第8話 白いゴーレムのモント
『当機はまもなく着陸態勢に入ります。シートベルトを緩みのないようにお締めください』
メルクールの抑揚のあるアナウンスが聞こえ、カタリナは窓から外を見た。
「あら…… 天気が悪いわね……」
カタリナの隣に座っていた母はシュテルン王都であるルリンの空を見て肩を落とした。
ルリンの上空には灰色の分厚い雲がかかっていた。
結婚式会場である教会の横に着陸した飛空艇から、メイヤー家一行がメルクールに案内されながら降りてきた。
搭乗橋から教会の前に出ると、メルクールと色違いの白いボディに赤色の目をしたゴーレムが一行の到着を待っていた。
「お待ちしておりました。新婦様のご準備を担当致します、モントと申します。結婚式以降も殿下の身の回りのお世話を致します。よろしくお願い致します」
モントは恭しくお辞儀をしたように見えた。メルクールと同じ、石の体のため人間と同じ動きは難しいのだろう。
結婚の申し込みの使者もゴーレムで、新婦の準備までゴーレムが担当することにカタリナは驚いたが、愛嬌のあるメルクールを見慣れてしまったためか、嫌な気はしなかった。
「ごほ、よろしくお願いします。モント」
「……殿下、少々よろしいでしょうか」
モントは、そう言うと目から赤色の光を出して、カタリナの頭の先からつま先まで光を当てた。
メルクールがカタリナの体を採寸する時に使っていたので、ドレスのサイズの最終確認だろうか。
「……ありがとうございます。殿下の他に体調に異変のある方はいらっしゃいますか?」
モントはカタリナの後ろにいたメイヤー家一同に聞いた。全員、首を横に振っている。
「モントさん、ごめんなさい。大事な式の日に風邪など引いてしまって…… 朝、国を出た時は何ともなかったのだけど……ごほ」
「いえ、私に詫びる必要はございません。お気になさらないでください。
では、新婦様は私が。新婦様のご家族様はメルクールが案内致します。付いてきてくださいませ」
「その、モントさん…… 娘の支度は、私も手伝いましょうか?」
出発しようとしたモントを母が呼び止めた。
ゴーレムが花嫁の支度をできるものなのか不安なのであろう。
「メイヤー王妃殿下、完ぺきに美しく仕上げますのでご心配には及びません。
準備が済みましたら、ご家族様をお呼びいたしますので、それまで控室でお待ちください。さぁ、どうぞ、ついてきてくださいませ」
そこまで、言われると何も言えなくなってしまったのだろう。母は大人しくメルクールの後をついていった。
※
「さぁ、完成いたしましたよ。鏡をご覧くださいませ」
モントに言われ、大きな姿見に映る自分を見て、カタリナは驚いた。
「すごい! これが私?」
鏡の前には白いエンパイアラインのドレスを着たカタリナが立っていた。振り返って見ると、背中側にはシフォン素材の長くてボリュームのあるリボンがあしらわれ、羽が生えているようで可愛らしいデザインだった。トレーンも長く大きな会場でも映えそうだ。
「お美しいです! 殿下! 私、感無量でございます!」
「モントさん、こんなに綺麗にしていただき、ありがとうございます」
「殿下、どうぞ、『モント』と呼んでくださいませ。これから、長い付き合いになりますから」
「じゃあ、私のことも名前で呼んでね。ごほ
私、自分の髪色と目の色がコンプレックスだったの。草みたいだから、馬鹿にされることもあって……」
馬鹿にしてきたのは、ダーニャだけだったが、カタリナは酷く気にしていた。
「私は、そうは思いませんわ。物語に出てくる妖精のようで、お美しいと思います」
カタリナは満面の笑みで微笑んだ。
「嬉しい! ありがとう、モント!」
カタリナはメルクールとモントのおかげで、すっかりゴーレムの事が好きになっていた。体の形こそ同じだが、それぞれ個性があり、メルクールもモントも親切だったからだ。
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