ヒーローと悪の組織の事情
満月 花
第1話ヒーローさんもうちょい手加減してくれます?
鮮やかな夕陽を背に決めポーズをとるヒーロー。
懲りずに戦いを挑む悪の組織を叩き潰し、世界の平和は守られる
空を見上げ、颯爽と帰ろうとするヒーロー
ーーの足首が弱々しく握りしめられる。
見下ろせば無残にやられて息も絶え絶えの、悪の組織の手下たち。
悲痛な叫び声こだまする。
私たちにも生活あるんです……。
こんなにボコボコに痛めつけないで〜。
すっっごく痛い!
しばらく起き上がれないんだけど!
は?
ヒーローは首を傾げる。
いや、だって悪の組織だし、襲ってきたらそりゃ倒すでしょう。
団体で来ては、倒しても倒しても湧いてくるし。
悪の手下たちは地面に伏せながら
わたし達は、ちゃっちい武器で本当はビビりながら
根性出して向かってるんです!
ヒーローみたいに強力な武器もアイテムも無いし。
ボス達みたいに魔力もない。
捨て身で挑んでるんや!
……なのに虫ケラ扱いすぎて泣く。
場を盛り上げるために派手な立ち回りをしてる意識はあるので
その言葉でほんの少し良心は痛む感じはする。
辞めたらいいんじゃないのか、その悪の組織。
それで真っ当な職にでもついて……。
手下たちが目を見開いてぐわっと噛み付いてくる。
時給がバカ高いんです!危険手当込みなんで!
……それに一度入ったら最後なんすよ!
おまえらはもう悪の組織の一員だって、辞めさせてくれない……
辞められるのは、戦闘力が無くなった体力の定年制か
復帰不可能程の怪我によるクビキリです。
これは……帰れないなぁ、と
ヒーローはため息を吐いてその場に座り込む。
悪の手下たちは痛みをこらえつつ
匍匐前進でヒーローの側に集まる。
私は家に帰れば家族がいて
もうこんな仕事辞めてっ妻が泣く……。
僕は苦学生でこのバイトで何とか生活しているです〜。
俺、本業はマイナーなロックバンド組んでるんだけど
他のバイトより金がいいし、夜に戦闘ないんで
ライブしやすいです。
というか、どうしてさっさとボスキャラ倒して
くれないんですか!
ヒーローだったら必殺技でサクッと倒せるのに!
何であんなに無駄な時間使うんですか!
……いや、それはなんというか流れってもんがあってね、
つまんないじゃないか、そんなに早く決着ついたら
それにきみたちのボスだって最後まで出てこないし
ひどい、ひどすぎる、と悪の手下は涙を流す。
痛む身体をさすりながら、お互いの身体を支え合いながら
世界の不条理に打ちのめされる。
……じゃあ、どうして欲しいんだ?
その言葉に手下たちは前のめりで我先にと発言する。
武器を当てるフリだけしてくれたら
華麗に絶命するフリをしてみせたる!
劇的に倒れてみせます!
なんなら、団体技でチリのように吹っ飛んでみせる!
戦闘で倒れたら直帰出来るので
無傷なら、他のバイトと掛け持ち出来る!
上手くいけば10分でバイト終わるし!
その発言に悪の手下たちは激しく同意し、賞賛の声すら上げた。
えっ?いいのかそれで、
悪の組織の上層部にバレたらやばいんじゃないのか?
大丈夫です、我らは捨て駒。
この黒いコスチューム着てると、誰が誰だかわかんないしさぁ
モブっすよ、モブ。
ほぼエキストラみたいなもんや、ぶっちゃけ。
再度、召集受けたらまた戦闘に駆り出されるだけです。
なんの問題もありません。
……俺もお前達と一緒のようなものだ。
ポツンとヒーローが呟く。
びっくりして見つめる手下たちに、ニヒルに笑って見せる。
所詮、ヒーローなんて一年契約だ。
来年になれば、新しいヒーローが出てくる。
そしたらお払い箱。
たまに呼ばれるとしたら、ヒーロー全員集合とかのイベントでの
ちょい役。
あっという間にあの人は今、な存在。
過去のヒーロー達のほとんどは雑踏に紛れて生きていくのさ……。
ヒーローがため息を吐くと、手下たちも項垂れる。
お互い、無理せずやり過ごそう。
そして、最後までやり切ろう。
ヒーローも極力モブの安全を考慮して武器を振るう事を約束した。
密約はこうして終わった。
***
モブ達は今日も吹っ飛ぶ。
悪は今日も打ちのめされる。
吹っ飛んでく手下は、微笑みながら
よし、今日の仕事はこれで終わりだ……。
おい、そんな言葉呟くな、バレたらどうする。
休日の爽やかな朝
大好きなヒーローは悪の組織を倒しまくっている。
テレビに釘付けの子ども達
ヒーローのコスチュームを身につけてポーズをとる
必殺技きまったーーかっこいい!!
今日も今日とてヒーローは世界の平和を守っている。
……そう夢見る子ども達のためにヒーローと悪の組織は頑張っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます