第47話
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第47話:ブラックリンク
ニュース番組の夜の特集枠。
ワイドショー風に作られた映像の中で、警察に捕まった若者が項垂れて手錠をかけられていた。二十歳そこそこの男が涙声で言う。
「……指示役は……“ラフィイ”って呼ばれてました。俺らはただ、指示された住所に行って荷物受け取って、金を持ち逃げするだけで……」
スタジオの解説員が冷ややかに言葉を重ねる。
「いわゆる“闇バイト”の胴元ですね。末端の受け子ばかりが捕まる一方で、指示役や胴元はまだ野放しのままです」
そのニュース映像が流れているのは、雑居ビル五階の一室。
画面を見ている数人の男たちは、笑い声をあげた。
「ははっ、名前が出ちまったか。“ラフィイ”ってよ。これで俺らも有名人だな」
「芸能人みたいなもんだろ。捕まったガキが俺らの広告塔になってくれるんだから、ありがたい話だ」
彼らは「ブラックリンク」と呼ばれる集団。詐欺の末端バイトをSNSで募り、情報弱者を狙って金を吸い上げ続ける胴元。
部屋の隅にはWi-Fiルーター、監視カメラ、空気清浄機、加湿器、電気ケトル、充電器が無数に転がっている。受け子との連絡のため、机の上には何十台ものスマホが並べられ、充電バッテリーが赤いランプを灯していた。
ブラックリンクは二重の手口で人を食い物にしていた。
一つはSNSでの「楽して稼げる簡単バイト」広告。
「#日給5万」「#未経験可」「#即金」など、若者の関心を惹く言葉を並べ、炎上ネタや有名人のスラングを添えてミーム化して拡散する。そこに釣られてやって来るのは、欲望に忠実な層。
「正社員なんて馬鹿だよな。俺はこれで月20万稼いでる」
「ネットで叩かれてたあの女も、こういうのやれば良かったんだよな(笑)」
彼らは罪悪感など抱かない。ただ「楽して稼げる」ことだけを信じ、笑いながら他人の金を奪う。奪った後も「チョロいな」「またやろうぜ」と、ゲームの延長にしか感じていなかった。
もう一つは借金に追い詰められた者を食う手口だ。
ブラックリンクは裏の高利貸しと繋がっていて、借金を返せなくなった若者に「働けば帳消しにしてやる」と持ちかける。
借金層の男たちはスマホで指示を受けるだけ。
「……すみません、今日も行きます。お願いします、取り立てだけは待ってください」
心は怯えと絶望で満ちている。金を奪った後、彼らの顔は笑顔ではなく、苦渋と涙で濡れていた。
「俺が悪いんだ……返せなかった俺が」
しかし返済は減らず、さらに借金は積み上げられる。まさに終わりなき罠だった。
ブラックリンクの若者たちは、ある時ひときわ下品な広告を打ち出した。
「炎上で人生詰んだあの女? 次は君が主役になれ! #アカリチャレンジ」
アカリの炎上動画を切り抜いた画像に「俺らの仲間になれ」と重ねたミーム広告。
その瞬間、アカリの目は冷たく光った。
自分をネタにされたことよりも、弱い人間を笑いものにし、食い物にするその行為が彼女を動かした。
「……許さない」
夜。ブラックリンクの事務所。
充電中のスマホ、机に並ぶバッテリー、光るWi-Fiルーター。
突然、照明がちらつき、空気清浄機のモーターが異様に唸りを上げた。
「なんだ?」
「停電か?」
次の瞬間、机の上のバッテリーが一斉に過熱し始めた。
赤いランプが点滅から点灯へ、そして膨張し、破裂音が連鎖する。
「うわっ!? なにこれ――!」
スマホを握っていた若者の指先に閃光が走り、悲鳴と共に感電。
爆発したバッテリーが炎を上げ、机ごと燃え広がる。
スピーカーからは大音量でアカリの炎上時のコラ動画が再生される。
「こいつマジでやばくね? 草草草」
「死んどけよ、マジで」
それは彼ら自身が茶化していた声。それに包まれながら、恐怖と苦痛に焼かれていく。
ラフィイが怒鳴った。
「Wi-Fi切れ! 電源落とせ!」
だが、既にすべての家電は支配されていた。電気ケトルが空焚きで発火し、モニターが破裂し、火花が飛び散る。
「やめろ! 助けてくれ!」
「こんなのドッキリだろ!? なぁ……」
笑い声は悲鳴に変わり、炎と爆裂の渦が部屋を呑み込む。
監視カメラの映像を見つめるアカリの瞳は、冷たく揺れなかった。
「――自分が良ければ、人を蹴落とし、奪う。その行為……身体に感じてくれましたか?」
カメラ映像が暗転し、ノイズが走る。
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Target43:ブラックリンク 感電・爆裂火災により死亡
組織1始末
NextTarget選定中――
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