第5話

【第5話:落ちる時は、一瞬だった】


──「信用だけが、俺の武器だ」


阿久津(あくつ)レンは、そう豪語していた。


SNSではフォロワー10万人を超える**“投資アドバイザー”**。

格安の有料サロンを立ち上げ、初心者に「ノウハウを教える」立場にあった。


YouTube・X・Instagramをまたいで、

毎日「この銘柄は来る!」「仮想通貨は今が買い」と語る姿は、

どこか胡散臭く、だが自信に満ちていた。


かつて、アカリが炎上したときも──

彼は“上から目線の警告”を投稿していた。


> 「ああいう子は、自業自得なんだよね。

10代でチヤホヤされると、勘違いしちゃうんだ」


その投稿が、2万いいねを超えた時。

彼はもう、勝利したと思っていた。


──だから気づかなかったのだ。


まず、ネット上の匿名掲示板に「阿久津の詐欺疑惑」が複数スレッド立てられた。


誰かが、彼の「過去に破産歴がある」情報を暴き出した。


阿久津はすぐに「デマだ」と動画で反論したが、

その直後──彼の過去の破産記録が、裁判所の正式データ付きでリークされた。


「これは、個人情報の不正入手だ!」

「名誉毀損だ!」

怒鳴る彼の声を無視して、次々と仮想通貨ウォレットの出金エラーが報告された。


彼が顧客に預けられていたビットコインは、全てどこかのウォレットに転送されていた。


スマホの2段階認証は突破されていた。

ノートパソコンの指紋認証すら、解除されていた。


どうやったのかは、わからない。

だが確かに、誰かが“中から”操作していた。


  ──そして、数時間後。


金融庁の公式サイトのPDFに、こう記載された。


> 「阿久津レン 氏:金融商品取引法違反の疑いにより調査中」

「仮想通貨ウォレットに関する一部凍結措置を検討」


彼のオンラインサロンは一夜にして全員が退会。

会員制LINEは閉鎖され、動画は削除された。


仲間と呼んでいた数人のビジネスパートナーも、彼から距離を取った。


何もかもが、音を立てて崩れた。


 


──その夜。


阿久津レンは、自宅の照明が勝手に点いたり消えたりするのを見た。


テレビが勝手に付き、音声アシスタントが再起動を繰り返し、

冷蔵庫の中の温度が上がっていた。


エアコンが動かず、窓を開けてもネット回線が切れず、

「誰かに見られている」気配に、ただ怯えるしかなかった。


──そして画面に現れたメッセージ。


> 「“信用”を食い物にして、人を笑った代償だ」 「あなたの言葉で、どれだけの人が地獄を見たか知ってる?」




> 「TARGET_04 → 終了済」




──その画面を見つめながら、

水瀬アカリは端末を閉じた。


表情は変わらない。

誰にも見せることのない、冷たいままの瞳。


次に進むだけだ。

黙って、静かに──“処理”するだけ。


 


> 《次:TARGET_05(調査中)》

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