透明人間

@Kolokoro

私の日記

20×× 8 24 (金) 曇り

今日から、日記をつけようと思う。

きっかけは数日前のことになるが、今日はそれに関わる話でも書いておこう。

私に何か異変があれば、それは全て、この夏の夢のせいだ。



駅のホームには、透明人間が立っている。

駅のホームで、人々を見ている。

駅のホームで、毎日、毎日、立ち続けている。

どの駅にいるのか、何をしたいのか、知る人はいない。




数年前、都市伝説が流行ったことがあった。

そのときに流れた噂のひとつが、これだ。

駅の透明人間さん、と友達のひとりは呼んでいて、オカルトやホラーが大好きな男子が女子をびびらせてからかおうといろんな話をしていたから、私も当時はよく知っていた。

確か、軸となる話はこれくらいしかなくてあまり怖くないから、話す人によって結末が変わっていた。

透明人間は通勤ラッシュに紛れて人をさらっているだの、ポイ捨てをしたりして駅を汚した人の枕元で呪詛を吐くだのといった具合に。

ひどくありきたりで子供の想像の域をでない都市伝説のことなんて、今の私が覚えているのはこれくらいのものだが、一番記憶にある話は、透明人間さんは飛び込み自殺を止めるためにホームで人を見守っている、とかいう、怖さの欠片もない噂だった。私は都市伝説を信じてはしゃぐような性格じゃなかったけど、どうしてそんな怖くない都市伝説を語る人がいるのか全くわからなかった。

どこかのひねくれた可哀相な大人が暇潰しにネットに吐き出したのだろうとでも考えていた。

でも、今なら、もしかしてそれは実体験だったのではないかと、透明人間は本当にホームにいるのだと伝えたくて話したのではないかと、そう思う。

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