第4話『結先輩と生き霊女子〜恋は呪いより厄介だ〜』

 放課後・オカルト研究同好会 部室


「……先輩、その本何です?」


「これ? “霊と恋愛感情の関連性について”っていう研究論文。たまたま図書室で見つけて、気になってさ」


「ほぉ〜、恋愛ねぇ……」


 修は、チラッと結先輩の黒髪&メガネに目をやりつつ、話題を広げる。


「実際、“生き霊”って恋愛系多いですよね。

“好きすぎて出ちゃった!”とか、“嫉妬で念飛ばしちゃった!”とか……」


「にゃーん(女の情念は霊界にも届くからな)」


「ノクス、そんなセリフ似合うの?」


「にゃっ(バカ野郎、若い頃は女にモテまくったんだぞ)」


「え、それ何年前の話……?」


 と、そのとき――部室の扉が、ノックもなしに勢いよく開く。


「きゃあっ!? な、なに!?」


 入ってきたのは、文学部の1年生・薄倉 梨花(うすくら りか)。

セミロングで目元が暗く、薄幸そうなオーラを纏っているが……なぜか妙に可愛らしい。


「すみません……あの……“呪われてるかもしれない恋”について、相談が……」


○○○○○


 事情聴取中


「……その……彼の事、すっごく好きで……

でも、告白する勇気が出なくて、ずっと遠くから見てたんです……」


「ふんふん」


「でも、最近彼、変なことばかり言うようになって……

“俺の部屋に毎晩誰か立ってる”とか、“枕元で女の声がする”とか……」


「うんうん、それ典型的な生き霊ですわ」


 修、即断。


「えっ!? そ、そんな簡単に!?」


「もう99%本人の想念っす。

“想いが強すぎて幽体が本人より先に行く”パターン。よくあるんで」


「で、で、それで……どうしたらいいんでしょう……?」


 修が、ふと目を伏せる彼女をじっと見る。

そのとき、ノクスが「シャッ!」と飛び上がった。


「にゃっにゃにゃー!(コイツだ!今もすでに2体ぐらい出てるぞ!)」


「ノクスが、“生き霊、本人から出てる”って」


「ひいぃ!?」


 恋する生き霊、暴走!


「まってください! ほんとに好きなだけなんです!

嫌な事は何もしてないはずで……」


 バチバチッ!


 彼女の背後に、ぼやけた女のシルエットが2体現れ始める。


「……おいおい、本人無自覚なのに、すでに生き霊量産マシーンかよ……」


 修がスマホを操作し始める。


「“生き霊引っ込みアプリ”、起動。これでとりあえず強制送還できます」


「え、そんなアプリあるの?」


「うちのばあちゃん、元祓い師なんで。こういうのだけは知識豊富なんす」


 ピコン。


 スマホから発せられる特殊音波と、お札型の画面アニメーション。


 生き霊たちは「シュルシュル」と音を立てて彼女の身体に戻っていった。


 梨花は、その場にぺたんと座り込む。


「……私……そんなに……重かったんですね……」


「いや。“想いが強すぎる”ってのは、呪いと紙一重なんで。

ただ、悪意がなかったから戻せたし、相手にも届いてないと思いますよ」


「……ありがとう、ございます……」


○○○○○


 帰り道


「恋って、幽霊より厄介ですね……」


「先輩もそんな事言うんだ……」


「うん、今日ちょっと思った」


「……」


「……」


風が吹いた。


「先輩って、好きな人いるんですか?」


「え? え、え、え、急に? な、なんでそんなこと聞くの!?」


「いや、ほら。恋と霊の話してたから」


「そ、そういうのは、また今度ね!?」


「……にゃ〜ん(バーカ、鈍感すぎだろお前)」

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