第19話 ニュース

「カタリナ様、おはようございます。身支度は、私どもがお手伝いさせていただきます」


 マースがさっとお辞儀すると、今度は入れ替わりにモントともう一体ゴーレムが入ってきた。こちらも初めて見るゴーレムで、卵色に金色に光るラメのような物が入ったボディで、金色の切れ長の目がついている。


 金目のゴーレムはカタリナにお辞儀をしてから自己紹介をした。

「はじめまして。私は、裁縫ゴーレムのヴェーヌスです。カタリナ様のドレスを製作させていただいています」


「ちょっと、待ってモント……もしかしてだけど、この家にはゴーレムしかいないの!?」


「はい。さようでございます」

 モントはにっこりと微笑んだ。


 さっき、マースがシュテルンは人手不足だと言う話をしていたが、まさか家の使用人が全てゴーレムだとは思わなかった。


「他にはどんな子たちがいるの?」


「調理ゴーレムや庭師ゴーレムなど、他にも沢山いますよ。また、会った時にご紹介させてくださいませ」


「はい……」


 いったい何体のゴーレムがいるのか、カタリナには見当もつかなかった。


「カタリナ様、この中からお召し物をお選びください」

 ヴェーヌスはカタカタと衣服が吊られたハンガーラックを部屋の外から持ってきた。そこに吊られた服を見てカタリナは驚いた。


「わぁ、パンツスタイルのがある! 私、スカートより動きやすいから好きなんだ!」


「気に入っていただけて良かったです」

 ヴェーヌスはほっと胸を撫で下ろした。


 身支度が済むと、モントの案内で一階の違う部屋に移動した。その部屋には大きな食卓があり、美味しそうな朝食が並べられていた。

 それを見たカタリナはぐうっと腹がなった。

「恥ずかしい、お腹なっちゃった」


 モントは笑った。

「二日も寝込んでいたのですから、当然でございます」


「え? そんなに寝ていたの?」


「はい。熱も高くて心配しておりましたが、回復されて何よりです。さぁ、おかけになって食べてくださいませ」


 カタリナは席につき、甘い香りのするコーンスープを飲んだ。スープが体の中に入ると、体が温まり、ほっとした。

「美味しい…… なんだか、母の味を思い出すよ」


 カタリナはゆっくりスープを飲みながら、部屋の中を観察した。大きな窓があり、涼しい風と花の香りが部屋の中に入ってくる。どうやら庭があるらしい。後で見に行ってみよう。

 他には壁に大きな黒いガラス板が吊るしてあった。カタリナの知らないものだったので、モントに質問した。


「モント、その壁に吊るしてある、黒い板はなに?」


「こちらは映像板という魔道具でございます。使って見ますか?」


 カタリナが頷くと、モントは部屋の端にあった棚から、黒くて細長い道具を出して、スイッチを押した。

 すると、先程まで黒かった映像板に映像が映った。音楽まで流れてくる。しかも、その映像にカタリナは見覚えがあった。


「……これって……私の結婚式じゃないの!?」


「そのようですね。ここ数日はこのニュースでもちきりでございます。朝から晩まで、何度もかかっていましたよ」


「恥ずかしい…… これって、他の人も見るの?」


「はい。我が国の映像板の普及率は、貴族や裕福な商人ではほぼ100%、平民でも公共の場所で見る人が多いですから、シュテルン国民は皆見たのではないでしょうか。

 後は、諸外国にも輸出していますので、国外の貴族なども見ているかもしれませんね」


「そ、そうなんだ……」


 カタリナは初めてのことにただただ驚いた。メイヤーとシュテルンの生活はどうやらかなり違うらしい。


 カタリナはスープを飲みながら、自分の結婚式の様子を眺めた。


 クルトが自分の額にキスをしているシーンが流れて、カタリナは顔から火が出そうだった。恥ずかしすぎて、どうにかなってしまいそうだ。


「モント……やっぱり、消して……恥ずかしすぎて、食事が進まないから」


「……さようでございますか」


 モントは少し残念そうに映像板の映像を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る