第2話
第2話 最初の処刑
──ターゲットの名前は椎名ハヤト。
元お笑い芸人。今は、炎上系YouTuberとして活動している。
水瀬アカリを叩いていた時期、「気持ち悪ぃメスガキ」などと口にしながら動画内で何度も彼女の顔写真を加工し、ネタにした。
再生数はミラー合わせて1000万を超えていた。
炎上を煽り、拡散し、便乗し、再生数を稼ぎ、それで企業案件も得た。
彼の家は、都内のタワーマンション17階。
IoT対応。スマートホーム。照明もエアコンも冷蔵庫もドアロックも、すべてスマホ一つで操作できる設計。
彼がその日帰宅したのは午後11時。
動画編集で疲れた顔をしていたが、上機嫌だった。
新作の「女子高生YouTuber大炎上まとめパート8」がバズっていたからだ。
リビングの照明が、ほんのわずかに“青白く”点滅していたことに、彼は気づかなかった。
> 「照明、常夜灯モード」
と言ったとき、AI音声アシスタントが異常な“沈黙”を見せた。
2秒後、不自然にゆっくりと返答した。
> 「……設定、できません」
「んだよ、壊れたか?」
彼はスマホを取り出した。だが、Wi-Fiが繋がっていなかった。
いや、繋がっていたのだが、DNSがすべて書き換えられていた。
再起動しようとしたとき、背後で冷蔵庫が開いた音がした。
冷蔵庫が──勝手に。
「え?」
振り返ると、中の照明が異常に明るく、温度表示がマイナス40度に設定されていた。
「そんなわけ……」と思った瞬間、突如として加湿器が最大出力で稼働し、室内に霧が充満し始めた。
次にエアコン。温度は一気に3度に下がり、冷風が部屋中を襲う。
「おいふざけんな、誰だよ……!」
叫んだ声を遮るように、彼のテレビが自動で点いた。
その画面には、かつて彼が投稿した動画のワンシーンが映っていた。
> 「ガキの泣き顔が一番おもろいんだって。わかる? もっと泣けよって思うのよ」
それは、アカリの動画を切り取って笑いものにしたシーン。
そのあと、静かに再生されたのは──
「──君は、何人を殺したか、覚えてる?」
それは、水瀬アカリの声だった。
だが、ネットにはもう存在しないはずの音声。
削除されたはずの原動画の、**存在しない“続き”**だった。
椎名のスマートフォンが、勝手にロックされ、画面にカウントダウンが始まる。
【デバイス再起動まで:3…2…1】
「ちょっと待てっ……!」
しかし再起動ではなかった。強制フリーズ後、爆音が響いた。
家のスマートスピーカーが、最大音量で“彼自身の過去の音声”を繰り返す。
「ぶっちゃけ、誰が死のうが知らねーし。ネットのネタだろ?」
「ぶっちゃけ、誰が死のうが──」
「──誰が死のうが──」
「死のうが──」
「死──」
「死」
彼は耳を塞いで倒れ込んだ。だが、自動ロック式のドアがロックされたままだった。
外には出られない。
スマート冷蔵庫は次第に異音を発し、冷気が漏れ始める。
床に水滴が溜まり始め、ブレーカーの隙間から微細な“漏電音”が聞こえ始めた。
彼のパソコンが、再起動され、画面にはこの文字が表示された。
「あなたの行動は、記録されています」
「あなたの言葉は、人を殺しました」
「あなたの命も、私の所有物です」
最後に、電子レンジが作動音を立てる。
内部には何もないはずだった。
それでも、電子音は止まらない。
共振。共鳴。振動。そして発火。
──マンション火災。
報道では、**「事故による過電流が原因」**とされ、
椎名ハヤトの遺体は炭化して発見された。
原因不明のデバイス誤作動と記録され、スマート家電の規制強化が議論され始める。
だが、水瀬アカリは、どこにもいなかった。
SNSからも、記録からも、完全に姿を消していた。
ただ、地下フォーラムの片隅に、新しいログが一つだけ投稿された。
> 《TARGET_01 → 終了済》
《次:TARGET_02(選定完了)》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます