Realive:リアライブ

ichita

1話目:死者達のステージ

目を開けると、そこには眩い派手な舞台セット。

まるでクイズ番組の撮影現場のようだった。

俺は目を擦り、自分が夢の中にいるのではないかと錯覚に陥るが、その光の眩しさは眠い頭を起こすような刺激的な強い光だった。


その中央に、8人の少年──高校生たちが集められている。

俺が周囲を見渡すと、制服は揃っておらず、同じ高校のものもあれば、見慣れない制服もあった。


わけも分からず連れてこられたのか、何人かは寝たり、その場所で、ただ呆然と立ち尽くしている奴も居る。スポットライトの下に並ぶカメラ群、煌びやかな照明、モニターまで備えられた完璧なセット。

まるで、本当にテレビの収録でも始まりそうな雰囲気だった。


俺は状況を把握できずとりあえず頭を搔いていると、最初に口を開いたのは赤い短髪の青年。


「んだよ、これ。俺なんでここに?」


彼も辺りをきょろきょろと見回し、背後の光るセットを見上げる。

そのすぐ後に、同じクラスの猫川が声を上げた。


「うわ、すげー!!本物のテレビセットみたい!えっとー番組名……はぁ??」


猫川は番組の背後にある大きなロゴ看板を見て口をポカン、とする。


その隣にやけに背が高く、物静かな雰囲気を持つのはタクヤ。

俺とは1年の頃から同じクラスで、2年になった今も席も近く、気づけば自然と友達になり、信頼するようになっていた。


タクヤが静かに告げる。


「『生き返り大作戦⭐︎頭脳で人気を勝ち取ろう~視聴者参加型~』……だ、そうだけど。何これ。おい、ジュン何だこれは」


「知らねえよ」

俺は首を振る。


背後の煌びやかな電飾に飾られたタイトルは、本格的なテレビ番組そのものの出来栄えだった。

これは……本物の番組か?


その時、さっきまで寝ていたであろうクラスメイトの俊が、スタジオの収録現場の出口を探すように、軽い足取りで歩き出した。そこまで大きくはないようで、セット以外黒い背景とカメラが収まっている範囲の広さらしい。

しかし、ぐるりと一周して戻ってきた彼は、眉を寄せて言った。


「ねぇ、出口……ないんだけど」


ぶりっ子の、俊。

セーターで萌え袖を作り、よく襟足をいじっている。男子校ではあるが、今の時代は多様性というやつで、彼はよく告白されているという噂がある。



俺も、クイズ番組のようなセットをゆっくりと探索してみることにした。


中央には円卓が置かれ、それを囲むように8脚の椅子。また上と下にモニターが全角度ついていて、座りながらでもモニターを確認できそうだ。

そして、それらの机や椅子を取り囲むように何台ものカメラが設置されている。どれもこちらにレンズを向け、まるで出演者ひとりひとりの表情を余すことなく映し出すつもりのようだった。 机には小型カメラ。まるでリアクション芸人がつけてるような物だ。



―突然、室内が一斉に暗転。

驚いて声を上げそうになる中、真ん中の円卓――8脚の椅子が並ぶ机だけが、スポットライトに照らされた。


その直後、セット中央のモニターが自動で点灯し、機械的な合成音声が流れ始めた。

画面はザラザラとしたままのノイズ、不気味に揺れている。


―― MC

\ようこそ!視聴者参加型リアルバトルショー/

「生き返り大作戦⭐︎頭脳で人気を勝ち取ろう、へ!!」



「本番組は、視聴者の皆様の投票によって勝者と脱落者が決まる、新感覚サバイバルゲームです!【既に死んでいる】君たちの中から 勝ち残った1名には、生き返れる豪華商品付き!ちゃんと死んだのも世間は忘れてくれる⭐︎ 」



「……は?死んでる??」


「え?いや、意味わからないんだけどぉ~~~~?なになに」


「おい、ふざけてないでここから出せよ! 帰りてェんだよ!」


戸惑いと怒号が、セット内のあちこちから噴き出す。

それと同時に、中央のモニターの下に設置されたスクリーンに、視聴者からのコメントが次々と表示されていった。

右から左へと流れていく。


『待ってました!』

『やっときたーーー!』

『早く始めて!』

『地獄の準備OK』


え?

なんだこれ、……これ、生配信されてる?


冗談みたいな演出が、急激に現実味を帯びていく。

豪華な照明とセットがまぶしい中、端で黒髪の気弱そうな少年が震える声で呟いた。


「帰り、たい………」

「ホント、わけわかんねぇよ」


理由はどうあれ、それは皆が心の奥で思っていることだった。この得体の知れない空間から一刻も早く抜け出し、普通の景色へと戻りたい。今日は帰って生放送を見たい。


「なんやエライ豪華な演出やな!! 俺こういうの憧れててん!なぁなぁ、ちょっと遊んでみいひん?せっかくやで?な?」


場違いなほど明るく響いた関西弁がスタジオに響く。思わずタクヤが呆れたように肩をすくめた。

俺はもう一度、全体を見回して言った。


「おいおい、ふざけてる場合か?いつもなら遊びてーけどさ、出口がないって言われちゃあ、まずなんとか出口見つけようぜ。見たい生放送があったような…」


あったような?

俺は少し違和感を覚えた。


関西弁の奴は、俺の言葉にムーッとした顔をしながら頭の後ろで手を組み、セットの真ん中に置かれた椅子に腰を下ろしてゆらゆらと揺れた。だが、次の瞬間、そのむくれ面は一変する。


そいつは緑のセーターを着て目をキラキラさせ八重歯をやんちゃに剥き出して騒ぎ始めた。


「っちゅーか!おいマジで!?アンタ、人気配信者のよーすけちゃう!?」


一斉にその視線が、茶髪の少年へと注がれた。


やる気のなさそうな表情、軽く首を傾けたその仕草は妙に絵になっていて、紫色の瞳がどこか不思議なオーラを放っていた。


「あぁ、知ってたの。ありがと。そーだよ、俺、よーすけ。本物~」


そういうとポケットに入れて顔を出させていた猫のぬいぐるみを取り出し、軽く手を振って、ファンサービスでもしているような態度。……そう言えば、俺もどこかで見たことがあった気がする。


「あ!人形レビューしてる奴か!スパチャすげー貰ってて、羨ましいとは思ってた!なんか数回見たことあったわ」


確か、配信サービスで高額スパチャを投げると、読み上げてくれる仕組みだったな。俺も時々動画を開いては、金額に驚かされていた。俺のクラスで配信サービスが流行っていたからスマホに入れてみて数日だけ見てた。だが、あまりハマらなくて結局はもう開いてない。


「ほな、俺のことはペー君って呼んでや!有名人と会えるなんて最高やわ~~!」

死んでいる、の単語にそぐわない明るい声がスタジオに響く。



―本当に見られているにも関わらず、俺らはまだ“他人事”のままだった。

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