた。
光がゆっくりと収束し、社の内側へと収まっていくと、志乃はふらりとよろめき、その場に崩れ落ちそうになった。
それを、すぐそばで控えていた巌が優しく支える。
「志乃殿!」
「…大丈夫、です…」志乃は、浅い息をつきながら答えた。「少し、力を使いすぎたようで…。ですが、これで、穢れた心を持つ者は、
彼女の顔は
水上が慌てて彼女に駆け寄る。
「無理もない…。これほどの結界を、たった一人で作り上げたのですから。今は何よりも休むことが先決です」
源兵衛も、外の闇を鋭く見据えながら
「うむ。鎮めの乙女様の言う通りなら、海龍の小僧だけが、
水上の提案で、一行は交代で休息を取りながら、最後の戦いに備えることになった。
夜も更け、皆、これまでの過酷な道のりで
結界によって一定の安全は確保されたとはいえ、敵がいつ現れるか分からない状況で、緊張の糸を完全に解くことはできない。
まず、水上と巌が、志乃が用意した最後の握り飯と干し肉を、交代で口にした。
その間、源兵衛は一人、社の外に出て、玄洋会が登ってくるであろう唯一の道筋に、何かを仕掛け始めた。
それは人を殺めるためのものではない。
この神域を穢さず、侵入者を拒むための猟師の知恵であった。
彼はまず、周囲の植物を注意深く
やがて、ふと古い岩にびっしりと生えた、とある
月の光を浴びて、まるで銀の粉をまぶしたかのように微かに輝いている。
このような苔は、彼も見たことがなかった。
しかし長年の猟師の
彼は、山の主に断りを入れるように小さく手を合わせると、その不思議な苔を少量、慎重に
そしてそれを、丈夫な蔦に丁寧に塗り込み、ぶつぶつと古い
彼はその縄を、敵が必ず通るであろう狭い岩場の道筋に、膝の高さに低く張り巡らせた。
「…よし」源兵衛は、
それはただの罠ではなく、古くから伝わる魔除けのまじないであった。
やがて源兵衛が戻ると、今度は水上と巌が見張りに立ち、源兵衛が食事を取る。
その間、志乃は巌が用意した獣の毛皮にくるまり、社の壁に身を寄せていた。
彼女の疲労は極限に達していた。
(お父様…)
そして懐から、帝都を発つ前に八坂翁から渡された、木の
それは山の神々の怒りを鎮めるという、古いお守り。
志乃は、その滑らかな木肌を、祈るように固く、固く握りしめた。
不思議と心が落ち着いていく。
護符の何気ない温もりが、力を使い果たした彼女の心に、新たな力を注ぎ込んでくれるようだった。
やがて志乃の意識は、深く穏やかな眠りの底へと、静かに沈んでいった。
山頂の夜は静かに更けていく。
清浄な結界に守られた社の中で、三人の男たちは来るべき決戦の時に備え、そして乙女は、次なる奇跡のための束の間の休息を得ていた。
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