第5話 親友の秘密 前編(side みくり)

『今日も、言えなかった』


 しゅうちゃんからメールが来たのは、月が綺麗な晩だった。


 あたしは小さく息を吐いて猫が犬の頭を「ナデナデ」をしているスタンプを送信する。


 あたし達が別れたのは、二ヶ月前。


 あたしがカモフラカップルを辞めたいと言い、あたし達の関係は解消された。

 その代わり、二人とも本当に好きな人に告白をすると、約束して。そして、あたしは一ヶ月前に真樹子に告白して……まさか真樹子も同じ想いだとは気が付かなかったけど、晴れて恋人同士になった。


「みくり、お風呂あいたよ」

「あ、うん……」

「メールしてた?」

「……うん。周ちゃんから」

「なんて?」

「元気って」


 真樹子は「ふぅん」と言っただけで、それ以上は聞いてこなかった。でもきっと、あたしが嘘を吐いていると勘付いてるはず。だからって、周ちゃんの秘密は言えない。

 なのに、今。真樹子に言えない秘密がある事に、罪悪感を抱いている。そんな事を考えていると、不意に真樹子が顔を覗き込んできた。


「何かあった?」


 真樹子の声は、とても優しい響きなのに。その瞳は、刺す様に鋭い。

 あたしは、ぐっと目を閉じて数秒、その目を開く。


「真樹子、ちゃんと話すから。少しだけ時間をちょうだい」

 

 そう告げると、真樹子の鋭い視線は柔らいで、小さく頷き、あたしにそっとキスをした。


 それから一週間後。

 あたしと真樹子の前には、周ちゃんが肩を窄めて座っている。


「どういう事? みくりとしゅうは、ずっと私と諒平りょうへいを騙していたってこと?」


 詰めよる真樹子に、あたしとしゅうちゃんは同時に「すみませんでした」と頭を下げる。


 あたしの一存では周ちゃんの秘密は言えない。周ちゃんの秘密をバラすという事は、あたし達の本当の関係性についても話す必要があり、周ちゃんにその旨を伝えたら「僕にも責任があるから」と、快諾してくれて、今。


 あたし達は、お互い同性が好きである事を隠すためカモフラカップルを演じ続けていたのだと、告白した。お互いの好きな人と、ずっと一緒に居るための手段として。


「いや、騙す、というか……ちょっと違うというか」


 周ちゃんが言い淀むと、構わず真樹子の鋭い視線が飛ぶ。


「騙すというか、言えるわけが無いよ……。だって、僕達はマキちゃんと諒平は好きあってるって、思ってたし……。けど、マキちゃんなら分かってくれるでしょ?」


 周ちゃんがボソボソと言えば、真樹子は部が悪そうに眉を寄せ「まぁ、ね」とポツリと言った。


「けど、まさか……。周そうだとは……」

「なんか、ごめん」


 あたしは、真樹子の言葉に違和感を抱きつつ、一緒に謝ったのだった。

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