第5話

魔王城、最上階。玉座に座る魔王マオは、部下である魔王軍四天王を前に、一枚の紙を読んでいた。

​「また、人間界で変な噂が広まっているようだな」

​マオは、莫大な魔力を持ち、無数の魔法陣を展開できるが、実際に放てる魔法は初期回復魔法のみ。その事実を知る者は、ごく一部の側近のみだ。大抵の魔族は、マオの膨大な魔力にひれ伏し、実際の力を目の当たりにしたことはない。

​魔王マオの視点

​「……『カゲロウを打ち破った剣士がいる』だと? フン、あの裏切り者が負けるはずがないだろう。それに、その男の剣術は『農家の心得』? 馬鹿馬鹿しい」

​マオは、紙を投げ捨てた。彼は、カゲロウが自分に忠誠を誓った、最強の戦士だと信じている。そのカゲロウが、農家の息子に負けるなど、信じられなかった。

​「しかし……『剣を捨てて大商人になった』、『胡散臭い古武術の師範を打ち破った』、『魔王軍幹部を倒した』……この男は、一体何者なのだ?」

​マオは、その男の存在に、ほんの少しの興味を覚えた。彼の膨大な魔力を使えば、その男の正体など、一瞬でわかるだろう。だが、彼は、あえてその力を使わなかった。

​「フフフ……面白い。その男の旅路を、もう少し見てみようではないか」

​魔王軍四天王の視点

​1. カゲロウ(人類の裏切り者)

​「……アルフ、か。私は、確かに闘技場で敗北した。しかし、それは、私の敗北ではない」

​カゲロウは、静かに言った。彼は、マオに忠誠を誓っているが、彼の心には、アルフとの戦いで感じた、奇妙な感覚が残っていた。

​「あの男は、私の**『絶望』を、『希望』**に変えてしまった。私の敗北は、魔王の敗北ではない。だが……いつか、あの男の旅路を、この目で見届けてやらねばなるまい」

​2. ミス・ミラージュ(手品師)

​「あら、あの男が、カゲロウを倒したのですって? 面白いわね」

​ミス・ミラージュは、指をパチンと鳴らすと、小さな花を出現させた。彼女は、魔法は一切使わず、手品師として、あらゆるものを操ることができる。

​「彼の戦いは、まるで最高のショーだわ。観客を熱狂させ、そして、奇跡を起こす。彼の**『英雄譚』**は、私の手品にも似ているわね。いつか、彼と私の技が、どちらがより人を驚かせることができるか、試してみたいものだわ」

​3. フェリクス・フェイト(レジェンドギャンブラー)

​「クックック……あの男は、最高のギャンブラーだ。我々の予想をはるかに超えた行動で、勝利を掴んでいく」

​フェリクス・フェイトは、コイントスをすると、必ず表になる。彼は、運命すらも操る、伝説のギャンブラーだ。

​「彼の旅路は、最高の賭けだ。彼は、自分の人生を、そして仲間たちの人生を、最高の賭けに投じている。いつか、彼と私の運命を賭けたギャンブルが、どちらが勝つか、試してみたいものだわ」

​4. リュミナ・クロウ(ビーストテイマー)

​「……あの男は、まるで子猫のトラをテイムしているかのようだわ」

​リュミナは、静かに呟いた。彼女の肩には、小さな子猫のトラが乗っている。彼女は、どんな凶暴な魔獣でも、手懐けることができるビーストテイマーだ。

​「彼は、一見すると無力な三人の娘たちを、最強の仲間として手懐けている。それは、私のテイムとは違う、真の絆だわ。いつか、彼が、私の操る最強の魔獣と戦う日が来るかもしれないわね」

​魔王と四天王は、アルフの噂に、それぞれの興味と関心を抱いた。彼らは、アルフの旅を、それぞれの視点から見つめる。

​アルフの旅は、ここから、魔王軍を巻き込む、壮大な物語へと発展していくのかもしれない。


​闘技場での優勝から数日が経った。

​僕の周りの世界は、一変していた。街を歩けば、人々は僕を指差し、「英雄アルフだ!」と歓声を上げる。酒場に入れば、僕の隣に座り、カゲロウを倒した時の話を聞きたがった。

​僕は、その歓声に戸惑っていた。僕は、ただ、仲間たちの支援を信じて、がむしゃらに戦っただけだ。カゲロウを打ち破ったのは、僕一人の力じゃない。三馬鹿トリオが、僕の「真面目さ」を信じ、彼らの「ギャンブル」を僕の勝利にかけたからだ。

​しかし、人々は、僕の真実を信じてくれない。彼らが信じているのは、ザビエラが語り継いだ、派手で、嘘が混じった英雄譚だけだった。

​(僕は、英雄なんかじゃない……)

​僕は、自分の心の中にある、偽りの「英雄像」に、もどかしさを感じていた。

​その日の夜、僕は宿屋の自室で、金貨が詰まった袋を前に、頭を抱えていた。僕たちは、闘技場でのギャンブルで、莫大な富を得た。このお金があれば、一生遊んで暮らせるだろう。だが、僕は、そのお金に何の価値も見出せなかった。

​その時、コンコン、とドアがノックされた。

​「にゃーん!アルフ、入るにゃん!」

​ネルが嬉しそうに飛び込んできた。その後ろには、ミラとザビエラもいる。

​「アルフさん、わたくし、素晴らしいことを思いつきましたわ!」

​ミラが目を輝かせた。

​「にゃはは!このお金があれば、最高の遊び場を作れるにゃん!」

​ネルが、金貨の袋を抱えながら言った。

​「アッシの語りが、この街だけでなく、世界中に広まったッス!この物語を、さらに壮大なものにするッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​彼らは、僕が抱えている葛藤には、気づいていないようだった。彼らにとって、僕の勝利は、ただの「成功」であり、次の「遊び」の始まりに過ぎなかった。

​僕は、三人の笑顔を見て、決意を固めた。

​僕の真実と、彼らの「嘘」の英雄譚。このままでは、僕の旅は、いつまでも彼らの手のひらの上で転がされるだけだ。

​僕は、立ち上がり、三人をまっすぐに見つめた。

​「みんな、次の街へ行こう」

​僕の言葉に、三人は目を丸くした。

​「え、もう行くにゃん? お金、まだたくさんあるにゃんよ?」

​ネルが不思議そうに言った。

​僕は、彼らの言葉を無視し、続けた。

​「この旅は、まだ始まったばかりだ。僕は、まだ本当の意味で、英雄になってない」

​僕は、三馬鹿トリオを、僕自身の真実を証明する旅に、連れて行くことを決意した。

​僕の旅は、ここから、僕自身の「英雄」としての道を、世間に広まる「噂」に負けない、確固たるものにするための旅へと、変わっていったのだ。



ユグドラシルへの旅路

​闘技場での優勝から数日が経った。アルフと三馬鹿トリオは、新たな旅路へと足を踏み出していた。次の街は、エルフの故郷、ユグドラシル。その道中は、これまでの旅とは全く異なるものだった。

​ユグドラシルへと続く道は、巨大な樹木が生い茂り、神秘的な光が差し込んでいた。空気は清らかで、心が洗われるようだ。

​「にゃーん! この森、すごい魔力を感じるにゃん!」

​ネルが嬉しそうに言った。

​「そうですわ! わたくしの故郷ですわ! この森の美しさが、わたくしの舞踏の源ですわ!」

​ミラが優雅に、だが興奮した様子で叫ぶ。

​「アッシの語りでは、この森は『精霊の森』ッス! 最高の物語が生まれる予感がするッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​アルフは、三人の言葉を聞きながら、静かに森の奥へと進んでいった。その道中で、彼は、旅人たちの噂話に耳を傾けた。

​「魔王軍の幹部、四天王の噂、聞いたか?」

​「ああ。カゲロウって奴は、闘技場で英雄に負けたらしいが、他の四天王は、まだ健在らしい」

​「手品師のミス・ミラージュ、レジェンドギャンブラーのフェリクス・フェイト、ビーストテイマーのリュミナ・クロウ……どれも一筋縄じゃいかない奴らだ」

​アルフは、その噂に、胸が高鳴った。彼の旅は、闘技場で終わったのではない。ここからが、本当の物語の始まりなのだ。

​偽りの姫、マオの登場

​ユグドラシルに到着したアルフは、街の広場で、一人の少女と出会った。彼女は、美しい金色の髪を持ち、その顔には、まるで絵画のような完璧な美しさが宿っていた。

​「あら、あなた方が、噂の英雄アルフ様ですの?」

​少女は、微笑みながら、アルフに近づいてきた。その声は、まるで鈴の音のように美しかった。

​「僕は、ただの……アルフです」

​アルフが戸惑いながら答えると、少女は、くすくすと笑った。

​「わたくしは、このユグドラシルの姫、マオと申しますわ。噂に聞く、あなたの強さ……わたくし、ぜひ、その実力をこの目で見たいのですわ」

​少女の言葉に、アルフは困惑した。その時、三馬鹿トリオが、少女の言葉に反応した。

​「にゃーん! 姫にゃん! すごい! でも、なんか、この人、変な感じがするにゃん……」

​ネルが、少女の周りをウロウロしながら、不思議そうな顔をした。

​「そうですわ! この方の魔力、とんでもない量ですわ! でも、その魔力、まるで、何かに蓋をされているようですわ……」

​ミラが、少女の身体をじっと見つめ、そう言った。

​「アッシの語りでは、この方は、最高の物語のヒロインッス! でも、どこか、悲しい物語を背負っているように見えるッス……!」

​ザビエラが、ノートにペンを走らせ、真剣な顔で言った。

​アルフは、三馬鹿の言葉に、マオの正体が、ただの「姫」ではないことを悟った。その時、マオの瞳に、冷たい光が宿った。

​「お見通しですわね。わたくしは、魔王マオ。そして、噂に聴くあなたの実力を測るために、魔王城から飛び出してきたのですわ!」

​マオは、そう言い放つと、彼女の身体から、膨大な魔力が解き放たれた。それは、アルフがこれまでに感じたことのない、圧倒的な力だった。


​魔王の魔法陣

​「お見通しですわね。わたくしは、魔王マオ。そして、噂に聴くあなたの実力を測るために、魔王城から飛び出してきたのですわ!」

​マオは、そう言い放つと、彼女の身体から、迸る魔力の本流が解き放たれた。それは、大気の脈動と共鳴し、空間そのものを揺るがすほどの圧倒的な力だった。

​マオが、両手を広げると、彼女の足元に、七色に輝く七重の魔法陣が展開された。それは、完璧な幾何学模様を描き、その美しさは、見る者を魅了し、同時に恐怖を植え付けるものだった。

​マオは、その魔法陣に満足げな表情を浮かべた。

​「クフフフ……。わたくしの膨大な魔力と、この魔法陣があれば、あなたのような人間など、一瞬で消し去ることができますわ」

​マオは、そう言い放つと、魔法陣の中心で、優雅に微笑んだ。

​アルフは、その圧倒的な魔力の奔流に、息をのんだ。ノーキン、シュージン、マスターローニン、そしてカゲロウ。これまでの敵は、皆、物理的な力や、どこか人間的な弱さを持っていた。だが、この女は、純粋な「魔法」という力で、彼を圧倒しようとしていた。

​「にゃーん! すごい魔力にゃん! こんなの、全然勝てそうにないにゃん……」

​ネルが、いつものお気楽な調子を失い、僕のローブをそっと掴んだ。

​「そうですわ! わたくしの美学が、この魔法陣の完璧な美しさに、完璧に共鳴していますわ!」

​ミラが目を輝かせ、マオの魔法陣に見惚れていた。

​「見つけたッス! 究極のラスボスッス! この女の圧倒的な力こそ、アッシが探していた、究極の物語ッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​アルフは、マオの圧倒的な力を前に、恐怖を感じた。しかし、彼は、三馬鹿の顔を見て、決意を固めた。

​僕の真の強さは、彼らの「遊び」「美学」「物語」という哲学と、僕自身の「真面目さ」が融合したときに生まれる。この男が、どんな圧倒的な力を持っていようと、僕は、彼らと共に立ち向かう。

魔王の秘密

​「クフフフ……。わたくしの膨大な魔力と、この魔法陣があれば、あなたのような人間など、一瞬で消し去ることができますわ」

​マオは、そう言い放つと、魔法陣の中心で、優雅に微笑んだ。

​アルフは、その圧倒的な魔力の奔流に、息をのんだ。そして、マオが、その膨大な魔力を、両手から小さな光の玉に変え、アルフに向かって放った。

​「さあ、このわたくしの力、受けてごらんなさい!」

​マオが放った光の玉は、アルフの身体に直撃した。

​だが、痛みはなかった。

​いや、むしろ、身体が温かくなり、疲労が回復していくのを感じた。

​「な、なんだ……?」

​アルフが戸惑っていると、マオの顔が、わずかに赤くなった。

​「にゃはは! アルフ、元気になったにゃん!」

​ネルが腹を抱えて笑った。

​「そうですわ! わたくしの美学が、あの方の魔法を完璧に分析しましたわ! あの方が放ったのは、最高の回復魔法、ヒールですわ!」

​ミラが叫び、マオの魔法陣に見惚れていた。

​「見つけたッス! 究極の物語のひねりッス! あの魔王様は、膨大な魔力を持っているけど、放てる魔法は初級回復魔法だけッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​アルフは、三馬鹿の言葉に、マオの正体と、彼女の最大の秘密を悟った。彼女は、最強の魔力を持ちながら、その力を最大限に活かせない、悲しい存在だった。

​マオは、自分の秘密がばれたことに、顔を真っ赤にしていた。

​「あ、あなたたち……なぜ、わたくしの秘密を……!」

​マオの威厳は、一瞬で崩れ去った。彼女は、膨大な魔力を持つ魔王でありながら、ただの「ヒール」しか使えない、可哀想な少女だった。

​アルフは、マオの悲壮な顔を見て、決意を固めた。この戦いは、もはや「英雄」と「魔王」の戦いではない。それは、彼の「農家の心得」が、彼女の「悲しみ」を癒すことができるか、という、全く新しい戦いだった。


「あ、あなたたち……なぜ、わたくしの秘密を……!」

​マオの威厳は、一瞬で崩れ去った。彼女は、膨大な魔力を持つ魔王でありながら、ただの「ヒール」しか使えない、可哀想な少女だった。

​アルフは、マオの悲壮な顔を見て、決意を固めた。この戦いは、もはや「英雄」と「魔王」の戦いではない。それは、彼の「農家の心得」が、彼女の「悲しみ」を癒すことができるか、という、全く新しい戦いだった。

​「わかったよ。君の気持ちは、僕には痛いほどわかる」

​アルフは、そう言って、マオに近づいた。マオは、彼の言葉に驚き、身構えた。

​「僕だって、剣士として認められなかった。師範に、僕の剣は『型が違う』と否定された。でも、僕は、みんなと一緒に、僕だけの力を見つけることができた」

​アルフは、三馬鹿トリオを振り返った。彼らは、アルフの言葉に、静かに頷いていた。

​「君は、膨大な魔力を持っている。それは、誰もが羨む力だ。でも、その力を活かせないことが、君を苦しめているんだ」

​アルフは、マオに、ゆっくりと手を差し伸べた。

​「僕たちの旅に、君の力が必要だ。ちょうど回復魔法使いがいなかったんだ。君の力は、僕たちの旅を、最高の物語にしてくれる」

​アルフの言葉に、マオの瞳に、大きな涙が浮かんだ。彼女は、これまでの人生で、自分の能力のギャップを馬鹿にされ、孤独に生きてきた。そんな彼女に、アルフは、「仲間」という、最高の言葉をくれたのだ。

​「……っ!」

​マオは、アルフの差し伸べられた手を見つめ、そして、その手を、そっと握った。


アルフがマオに手を差し伸べ、マオがその手を握ったその瞬間。

​「……待て。その男に、マオ様の隣に立つ資格があるのか?」

​冷たく、無機質な声が、背後から聞こえた。アルフとマオが振り返ると、そこに立っていたのは、見慣れた黒いローブの男、魔王軍幹部四天王の一人、カゲロウだった。

​そして、カゲロウの背後から、次々と新たな人物が現れた。

​優雅な身のこなしで登場したのは、手品師の女、ミス・ミラージュ。彼女は、指をパチンと鳴らすと、アルフとマオの間に、色とりどりの花を出現させた。

​「あら、マオ様。そんなつまらない男と組むなんて、どうかしていますわ。あなたの隣に立つべきは、わたくしのような、最高の芸術家でしょう?」

​次に、軽快な足取りで現れたのは、レジェンドギャンブラーのフェリクス・フェイト。彼は、手に持ったコインを空に投げ、見事にキャッチした。

​「クックック……マオ様。その男との出会いは、最高のロマンを秘めている。だが、その男がマオ様の隣に立つ資格があるのかは、まだわからない。マオ様にとっての最高のギャンブルは、わたくしとの競い合いではないか?」

​最後に、静かに現れたのは、ビーストテイマーの女、リュミナ・クロウ。彼女の肩には、子猫のトラが乗っていた。

​「……マオ様。その男は、私たちのテイムとは違う、歪んだ絆を操っています。そんな男が、マオ様を本当に理解できるのでしょうか?」

​アルフは、突如として現れた四天王たちに、困惑を隠せない。

​「え、ちょっと待って!なんでみんなここにいるんだよ!?」

​アルフのツッコミに、三馬鹿トリオが反応した。

​「にゃはは!アルフ!すごいギャンブルにゃん!四天王との競争にゃん!」

​ネルが嬉しそうに飛び跳ねた。

​「そうですわ!わたくしの美学が、この四人の存在を完璧に理解しましたわ!最高の舞台が、整いましたわ!」

​ミラが優雅にポーズを決めた。

​「見つけたッス!究極の物語の最終章ッス!四天王の座を賭けた、アルフとの競争ッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​四天王は、アルフたちの反応を無視し、マオに迫った。

​「マオ様、この男の強さが、あなたにとって真に必要なものか、わたくしたちが証明しますわ!」

​マオは、四天王の言葉に戸惑っていた。彼女は、ただ、アルフに「仲間」という言葉をかけてもらい、嬉しかっただけなのだ。

​アルフは、この状況に、再び頭を抱えた。

​四天王は、それぞれの方法で、アルフの実力を測ろうとします。

カゲロウ:アルフの「希望」が、再び彼の「絶望」を乗り越えられるか、試そうとする。

ミス・ミラージュ:アルフの「英雄譚」が、彼女の「手品」を凌駕する「芸術」か、見極めようとする。

フェリクス・フェイト:アルフの「運命」が、彼の操る「ギャンブル」に勝てるか、試そうとする。

​リュミナ・クロウ:アルフと三馬鹿トリオの「絆」が、彼女の「テイム」した魔獣に勝てるか、見極めようとする。


カゲロウは、僕を冷たい視線で見つめた。彼の言葉は、僕の心を揺さぶった。彼は、僕が彼を打ち破ったのは、まぐれではないか、と疑っていた。

​ミス・ミラージュは、僕の戦いを「最高のショー」と称し、僕の「英雄譚」が彼女の「手品」を凌駕する「芸術」か、見極めようとしていた。

​フェリクス・フェイトは、僕の運命を試そうとしていた。僕が彼の操る「ギャンブル」に勝てるか、試そうとしていた。

​リュミナ・クロウは、僕と三馬鹿トリオの絆を試そうとしていた。僕の「絆」が、彼女の「テイム」した魔獣よりも強いか、見極めようとしていた。

​僕の隣では、三馬鹿トリオがこの状況を、最高の遊び、最高の芸術、最高の物語だと叫び、喜んでいた。

​そして、マオが、僕を見つめていた。彼女は、四天王の言葉に戸惑いながらも、僕を信じているようだった。

​僕は、再び、自分の心にある「真実」と、世間に広まっている「噂」のギャップに直面した。

​(僕は、英雄なんかじゃない……でも、僕は、この旅で、僕だけの強さを見つけたんだ!)

​僕は、四天王を、まっすぐに見つめた。

​「わかった。僕たちの強さ、証明してみせる!」

​僕の心には、恐怖と同時に、強い決意が芽生えていた。僕は、もう逃げない。僕は、僕の「真実」の強さを、彼らに証明しなければならない。

​僕の闘いは、ここからが本当の始まりなのだ。


​マオに命じられ、カゲロウが僕に試練を与えることになった。

​僕は、彼がどんな恐ろしい技を繰り出してくるのか、身構えた。彼の「裏切り者」という肩書きと、僕との再戦を望むその真剣な眼差しは、僕の心を震わせた。

​しかし、カゲロウは、僕に向かって、おもむろに刀を抜くと、懐から一本の大根を取り出した。

​(え? 大根……?)

​僕は、カゲロウの奇妙な行動に、ただただ困惑していた。

​カゲロウは、その大根を、まるで最高の獲物であるかのように、真剣な顔で構えた。そして、彼は、その刀で、大根を、まるで紙のように薄く、細かくおろし始めた。

​シャリ……シャリ……という、静かな音が、闘技場に響き渡る。

​カゲロウの刀さばきは、あまりにも見事で、まるで舞踏のようだった。彼は、刀で、完璧な大根おろしを作り上げた。

​そして、カゲロウは、その大根おろしを、僕の目の前に差し出すと、ドヤ顔で言った。

​「お主らには、出来ぬだろう?」

​僕は、その光景に、思わず心の中でつっこんだ。

​(……まさか、四天王ってお笑い集団……?)

​僕が呆然としていると、僕の隣にいるマオが、その光景を見て、心から嬉しそうな顔で笑っていた。

​「クフフフ……カゲロウ!見事ですわ!素晴らしい大根おろしですわ!」

​マオは、カゲロウの「試練」に、心から満足しているようだった。

​僕の隣では、三馬鹿トリオが、この状況を、それぞれの哲学で受け入れていた。

​「にゃはは! カゲロウさん、おもしろいことするにゃん!」

​ネルが腹を抱えて笑う。

​「そうですわ! 彼の刀さばきは、わたくしの舞踏にも通じる、最高の芸術ですわ!」

​ミラが目を輝かせた。

​「アッシの語りでは、最強の剣士は、最高の料理人でもあるッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​僕は、この奇妙な状況に、どう対処すべきか、頭をフル回転させた。

​「なぜ大根おろし用の調理器具使わないんだよ!?」

​僕の言葉に、カゲロウのドヤ顔が、一瞬で固まった。彼の「試練」の根幹を揺るがす、予想外の言葉だった。


「わかったよ、大根おろしに対抗して、こちらはすりおろしりんごを新調したはがねの剣でやるさ!」

​アルフはそう言い放つと、懐からぴかぴかに光るはがねの剣を抜いた。それは、村を出る前に、故郷の鍛冶屋に無理を言って作ってもらったものだ。これまで旅の道中で使っていた木剣とは比べ物にならない、真に美しい剣だった。

​そして、もう片方の懐から、リンゴをひとつ取り出した。

​「にゃーん! アルフ、何するにゃん? りんごを食べたいにゃん?」

​ネルが不思議そうに首を傾げた。

​「そうですわ! わたくし、あの方の舞踏のような剣技に、どのような美学が隠されているのか、楽しみですわ!」

​ミラが目を輝かせた。

​「アッシの語りでは、英雄は、最高の武器で、最高の芸術を創造するッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​アルフは、三人の言葉を無視し、カゲロウをまっすぐに見つめた。カゲロウの顔は、アルフの突拍子もない行動に、戸惑いを隠せないでいた。彼のドヤ顔は、もはや見る影もない。

​アルフは、はがねの剣を構え直した。その動きは、師範から教わった「型」とは違う。それは、故郷の畑で、鍬を使って土を耕したときの、粘り強く、力強い動きだった。

​そして、アルフは、剣の先端を、リンゴの表面にそっと当てた。

​「――っ!」

​キィイイイイン!

​剣が、リンゴの表面を削る。だが、それは、リンゴを切り刻むのではなく、まるで大根おろし器のように、細かく、細かく、おろし始めたのだ。

​カゲロウは、その光景に、驚愕した。

​「な、なんだと……!? その剣は……!」

​アルフの剣は、彼がこれまでの旅で培ってきた、全ての経験の結晶だった。師範から教わった「型」、三馬鹿から学んだ「アドリブ」、そして、農家として培った「真面目さ」。その全てが、この剣に宿っていたのだ。

​そして、ついに、リンゴは、完璧な「すりおろしりんご」になった。

​アルフは、そのすりおろしりんごを、カゲロウの目の前に差し出した。

​「僕の勝ちだ」

​アルフの言葉に、カゲロウは、ただただ呆然と立ち尽くしていた。彼の刀では、大根を斬り刻むことしかできない。だが、アルフの剣は、リンゴを「おろす」という、新たな価値を創造したのだ。


カゲロウに勝利した僕を待っていたのは、ミス・ミラージュだった。彼女は、優雅な身のこなしで僕に近づくと、にっこりと微笑んだ。

​「あら、アルフ様。見事ですわ。あなたの剣は、カゲロウの心を打ち砕きました。ですが、わたくしの手品は、あなたの剣では打ち破れませんわ」

​彼女はそう言うと、指をパチンと鳴らした。その瞬間、僕の足元から、カラフルな煙が立ち上る。そして、煙が晴れると、僕の目の前には、巨大な宝箱がいくつも現れていた。

​「これは…?」

​僕が困惑していると、ミラージュは、くすくすと笑った。

​「これは、わたくしの手品でございますわ。この箱の中には、わたくしが用意した『驚き』が隠されていますの。あなたは、この中で、わたくしの手品を打ち破り、真実を見つけ出さなければなりませんわ」

​僕は、彼女の言葉に背筋が凍りついた。ノーキンは力、シュージンは罪、カゲロウは絶望、そしてこの女は…「ドッキリ」だ。彼女は、僕を人間としてではなく、ただの「観客」として見ているのだ。

​「にゃーん!アルフ!すごいドッキリにゃん!」

​ネルが嬉しそうに飛び跳ねた。

​「そうですわ!わたくしの美学は、予想外の驚きを、最高の芸術へと昇華させることですわ!」

​ミラが目を輝かせた。

​「アッシの語りでは、最高の英雄は、最高のサプライズを乗り越えるッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​僕は、木剣を構え、ミス・ミラージュに向かって、静かに言った。

​「僕は、観客じゃない。僕は、僕の真実を証明する!」

​僕の次の戦いは、今、始まろうとしていた。

​「さあ、最初のドッキリですわ!」

​ミス・ミラージュがそう言って、指をパチンと鳴らすと、僕の目の前にある宝箱が、一斉に開き始めた。僕は、何が起こるのか身構えた。宝箱の中には、それぞれ違う「驚き」が隠されている。ある箱からは、巨大な花火が打ち上げられ、ある箱からは、大量のカラフルな紙吹雪が舞い散った。

​そして、ある箱からは…巨大なバケツが、僕の頭上から落ちてきた。

​「ぐわっ!」

​僕は、冷たい水と、大量の紙吹雪で、ずぶ濡れになった。観客席からは、笑い声が聞こえる。僕が、こんなドッキリに、どう立ち向かえばいいのか、戸惑っていると、ミラージュは、くすくすと笑った。

​「あら、どうしましたの?そんなもので驚いていては、わたくしの手品は、まだ始まったばかりですわよ?」

​僕の隣では、三馬鹿トリオが、僕のずぶ濡れになった姿を見て、腹を抱えて笑っていた。

​「にゃはは!アルフ、最高のツッコミにゃん!」

​ネルがそう言って、僕にHP回復のバフをかける。

​「そうですわ!わたくしの美学は、このような醜い状況を、完璧な芸術へと昇華させることですわ!アルフさん、もっと美しく、華麗に驚きなさいな!」

​ミラが優雅に舞い、僕の身体に、回避率アップのバフをかける。

​「アッシの語りでは、英雄は、どんな状況でも、最高の物語の主人公ッス!アルフ、最高の驚きを、最高の笑いに変えるッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​僕は、三馬鹿の言葉に、呆れると同時に、不思議な安心感を覚えた。彼らは、僕がどんな状況に陥っても、彼らの「遊び」「美学」「物語」という哲学を貫く。そして、その哲学が、僕を助けてくれるのだ。

​「もういい!こんなドッキリ、全部打ち破ってやる!」

​僕は、木剣を構え、目の前の宝箱を、ひとつずつ打ち破り始めた。だが、その中からは、また別のドッキリが仕掛けられていた。ある箱からは、大量のタライが落ちてきて、ある箱からは、巨大な風船が割れて、大量の粉が僕の身体に降りかかった。

​僕は、何度も、何度も、ドッキリの餌食になった。しかし、僕は、諦めなかった。僕は、このドッキリを打ち破り、彼女の真実を見つけなければならない。

​僕は、ずぶ濡れになり、小麦粉まみれになりながらも、宝箱を打ち破り続けた。そして、ついに、最後の宝箱が、僕の目の前に現れた。

​「あら、見事ですわ。この宝箱の中には、わたくしの最高のドッキリが隠されていますわ。さあ、開けてごらんなさい」

​ミラージュがそう言って、挑戦的に微笑んだ。

​僕は、最後の宝箱を、ゆっくりと開けた。その中には、何も入っていなかった。

​「な…?」

​僕が困惑していると、ミラージュは、くすくすと笑った。

​「あら、どうしましたの?何も入っていないことが、わたくしの最高のドッキリですわ。あなたは、この中で、一体何を見つけようとしましたの?」

​彼女の言葉に、僕は、頭をフル回転させた。そうだ、彼女のドッキリは、僕の「真実」を試していたんだ。彼女は、僕を「観客」としてではなく、僕が、この旅で何を得たのか、試そうとしていたんだ。

​僕は、木剣を構え直し、静かに言った。

​「僕は、この旅で、何も入っていない宝箱の中に、最高の仲間を見つけたんだ!」

​僕の言葉に、ミラージュは、一瞬、驚きの表情を浮かべた。僕は、続けて言った。

​「僕がこの旅で得たものは、剣の腕でも、お金でもない。僕が、この旅で得たのは、みんなとの絆だ!」

​僕は、三馬鹿トリオを振り返った。彼らは、僕の言葉に、静かに頷いていた。

​「僕が、この宝箱を開けるために、必死に戦ったのは、みんなのドッキリを最高の物語に、最高の芸術に、最高の遊びにするためだ!」

​僕の言葉は、ミラージュの心を、深く揺さぶった。彼女は、手品師として、観客を驚かせることしかできなかった。だが、アルフは、彼の「真実」の言葉で、彼女の心を動かした。

​「……降参ですわ」

​ミラージュは、そう言うと、静かに微笑んだ。

​「あなたの旅は、最高のショーですわ。わたくしの負けですわ」

​ミラージュは、僕の言葉に、心の底から感動したようだった。彼女は、観客を驚かせる手品ではなく、真の感動を人々に与える、アルフの「英雄譚」に、敗北を認めたのだった。


​ミス・ミラージュとの「ドッキリ」対決に勝利した僕を待っていたのは、次なる四天王、フェリクス・フェイトだった。彼は、僕の目の前でコイントスをすると、必ず表を出し、不敵な笑みを浮かべた。

​「クックック……見事だ、アルフ。君の『真実』は、ミラージュの『手品』を打ち破った。だが、運命は、そんな御伽噺の力ではどうにもならんぞ」

​彼の言葉は、僕の心をざわつかせた。彼は運命そのものを操る、最強のギャンブラーなのだ。

​「いいだろう、アルフ。次の勝負は、エルフの街にある競馬場だ。わたくしとどちらがより多くの金を稼げるか、運命を賭けたギャンブルといこう」

​彼の挑戦的な言葉に、僕の隣では、三馬鹿トリオが歓喜の声を上げた。

​「にゃはは!アルフ!最高のギャンブルにゃん!」

「そうですわ!わたくしの美学は、運命という名の芸術にも存在しますわ!」

「アッシの語りでは、最高の英雄は、最高のギャンブラーッス!」

​僕は、フェイトの言葉に戸惑いを隠せない。どうやって、運命を操る男に、ギャンブルで勝てるというんだ?だが、三人の言葉を聞き、僕は決意を固めた。

​「わかった!その勝負、受けて立つ!」

​僕の返事に、フェイトは満足げに笑った。

​運命を操るギャンブラー

​エルフの街の競馬場は、緑豊かな森の中に広がり、神秘的な雰囲気に満ちていた。僕は、フェイトから渡された一枚の馬券を手に、レースの出走表を眺めていた。フェイトは、僕の目の前で、コイントスを繰り返す。

​「クックック……見てなさい、アルフ。これが、運命という力だ」

​彼はそう言いながら、何気なく出走表の馬に指をさした。その馬は、これまでの成績が芳しくなく、賭け率は誰も見向きもしないほど低かった。

​「馬鹿げている!そんな馬が勝つわけがない!」

​僕は思わず叫んだ。しかし、フェイトは僕の言葉を鼻で笑った。

​「わたくしのギャンブルに、偶然という言葉は存在しない。運命は、わたくしに味方する」

​彼は、その馬に莫大な金を賭けた。レースが始まり、スタートの合図と共に、全ての馬が一斉に走り出した。フェイトが賭けた馬は、最初こそ最下位を走っていたが、最後の直線で、まるで何かに導かれるかのように、信じられないほどのスピードで先行する馬を抜き去り、見事に1着でゴールした。

​観客席から大歓声が上がり、フェイトの元には、莫大な配当金が舞い込んだ。僕は、彼の運命を操る力を目の当たりにし、ただただ呆然と立ち尽くしていた。

​「どうだ、アルフ。これが運命だ。君に、わたくしのような芸当ができるかね?」

​フェイトの言葉は、僕の心を深く抉った。

​農家の心得とギャンブルの真髄

​僕は、フェイトのように運命を操ることはできない。だが、僕には僕のやり方がある。

​「アルフ!あんなの、全然面白くないにゃん!」

​ネルがそう言って、僕の肩を叩いた。

​「そうですわ!わたくしの美学は、運命を操ることではありません!真の美学は、運命に抗う、その過程にこそ存在しますわ!」

​ミラが優雅に舞いながら言った。

​「アッシの語りでは、英雄は、ギャンブルのルールそのものを打ち破るッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​彼らの言葉に、僕はハッとした。僕は、運命を操ることはできない。だが、僕は、馬という生き物を「見る」ことができる。農家の息子として、僕は、動物の真の力を見抜く目を養ってきた。

​「みんな、見ててくれ!僕のギャンブルは、運命を操るギャンブルじゃない!僕のギャンブルは、**『馬の真の価値』**を見抜くギャンブルだ!」

​僕は、出走表の馬たちを、一人ずつ見ていった。見た目の美しさや、これまでの成績ではない。馬の瞳の輝き、筋肉のつき方、そして何より、僕の心の声。

​そして、僕は、ある一頭の馬に目を留めた。その馬は、出走表の隅に小さく書かれた、全く人気のない馬だった。だが、その馬の瞳には、決して諦めない、強い意志の光が宿っていた。

​僕は、その馬に、有り金全てを賭けた。フェイトは、僕の馬鹿げた行動を見て、嘲笑を浮かべた。レースが始まり、その馬は、僕の予想通り、最下位を走っていた。しかし、僕は信じていた。

​「いけ!**『農家の心得』**を見せてやれ!」

​僕の叫びに、馬の瞳に、僕と同じ光が宿った。最後の直線で、馬は、信じられないほどの粘り強さで、先行する馬を追い抜いていった。そして、見事、1着でゴールインした。

​観客席は、信じられない、というざわめきに包まれた。誰もが、その馬が勝つなど、予想していなかったのだ。僕の元には、フェイトの何倍もの配当金が舞い込んだ。

​ギャンブルの真実

​僕は、フェリクス・フェイトの前に立った。彼は、僕の勝利に、驚きと同時に、深い戸惑いを浮かべていた。

​「な、なぜだ……? わたくしが運命を操ったはずなのに、なぜ……」

​フェイトは、その言葉に詰まった。僕は、静かに、彼の言葉に答えた。

​「僕は、運命を操ることはできない。だが、僕は、馬の真の価値を見抜くことができる。そして、僕は、馬を信じた」

​僕の言葉は、フェイトの哲学を根底から打ち砕いた。彼は、運命を操ることに夢中で、馬自身の価値を見ていなかったのだ。

​「クク……見事だ、アルフ。わたくしの負けだ」

​フェイトは、そう言うと、僕に深々と頭を下げた。彼は、僕が示した「真実」の力に、感銘を受けたようだった。

​僕の勝利は、三馬鹿トリオの狂喜乱舞を誘った。彼らは、莫大な富を得ただけでなく、ギャンブルの真の楽しさを、僕との旅の中で見つけたのだ。僕の旅は、もはや御伽噺の型にはまらない、唯一無二の物語として、続く。


​承知いたしました。リュミナ・クロウとの「外来種の捕獲と保護」対決に挑むアルフの視点から物語を記述します。

​フェリクス・フェイトとのギャンブル対決に勝利した僕を待っていたのは、四天王の最後の砦、リュミナ・クロウだった。彼女は、僕の前に静かに姿を現し、肩に乗る子猫のトラを優しく撫でた。

​「……見事なものだわ、アルフ。あなたの『絆』は、フェイトの『運命』をも打ち破った。だが、その絆は、わたくしの『テイム』の前では、無力だわ」

​彼女の言葉は、まるで子守唄のように穏やかだったが、その中に潜む静かなる支配の力に、僕は背筋が凍りついた。

​「このユグドラシルでは、最近、獰猛な外来種のイノシシが増えて問題となっている。わたくしと、どちらがより多く、そしてより効率的に、そのイノシシを『捕獲し、保護』できるか、勝負よ」

​彼女の挑戦は、これまでの敵とは全く違った。力でも、罪でも、奇術でも、運命でもない。動物との関係性を問う、僕の根幹に迫る試練だった。

​「にゃはは!アルフ!面白い勝負にゃん!」

「そうですわ!わたくしの美学は、命を慈しむことにも存在しますわ!」

「アッシの語りでは、英雄は、獣との絆を築くッス!」

​三人の言葉に、僕は決意を固めた。僕にテイムの力はない。だが、僕には、僕だけのやり方がある。

​テイムの支配、絆の理解

​勝負が始まり、リュミナは、静かに森の奥へと足を進めた。彼女は、イノシシの巣を見つけると、その前に立ち、子猫のトラを地面に降ろした。

​「……さあ、愛しい子。イノシシたちを、わたくしの元へとお導きなさい」

​子猫のトラは、リュミナの言葉に従い、イノシシの巣穴へと入っていった。すると、すぐにイノシシたちが、子猫のトラに導かれるように、次々と巣穴から現れた。彼らは、リュミナの前にひれ伏し、彼女の『テイム』の力に、完全に支配されていた。

​「どう?アルフ。これがわたくしの力よ。力でねじ伏せるのではなく、心で従わせる。これこそが、完璧な『支配』よ」

​リュミナは、まるで舞踏を舞うかのように、優雅にイノシシたちを捕獲し、保護用の檻へと誘導していった。彼女の圧倒的な力に、僕はただ立ち尽くすしかなかった。

​僕に、リュミナのような支配の力はない。だが、僕は、農家の息子だ。僕は、動物と「対話」をすることができる。

​「みんな、見ててくれ!僕のやり方は、支配じゃない!僕のやり方は、**『理解』**だ!」

​僕は、イノシシの巣を見つけ、その前に、畑で採れたての野菜を置いた。イノシシたちは、警戒しながらも、ゆっくりと僕に近づいてきた。

​「にゃはは!アルフ!イノシシ、面白いことをするにゃん!」

​ネルは、僕の行動に興味津々だった。彼女は、イノシシたちと楽しそうに戯れ、彼らの警戒心を解いていく。

​「そうですわ!わたくしの美学は、力で押さえつけることではありません!相手の心を開き、導くことこそ、真の芸術ですわ!」

​ミラが優雅に舞い、僕の周りに、イノシシたちが安心するような、穏やかな風を吹かせた。

​「アッシの語りでは、英雄は、力ではなく、知恵で獣を手懐けるッス!」

​ザビエラが叫び、ノートにペンを走らせる。

​僕は、イノシシたちに、僕の真面目な心を伝えた。僕は、彼らを傷つけるつもりはない。ただ、彼らの居場所を、もっと安全な場所へ移してあげたいのだと。僕の心が伝わったのか、イノシシたちは、僕に懐き、僕の言葉に従い始めた。

​支配と絆の決着

​勝負は、終盤に差し掛かっていた。リュミナは、圧倒的な数のイノシシをテイムし、次々と捕獲用の檻へと入れていった。僕の捕獲数は、彼女には到底及ばない。

​「どうかしら?アルフ。あなたの『絆』は、わたくしの『支配』には敵わなかったようね」

​リュミナは、勝利を確信したかのように、静かに微笑んだ。しかし、その時だった。彼女がテイムしたイノシシたちが、突如として動きを止めた。

​「……なぜかしら?わたくしの『支配』が、効かなくなっている?」

​リュミナが困惑していると、彼女の肩に乗っていた子猫のトラが、彼女の肩から飛び降り、僕の足元に駆け寄ってきた。そして、僕の顔を、ペロリ、と舐めた。

​子猫のトラの瞳には、リュミナの『支配』の光ではなく、僕の『絆』の光が宿っていた。リュミナは、この旅で僕が培ってきた、動物の心に語りかける力が、彼女の『支配』を上回ったことに、気づいていなかったのだ。

​そして、リュミナがテイムしたイノシシたちが、一斉に僕の元へと駆け寄ってきた。彼らは、僕の周りを囲み、嬉しそうに鼻を鳴らした。

​「な、なぜ……?」

​リュミナは、自分のテイムした獣たちが、僕に懐いている光景に、驚きを隠せない。

​「僕の勝ちだ」

​僕は、静かにリュミナに告げた。僕は、捕獲数では負けていた。だが、僕は、彼女がテイムした全ての獣と、『絆』を結んだのだ。

​リュミナは、自分の哲学が、僕の『絆』によって打ち砕かれたことに、敗北を認めた。彼女は、僕に深々と頭を下げると、静かに去っていった。

​僕の勝利は、三馬鹿トリオの狂喜乱舞を誘った。僕の『絆』が、リュミナの『支配』を打ち破った、最高の物語。僕の旅は、もはや御伽噺の型にはまらない、唯一無二の物語として、続く。


​リュミナ・クロウとの対決に勝利し、僕が「絆」の力を証明したその瞬間。魔王マオは、僕に歩み寄り、静かに言った。

​「……あなたの勝ちですわ、アルフ。わたくしは、この旅で、初めて自分の力に意味を見出せましたわ。わたくしを、あなたの旅の仲間に加えていただけますか?」

​彼女の言葉に、僕は胸が熱くなった。

​「もちろんだ!僕たちの旅には、君の力が必要だ!」

​こうして、正式に魔王マオは、僕たちの仲間になった。彼女は、最強の魔力を持ちながら、初級回復魔法しか使えないというギャップを持つ、僕たちの唯一の「回復魔法使い」だ。

​魔王、そして仲間へ

​僕たちの旅に加わったマオは、驚くほど真面目だった。

​「アルフ様。わたくし、回復魔法しか使えませんが、一生懸命、皆さまのお役に立てるよう努めますわ」

​彼女は、何かあるたびに僕たちの傷を癒し、疲労を回復させてくれた。だが、彼女の瞳には、どこか寂しさが宿っていた。僕は、彼女の抱える葛藤に気づいていた。彼女は、膨大な魔力と、それに伴う「期待」と「絶望」の間で、ずっと苦しんできたのだ。

​「マオ。君の回復魔法は、僕たちの旅に欠かせない力だ。それに……君がいてくれるだけで、僕は、どんな敵にも立ち向かえる気がするんだ」

​僕の言葉に、マオの瞳に、わずかに光が灯った。僕は、彼女の心に、僕の「農家の心得」で培った真面目さを分け与えようと努めた。

​「君は、膨大な魔力を持っている。それは、どんなに地道な努力をしても、手に入らない力だ。だから、その力を、君が『自分だけの力』だと信じることができたら、きっと君は、誰にも負けない最強の魔法使いになれる」

​僕がそう言うと、彼女は静かに微笑んだ。その笑顔は、これまでの旅で出会った誰よりも、温かかった。

​「究極の遊び」「究極の芸術」「究極の物語」

​マオという新たな仲間を迎え、三馬鹿トリオは歓喜した。

​「にゃはは!アルフ!魔王が仲間になったにゃん!最高のギャンブルにゃん!」

​ネルは、マオの存在を、究極の「遊び」として受け入れた。

​「そうですわ!わたくしの美学が、あの方の魔力の奔流と、完璧に共鳴していますわ!これこそ、究極の芸術ですわ!」

​ミラは、マオの魔力を、究極の「芸術」として称賛した。

​「アッシの語りでは、ここからが究極の物語ッス!魔王と英雄の旅路!こんなロマン、この世のどこにもないッスよ!」

​ザビエラは、マオの加入を、究極の「物語」として語り始めた。

​僕たちが闘技場で倒してきた四天王たちも、マオの加入をそれぞれの哲学で受け入れていた。カゲロウは「希望」を、ミス・ミラージュは「芸術」を、フェリクス・フェイトは「運命」を、そしてリュミナは「絆」を、僕たちの旅に見出した。彼らは、もう僕たちを敵とは見ていない。僕たちの旅路を見守り、いつかまた、僕たちの前に現れる、最高のライバルたちだ。

​新たな旅の始まり

​僕たちの旅は、再び始まった。隣には、真面目な魔王マオがいる。彼女はもう、自分の能力に悩んでいない。僕たちが、彼女の「真実」の力を信じていることを知っているからだ。

​「アルフ様、次は、どちらへ向かうのですか?」

​マオの問いかけに、僕は空を仰ぎ、笑顔で答えた。

​「さあな。だけど、僕たちの旅は、もう御伽噺の型にはまらない。僕たちの旅は、僕たちの力で、僕たちの物語を紡いでいくんだ!」

​僕たちは、この旅で、英雄でも、魔王でも、ただの旅人でもない、僕たちだけの「職業」を見つけることができるだろう。

​僕たちの旅は、今、本当の意味で始まったのだ。

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