第1話 はじめちゃん人形(改訂版)
怖い話ねぇ……あ、これ、親戚のおばさんから聞いた話なんだけどね。
そこの家の娘さんは小さい時に人形を買ってもらったんだって。それが女の子の人形でなくて珍しく男の人の人形。多分着せ替え人形のボーイフレンドとかお父さんみたいなそんな人形じゃないのかな。
娘さんはその人形に「はじめちゃん」って名前を付けてすっごく大切にして可愛がったんだって。
もうどこに行くにも一緒で、はじめちゃん人形にはいつもスーツを着せて、時々眼鏡を掛けさせたりして。
「ちょっと変わってるけど、まあいつか飽きるでしょ」って親も放置してたんだけど、その子、小学生になっても親に内緒でこっそり学校にそのはじめちゃん人形を持って来たりしてたの。
なんでそれが分かったかって言うとね。その子が小学生3年生のある日、変質者のおじさんに襲われたんだって。
女の子が鳴らした防犯ブザーの音を聞いて、近所の人が駆けつけたら、そこには目の辺りを抑えてのたうち回る変質者と血まみれのはじめちゃん人形、そして変質者の目玉が一つ、ころんと落ちていたんだってさ。
女の子に事情を聞いても「はじめちゃんが助けてくれた」としか言わないの。
でもまさか人形が変質者に飛びかかって目玉くり抜くなんてありえないでしょ?
かと言って小3の女の子が大人の男の目玉をくり抜いたなんてのも無理があるしね。
結局、錯乱したおじさんが自分でくり抜いたってことになったみたいよ。
そんなこともあってか、女の子はますますその人形に依存しちゃってね。
中学生になってもずっとはじめちゃん人形を手放そうとしなかったんだって。
それどころか女の子の部屋から、たまに女の子と男の人の話し声が聞こえてくるようになったらしいの。それも恋人同士がするような甘い感じの会話。
彼氏と電話でもしてるのかなと思って、その子のお母さんがそっと部屋を覗いたら彼女、ずっとその人形とニコニコ笑いながら話してたんだって。
女の子の一人二役なのか、そうでないのかは分からないけど、一人二役でも結構不気味でしょ。
とにかくさすがに親も気持ち悪がって、人形を取り上げようとしたんだけどその度にその子半狂乱になって暴れたらしいの。
こっそり人形を隠したりもしたんだけど、家中ひっくり返して探して人形を見つけるなり、
「はじめちゃん!」
って涙流して抱き締めて頬擦りしたんだって。
その様子が、さながら再会した恋人にするような感じに見えちゃったようで、親御さんどうしていいか分からなくなったそう。
結局、高校生になっても彼氏も作らずにはじめちゃん一筋なわけ。
その内恋人同士の会話どころか夜のアレ……の声も、部屋から漏れ聞こえるようになって、ますます親も不気味がっちゃったの。
それで、大学生になった彼女は県外で一人暮らしをすることになったんだって。
もちろんはじめちゃん人形も一緒に。
それで彼女も社会人になって何年かした頃、結婚したい相手がいるって彼氏を実家に連れてきたんだって。
スーツの似合う長身の男の人で、「はじめ」って名前の。
ふふっ、いやいやまさか。まさか、人形が人間になるわけないでしょ。
なれたところで戸籍とかどうなのって話。
人形に似た男を選んだに決まってるでしょ。きっと。
でもその女の子、ぽろっと言ったんだって。
「はじめちゃんが出す条件が多過ぎて、乗っ取る体を選ぶのに時間かかっちゃった」って。
あんまり怖過ぎて、両親も聞こえない振りしたらしいよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます