38
四本の
一行はさらに深く、そして神秘的な山の気配が満ちる、未知の領域へとその足を進めていった。
笹竹の
これまではただの深い山であったが、ここから先は、目に見えぬ
鳥の声さえ聞こえず、風の音も何もかも、吸い込まれているかのようだ。
先頭を行く
彼は、もはや猟師としてではなく、この
水上は、
針が、まるで狂ったかのように定まらず、くるくると回り続けている。
科学の理屈が通用しない場所に、足を踏み入れたのだ。
最後尾の
彼の目は、もはやただの人間や獣を追っているのではない。
木々の影、岩の形、その全てに
そして
彼女の『
(…いる)
彼女には分かった。
木々の
それは敵意とは違っていた。
むしろ好奇心と、自分たちの領域によそ者が入ってきたことへの、純粋な警戒心にように思えた。
見知らぬ彼らは恐らく、この山の古くからの住人なのだ。
志乃は、巌から教わった呼吸法を続け、自らの気配を消し、ただ「お邪魔いたします」という敬意の念だけを、心の中で静かに送り続けた。
どれほどの時間が経っただろうか。
一行が、巨大な一枚岩を回り込むようにして進んだ、その時であった。
不意に視界が開けた。
そこは、
中央には、人の
その水は小さな池を作り、そして静かに森の奥へと流れていた。
池の周りには陽光が、まるで天からの光の柱のように、まっすぐに差し込んでいる。
その光を受けて
空気はどこまでも清浄で、甘い花の香りに満ちている。
ここが『
一行は、そのあまりに
ここだけが、三十年前の悲劇からも、人の世の
「……
志乃は、ゆっくりと泉のほとりへと歩み寄ると、その冷たくありながら優しさをも感じる泉水に、そっと指先を浸した。
母もこの場所で、自分と同じように、この清らかな水に触れていたのだろうか?
その時、それまで静かに周囲を観察していた水上が、不意に「ん…?」と、低い声を漏らした。
彼は、泉を取り囲む苔むした岩の一つを、鋭い目つきで
「どうかなさいましたか、水上さん」
志乃の問いに、水上は興奮を抑えきれない様子で答えた。
「志乃さん、源爺殿、巌殿、こちらへ。…これは、驚いた。ただの自然の造形ではないようです」
三人が水上の元へ集まると、彼が指差す岩の表面に、苔と土に覆われながらも、明らかに
それは、渦を巻くような古代の文様であった。
「
水上は、懐から手袋を取り出すと、慎重に岩の表面の苔を払い始めた。
すると、その下に隠されていたものが姿を現した。
泉を取り囲むようにして、いくつかの巨石が規則的な配置で並べられている。
そして、それぞれの石には、太陽や月、あるいは蛇のような動物を
「…
その発見は、一行に新たな衝撃をもたらした。
彼らが足を踏み入れたのは、日本の歴史が始まる以前の、名もなき古の民が大自然への祈りを捧げた、
「だとしたら…」志乃は、息を呑んで言った。「
「いや」水上は、きっぱりと首を振った。「彼らが頼りにしているのは、陸軍の近代的な測量地図と、神社の場所を記した文献だけのはずです。このような、土に埋もれた古代の祭祀場の存在にまで考えが及ばなかったでしょう。これは、我々だけが手にした、大きな
水上の言葉は、一行に希望を与えた。
しかし、それと同時に、彼らがこれから
彼らはただ、魂を
この地に眠る、数千年の時の記憶そのものと、向き合おうとしているのだ。
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