第3話 彼らは一体

まだ耳には銃声が響いてる。前を向くとさっき俺を確認しようとした監視隊の男が頭を撃ち抜かれ死んでいる。穴から垂れて広がった血が俺の足にまで広がっているに気づき、思わず足を引っ込めた。


「あっ...あのアルヴァラド...さん」


声は震えていた。さっきまでよくわからない人だったこいつらが今、人をあっさりと撃ち殺す得体の知れない者へと変わってしまった。言葉が詰まる。俺はこの人に何と言えばいいのか。


「セレン 大丈夫か」


安否確認、俺はまたこの人に助けられたのか。また人に助けられた。人殺しまでさせて、こんなんじゃ顔を上げられない。

アルヴァラドの手にはまだ硝煙の立ち上る拳銃が握られていた。


「私もテッドも無事よ。それよりみんなは」


セレンさんはこの状況でも恐怖を顔に一切出さなかった。強い人だ。だがますますこの人達がなんなのか分からなくてなってくる。


「今確認してくる。テッド、お前もついて来い」


言われるがままにテントを出た。

すこし歩けばさっきの小太りの男が斧を片手に血まみれの姿で辺りを警戒していた。


「アルヴァラド!、全員無事で負傷者なしだ。監視隊のやつらは片付けてある」


あれは返り血らしい。周りを見ても血のついたナタを持ってるやつ。銃に弾を込めてるやつ。そんなのが何人も見える。もしかしたら俺はとんでもないところに来てしまったのかもしれない。


「アルヴァラド、流石に4人もいなくなればここにも調査が入るぜ」


「だろうな、もし今見つかって本部に知らされたら終わりだ」


「今更集合地点を変えるのは難しいぞ」


「あと数日稼げればいい。先に潰しに行こう。

バートン、準備をさせろ」


話によるとあの小太りの男はバートンと言うらしい。

アルヴァラドとバートンは顔を見合わせて何か悩んでいるが、人を殺したことを悔やんでいるわけではないらしい。


「だな、仕方がないしやっちまおう。今の人員と装備なら制圧できる」


バートンの言葉を聞いて自分の耳を疑った。

制圧するだって?一体何を。それに助けてもらったとはいえなぜ規制されてる銃を何丁も持っているんだ。


「死体の処理が済んだら全員をそこの小屋に集めてくれ。それからテッド、お前はそこの焚き火で待っていろ」


いろいろ聞きたいことはあったが、アルヴァラドの鋭い目がそうさせなかった。仕方ないし待っていよう。


座り込んでチリチリと燃える焚き火をじっと見つめていると、さっき目の前で人が殺された事さえ一瞬忘れてしまう。

アルヴァラド達は小屋でなにやら話し合っている。気になるが小屋の入り口にライフルを持ったおっさんがいてとても盗み聞きしようとは思わなかった。



眺めていた焚き火が消え掛かってきた頃、やっと話し合いは終わったらしい。

小屋からぞろぞろ人が出てきて各自作業に取り掛かった。


「おい坊主、こっち来い」


バートンに呼ばれた。俺はこのままどうなってしまうのか、彼らが話し合っていた小屋に連れていかれた。


「アルヴァラド、連れてきたぞ」


ところどころ壁に穴が空いているボロ部屋の中は乱雑に物が置かれていた。

積み重ねられた箱、床に散らばった薬莢やよく分からない紙、その真ん中にテーブルが置かれその周りに椅子が並んでいた。


「テッド、悪いがお前には協力してもらう」


地図を見ながらアルヴァラドはそう言った。


「い..一体何に協力するんですか」


何に協力させられるのかはわからないが、確実に危険なことだろう。


「説明する。まず君を探しに来た監視隊を我々は殺した。4人も帰ってこなければ流石に奴らも気づくだろう、この場所の存在を」


「ここが気づかれてはいけない場所?あんた達は何者なんだ」


「ああ、失念していたな」


アルヴァラドは少しためらっているようだが、俺の顔をしっかり見つめて口を開いた。


「我々はこの国を変えようとする者、反乱軍だ」


反乱軍、衝撃的だがやっと今までの彼らの行動に納得がいった。だがしかし、反乱軍に協力するなんて国家反逆罪だろう。もし捕まったら死刑、そう頭によぎった。


「奴らにここを突き止められ増援を呼ばれる前に先手をうつ。今日殺した4人はこの近くの監視隊支部の連中だ。支部から本部に情報が伝わる前にそこを制圧する」


俺が悩み込んでいてもお構いなしに彼は説明を続ける。どうしたものか、危険ではあるが命を助けてもらった彼を裏切るわけには行かない。

それにこの国にはクソほど不満があった。

ふざけた農業政策、上がり続けるノルマ、腐敗しきった組織の数々、閉鎖的で規制の激しい社会、監視隊の横暴を野放しにするこの国



「そこで君には戦闘に加わってもらいたい」


反乱に加わるには十分理由が揃っていた。 

しかし 


「制圧に革命.... 殺しですか」


残る懸念点を彼に突きつける。俺だって真剣だ。

彼らの信念を確かめなければ


「...そうだ 殺しだ」


誤魔化しも否定もせずはっきりとした返答だ。

彼は箱から新聞を取り出しテーブルに投げ置いた。1ヶ月と4日前だ。


「そいつらは議事堂前で農業令48号の撤廃を訴えた連中だ」


新聞の見出しを指さして語りはじめた。何十人もの人が議事堂前でプレートを掲げる写真が載っている。


「彼ら84名は鎮圧された。その場で24名が  射殺、残りは北の収容所か炭鉱か」


彼は淡々と事件を語っていく。聞いているだけで胸に刺さる話で震えが止まらない。


「君もそれなりに経験しているだろう。この国の腐敗しきった数々を。話し合いでこの国が変わってくれるとは思うなよ」

 

俺の村や親父みたいな出来事をなくしたい。今のこの国の状態じゃそんなのは無理だ。根っこから腐っている。

それを、この国を変えるためには立ち上がらないとどうにもならない。

決めた、俺は戦う。


「ああ 分かったよ...俺 戦うよ」


「そうか.. 歓迎するよ」


アルヴァラドの顔が少し緩んだ。

ここへ来て初めて彼の感情が見てとれたかもしれない。


「作戦決行は明日だ。準備をする、来い」


小屋の外では皆が動き回りせっせと準備をしていた。

俺はその中をアルヴァラドに連れられた。


「あ、まーた拾ってきちまったんですかリーダー」


「これじゃ飯が減っちまいますよ はははっ!」


知らない奴らだがみんな愉快そうに笑っている。

その中で俺もしばらく準備を手伝った。

思いのほかみんな気のいい連中なのか、俺はすぐに馴染めた。





「できたわよ〜」


中央の焚き火からセレンさんの声が響いてみんなを呼び集める。

気づけばもう辺りが暗い。


「はい、少ないかもだけどごめんなさいね」


少し雪が降る中、列にならんで布に包まれたライ麦パンと芽と皮を剥いて煮たジャガイモをもらえた。雪の中で食いたくはないし小屋で食べるか。



「あ、坊主 ほらよっ」


「おっと」


通りすがりにバートンがスキットルをくれた。


「酒?」


「水な、酒なんてあったら渡さねえよ」



----------------------


さっきの小屋でやけに硬いパンをフォークで解体しているとアルヴァラドも入ってきた。


「いたのか」


そうつぶやくと椅子について何やらし始めた。


箱から出した弾丸をテーブルに1発ずつ並べて数えている。

小屋の中は薄暗い。テーブルに置かれたランプだけが俺たちの手元を照らす。したから照らされかすかに彼の顔が見える。


「親父....」


きっと彼に親父の姿を重ねてしまったんだろう。思わず言葉をこぼしてしまう。


「どうした」


「親父を思い出して、心配で」


姿が重なったなんて恥ずかしくて言えなかったが親父が心配なのは本心だ。


「そうか... 」


弾を並べる手を止め少し言葉を詰まらせた。


「監視隊の奴らはのろまだからな。

きっと君の父親もまだ支部の独房にいる、まだ死んでいない」


それが精一杯の励ましなのか、もう言葉は出てこなかった。それでも彼の言葉は十分俺の希望になってくれた。


「113.. 114発か」


弾を数え終えて、並べた弾を一気に箱へ放り込んだ。


「明日は早い、お前はもう寝ろ」


アルヴァラドはランプを手元に近づけ拳銃の清掃を始めた。古びていて木製のグリップが削れている傷だらけのリボルバー拳銃だ。


「ああ、もう寝るよ」







































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る