第10話 集めた情報を確認します
傭兵ギルドからの救護艦が到着したのは、救援要請を行ってから4日後のことだった。
要請がギルドへ到着するのに半日、準備に3日、こちらへ移動してくるのに半日と考えれば、かなりのスピード感で派遣されたことが分かる。
箱詰めされた民間人が数百人――正確な数は永遠子によると481人――もいるとなれば、それも当然だ。
傭兵ギルドは、民営の皮をかぶった半公営で、秩序維持を担っているという側面もある。そんな中で、人知れず500人近い民間人が拉致・加工されているとなれば、メンツはボロボロ。見つかったのがこの人数だっただけで、もっと被害者がいてもおかしくない上に、こうした動きを全く察知できていなかったことも痛い。
したがって、少しでも情報を得ようと、躍起になるのも分かる。
「あなたがもう少し情報保全に動いてくれていれば、犯人探しも簡単になったんですがねぇ」
だからって、文句を言われる筋合いはない。
「へぇ。傭兵ギルドはそういう考えをするのか。分かったよ。今度からは民間人が犠牲になろうとも情報確保を優先する。なんせ傭兵ギルドからの指示だからな。俺は従うしかないなぁ。しょうがないなぁ。民間人を見捨てろって指示だからなぁ」
「いやっ、ちがっ、そういう意味ではっ」
「いやいや、傭兵ギルドの指示は良く分かったよ」
事情を聞くために、幾人かの囚われた民間人が覚醒させられた横で、よくもそんな文句をたれるもんだ。
俺のわざとらしい言葉に、文句を言ったギルド職員へ視線が突き刺さる。
「申し訳ありません、キャプテン・ツクモさん。彼も宙賊へのイライラが募って、つい思ってもないことを言っただけですので。傭兵ギルドはあなたの働きを評価しています」
「へぇ」
「あなたの的確な攻撃によって、民間人の保護が可能になったとしっかりと理解しております」
「分かった分かった、俺も意地悪が過ぎた。でも、宙賊を捕まえたい気持ちは分かるけどさ、不用意な事は言わない方が良いんじゃない?」
「ありがとうございます。はい。きちんと指導します」
別にギルドと敵対したいわけでもないので、ほどほどにしておいた。やらかした職員も、これに懲りたらもうちょっと慎重になって欲しいものだ。
「それじゃあ、俺はもう行ってもいい?」
「はい。報酬につきましては、査定がありますので後日の振り込みになります」
「了解。お仕事頑張ってくれ」
後のもろもろの処理を傭兵ギルドへまかせて、俺は自分の艦へと戻った。なんだかんだで救援が到着してからさらに1日が経過しているので、少し休みたい気分だ。
「ただいまー」
「キャプテン、おかえりなさい」
ぷる
「ぴー」
「お風呂にしますか? それとも食事にしますか?」
新妻に言われたいランキングTOPスリーに入りそうな永遠子の提案に、迷わずお風呂を選択して湯舟にゴーだ。お風呂でしばらくゆっくりして、それからご飯にしたい。
「ふぃ~~」
「お疲れみたいね」
湯舟に浸かっていると、いつもお風呂にいるシャルが話しかけてきた。俺が来たときにはいなかったはずだけど、いつの間に入って来たんだ。
永遠子の教育に悪いという理由から湯着を着るよう言っているが、今は俺しかいないからか、謎のモヤだけを身にまとって(?)湯舟につかっている。
「まあな。戦闘よりも、後始末の方がめんどくさいよ」
「その戦闘の方も手を焼いていたみたいじゃない」
「そうでもないぞ。百ちゃんが偵察してくれたし、理子ちゃんの魔法もすごかったし」
「そう? てっきり手伝いを頼まれるかと思っていたわ。私なら情報も人質も助けられただろうし」
「いや、それは契約違反になるだろ」
シャルとの契約は、衣食住を提供する代わりに、永遠子のことをなんとかしてもらうというもの。そこに戦闘の手伝いだとか、魔法を使ってもらうとかは入っていない。
シャルが自発的に手伝ってくれるなら断ることはしないが、俺から頼むのは違うだろ。
「そう」
「それよりさ。この後、シャルも一緒にご飯にしようぜ。理子ちゃんの初戦闘の成功をお祝いするんだ。フルーツケーキもあるぞ」
「ええ、もちろんいいわよ」
「よし、これで全員参加だな。永遠子に言っておかないと」
「もう連絡しておいたわ。あなたはゆっくり湯舟につかってなさい。ほら、フルーツ牛乳をわけてあげるわ」
「今日はやけに気が利くじゃん」
「そういう気分だったのよ」
「まあいいか。ぷはぁ、お風呂に入りながら飲むフルーツ牛乳もまた最高だなぁ」
シャルがいつもより機嫌が良さそうなのが気になったが、そんな日もあるか。そしてフルーツ牛乳はいつ飲んでもうまい。
シャルと一緒にゆっくりと湯舟につかったあと、皆で理子ちゃんのお祝いをした。フルーツケーキに頭からつっこんだ理子ちゃんを見て笑い合ったり、いくつものジュースを混ぜた謎のドリンクを百ちゃんが気に入ったり、間違えてお酒を飲んでしまった永遠子が一瞬フリーズしたり、楽しかったなぁ。
「あなた、いい加減覚悟を決めたら?」
「折角楽しいことを考えてたのに」
ゴブリンの拠点を制圧した後のあれこれを終えて、コロニーへの帰路についた俺たちは、理子ちゃんのお祝いを皆で楽しんだ。
楽しんだ後は、先延ばしにしていたゴブリンの拠点で得た情報の共有の時間だ。
「キャプテン、やめておきますか?」
「いや、折角永遠子が集めてくれたし。おし! 覚悟を決めたぞ!」
どう考えても厄介ごとの気配しかないが、知らずに巻き込まれるより、知ってて巻き込まれる方が対策の猶予がとれる。最善なのは、そもそも巻き込まれないことだ。
「断片的な情報ですが、あのゴブリンのスポンサーについていたのは、隣国である可能性が高いです」
「うっっわ……、マジのガチで厄介ごとじゃねぇか」
国の援助を受けた宙賊なんて、厄介ごとのど真ん中だ。100点満点の厄介ごとだ。
「義体化したゴブリンは、隣国の工作員です。任務の詳細は残っていませんでした。おそらく情報の確認後は都度消去していたのでしょう」
「詳細はってことは、断片は残ってた?」
「いいえ。そのものは残っていなかったので、収集した周辺情報からの予測になります」
「ふむふむ」
「ゴブリンの任務は、紛争発生時の後方かく乱と生体脳の確保です」
「人を集めてたのって、脳を集めるためだったかぁ。そっかぁ」
そういえば今日のお夕飯は何かなぁ。魚料理がいいなぁ。
「こら。とぼけたふりしないの」
「いやシャル、こんなことを聞かされたら、とぼけたくもなるだろ」
「すでに相当数の生体脳が隣国へと送られたようです」
「ほらぁ!」
もう聞きとうない! おらはただの傭兵ばい! 隣国だの任務だの、そだなことは知らん!
「知っちゃったんだからしょうがないわよね」
「一部の生体脳は、自律式の爆弾に改造する予定もあったようです」
「もうやめてぇ!」
生体脳の記憶を元にして、自動的にコロニーを目指す爆弾を作製する計画があったようだ。
なんだその倫理観の欠片もない無慈悲な計画は。まだ見ぬ隣国への嫌悪感がぐんぐん増していくぞ。
「これって傭兵ギルドは気付いてるのか?」
「時間をかけて情報を分析すればたどり着けるでしょう」
「ふむ。ちなみにどれくらいの時間?」
「投入するリソースにもよりますが、標準歴で一月ほどでしょうか」
「めっちゃかかるじゃん」
拠点が制圧されたことはすぐに知れ渡るだろうし、その一月の間に何か起きる可能性もある。すでにこうして浸透工作が行われていることから、可能性は高いだろう。
「一月もフリーにさせたら、絶対ろくなことにならないよな」
「情報を傭兵ギルドに渡せばいいんじゃないの? 勝手に対処するでしょ」
「そしたら、どこでこの情報を手に入れたのかって説明しないとダメだろ。永遠子のことは説明できないし、変に疑われてまた拘束されるなんて御免だぞ」
思い出されるのは、最初に訪れたコロニーでの出来事だ。あっ、この記憶は忘れている設定なんだった。
「あなたが送ったって知られなければ良いんでしょ? 永遠子ちゃんにこっそり送ってもらえば良いじゃない」
「……確かに」
「痕跡を残さずに送信することは可能です」
「これで解決ね」
「さすが永遠子だな」
「アイデアを出した私も褒めてくれていいんじゃない?」
「さすがシャルだ!」
「それでいいのよ」
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