辺境から始まった戦記
@Wendigo63
第1話 彷徨い
「親父、こっちも全部おろせたぞ」
「わかった。こっちもすぐ終わるから準備しとけ」
親父が村で作物の受け渡しをしている。担当の男は渡した荷物の確認をしてやっと親父に一握りの金を渡した。
「もう出るぞ、燃料入れたか?」
「できてるよ、早く帰ろうぜ」
散々やってきた仕事の会話だ。やっと古びたトラックが動き出す。
「これでいくらだよ?」
「1840ロードだな」
「前よりも安くなってないか」
そんな会話を続けながら都市をあとにした。
すぐにレンガ作りの建物は消えて雪が少し積もった雪原と所々にある民家しか見えなくなった。
変わり映えのしない景色には飽き飽きだ。
「おいテッド、あれ見ろ」
「なんだよ親父?」
まだ村まで距離のある場所だった。少し先に何人か人が立っている。
「監視隊だよ、ほらあそこ。たぶん検問だなありゃ」
監視隊に車は止められて、1人こちらに近づいてきた。
「貴様らはこの辺りの村の者か?どこへ行った?なにをしていた?」
監視隊の男は武器を手に高圧的な態度で聞いてきた。
「自分らはこの先の村に住んでて、農作物の納品に都市へ行っていました。ほら受け渡し確認書もありますよ」
親父は慣れた様子で淡々と答えていった。
「ほぉ、問題はないだろうなぁ。しかしお前、車内に違反品は置いてないだろうなぁ?確認してやる!」
男は窓から手を突っ込み車内を引っ掻き回すように調べていった。
「ふむ、何も問題はないだろう。行ってよし、そら早く行け!」
引っ込めた男の手には金が握られていた。さっき稼いだ金だ。
「あ!稼ぎが、、」
「テッド、早く行くぞ」
すぐに車を走らせ監視隊から離れていった。
「いいのかよ、せっかくの稼ぎが取られちまって」
俺は親父に不満をぶつけるように聞いた。
「よくあることだよ。監視隊のやつら、都市の本部にバレないからって田舎じゃずっとあんなんだ」
車はまともに舗装されていない道路を再び走り出した。さっきの監視隊の姿ももう見えない。
日が暮れた頃、やっと村に着いた。暗い中、手元のランタンを頼りに荷物を整理する。
「テッド、それとそれもっていってくれ」
少し雪が降る中、俺も親父も手荷物いっぱいで家へ帰った。
「あら、おかえりなさい 貴方、テッド」
母さんは家へ帰ってきた俺たちを見て最初に言った。仕事から帰ってきたらいつもそう言ってくれる。俺はすぐ暖炉の前に座って、雪の寒さで悴んだ指先を温めた。
「ご飯できてるわよ。テッドの好きなシチュー」
俺はそれを聞いて食卓に飛んで行った。冷えた体をシチューは内から温めてくれる。親父もやってきて暖かなシチューとパンを食べた。
「美味しかったよ母さん、ありがとう。明日も朝早いからもう寝るよ。」
そのまま部屋ですぐ眠りについた。
目覚めてすぐパン一切れと水筒、クワを持って家を出た。
「あらテッド、早くから頑張るねぇ」
「あの子まだ17でしょ。働き者ねぇいいことだわ」
村の婆さん達の声が聞こえる。俺は少し離れた村の畑に行く。まだ誰も来てない畑で俺はせっせと仕事をした。これが俺の日常だ。
どれぐらいやったか日が登ってきた頃、畑仕事に何人かやって来た。
「よおテッド、お前やっぱ早いな」
ロイグも農具を担いで揚々とやってきた。
「よおロイグ、がんばろうぜ あれ兄貴は?」
「あいつさぼりだよまったく。起こしてもベットから出ようとしない」
「ベットから引きずり出してやれよ、はははっ」
そんな会話を重ねながら畑仕事を進めた。
日がもうすぐ頭の真上にくる頃、俺とロイグはバカな会話をしながら帰っていた。しかし何か騒がしい、村の真ん中で何か起きている。それが気になって家から方向を変えて村の広場に向かった。
何か声が聞こえる。いくつかの怒号も響いてきた。
「この村にはまだ残ってる分があるだろう、早く出せ!」
「しかしです その分が無くなると村のみんなが食えなくなってしまいます。どうかそれだは!」
広場で何かもめている。あの怒号はあそこにいる監視隊のものだ。村長はなんとかならないかと頭を下げ監視隊に頼み込んでいる。
「村長!おいやばいぜロイグ、村長と監視隊の奴らが揉めてる」
俺達は離れたところにある物陰に隠れて広場を覗いてた。
「まずいぜテッド、昨日も来てたぜあの監視隊のやつら。昨日からずっと無理な要求してくるんだ」
みんなが家の中からひっそり見ている。村に緊張が走る。村長はなんとかしようとずっと監視隊に頼み込んでいる。
「いい加減にしろ!さっさと渡せ!」
「うがっ!」
とうとう監視隊の1人が村長を殴りつけた。
村長は悶えながらも何か言おうとしている。
「そんな!このままじゃ村長が」
俺は思わず飛び出しそうになったが押さえつけられた。ロイグだ。
「バカっ!お前まで酷い目にあっちまうぞ」
「!...くそ、どうすれば、どうにかしなくちゃ」
俺は何かないかと必死に考えた。辺りを見回した。こうしてる間も村長は監視隊に詰められている。
「ちょっと待ってくれ!」
広場にその声が響いた。親父だった。親父は何か大きな袋を持っている。額には汗をかいて必死に監視隊を呼び止めた。
「貴様はなんだ!我々の邪魔をするか!」
監視隊の1人が親父を睨みつけ警棒を取り出した。
「いえいえ、そんな気はありません。その、貴方達が欲しいのは食糧ですか?代わりになるか分からないですがお金があります。これでなんとかならないですか」
親父は袋の中を相手に見せた。
「ほお、貴様らが提案するか。しかしいいだろう今回は」
監視隊のやつらは不敵な笑みを浮かべている。
監視隊の男は、親父の金の詰まった袋を取り上げると、どかどかと音を立てて帰っていった。
「よかった。でも親父、良かったのかよあんな大金」
なんとか凌ぐことができ、ほっとしている親父に聞いた。
「そう言ったって仕方ないだろ、あのままだったらどうなってたか分からない」
親父はそう答えると汗を拭った。
「俺、何も..出来なかった。目の前で起きてることだったのに...」
そんなことを言った俺を親父が頭を撫でた。
「当たり前だろぁ、仕方ないさあんなの。大人だって怖いし動けない、これからだよお前は」
親父はそう言うと村長の方に行ってしまった。村長や村の人から礼や称賛をもらっている。
「すげぇぇ お前の父さん!カッコいいじゃん」
ロイグが俺にウキウキして言ってきた。
「ほんと、すごいよ親父は」
その夜、親父はなけなしの金を数えながら暖炉の火に当たっていた。
「なあ親父、なんで監視隊のやつらはあんなに好き勝手してるんだ?仮にも国の治安維持組織だろ」
俺はずっとあった疑問を親父に問いかけた。
「そうだな、監視隊は国家への反乱を企む者や犯罪者などを取り締まる。監視隊には特権がある。危険な人、怪しい人、そんなのを現場判断で逮捕、取り調べができるんだ」
小銭を数えながら親父は淡々と答えた。
「でも本当に問題がなかったら解放されるんだろ。それに今日、あいつらが食糧を奪おうとしたことは関係ある?」
分かりきっている監視隊の役割より大事なのはそこだ。
「ここは辺境だ。電話もラジオも使えない。何をしても都市部にバレないんだ。だから都合が悪いと逮捕してそのまま留置する。それを脅しに辺境の村々から搾取する。ほんとろくでもないな」
疲れ切った顔で立ち上がる。
「これで今日はお終いだ。ほら、お前ももう寝ろ」
親父は部屋に戻っていった。
夜も遅い、俺もおとなしく寝た。
明日も明明後日もその次も次も次も、村はしばらく平和だった。あれから1週間、また村に監視隊がやってきた。村長に何やら怒鳴っていがどうやら今回は食糧が要求じゃないらしい。
「あいつだ やるぞ」
監視隊の男が親父を指差して言った。
俺は何もしてないはずの親父が呼ばれたことに驚いた。嫌な予感がする。何もなかったらいいんだが
「貴様がデロルト ソロヴォイか 貴様には公務執行妨害及び窃盗罪の疑いがある。よってここで逮捕する」
監視隊が親父を取り囲み武器を向けた。
どういうわけか親父は抵抗せずそのまま指示どおり動いた。
「違っ、そんなことない。親父がそんなことを」
「テッド!」
親父が俺の訴えを遮って叫んだ。
「教えただろう、こういうことだ」
親父そのまま監視隊に連れて行かれてしまった。
「親父、また何も...できなかった..」
俺は連れていかれる親父を見ていることしかできなかった。やがて親父も監視隊も見えなくなったが無力感に苛まれて立ち上がれない。
なんとか家に帰り母さんに出来事を伝えた。母さんは泣き崩れた。不安で頭がいっぱいだ。
監視隊は何がしたいのか。なぜ親父が連れて行かれたのか、それすら分からなかった。
しかしそれはすぐわかることだった。
親父が連れて行かれてから三日後、監視隊がまた村に来た。家のドアを激しく叩いている。
「連行したデロルトの取り調べのため、家宅捜査を行う」
そう言って監視隊たちは家に入り、そこらじゅうを荒らしていった。金から大切な指輪まで、金になるもの、大切なものは全て持っていかれた。
連日、監視隊に荒らされ俺も母さんも疲れ切っていた。それでも2日後、監視隊は再び家にやってきた。
「テッド ソロヴァイを逮捕する」
監視隊の男が無慈悲にもそう告げた。
なんで俺も連れて行かれるのか分からなかった。
母さんがもう我慢の限界と言わんばかりに立ち上がって監視隊の男に訴えた。
「なぜです!なぜこの子を逮捕するんですか!テッドが何をしたって言うんですか!」
訴え続ける母さんを監視隊の男が殴りつけた。
「邪魔するな!我々監視隊には捜査する権限があるのだ」
「母さん!やめろよてめぇ!」
「まだ歯向かうか!ええぃ、いい加減にしろ」
監視隊の男は刃物を取り出し俺に向かってきた。
腕を振り上げ俺を今まさに切りつけようとしたときだ
「はあぁ...はぁ..はぁっ」
母さんがナイフを監視隊の男の脇腹に後ろから突き刺した。
「うぐっ あっぐぅ...くそっ!」
男は倒れ込み、床に血が広がっていった。
「母さん...」
「逃げなさい!すぐによ。もう言い逃れできない。森よ、北の森なら見つからないはず。だから早く..」
血で汚れた手で母さんは俺の手を握り言った。
「行って」
その言葉に突き動かされるように、とにかく走った。凍える寒さも足を取られそうになる積もった雪も今は関係なかった。悴む指先を気にしてはいられない。
とにかく走り続けた。
どれほど走ったか。足跡は降り積もる雪がすぐに消していった。。周りを見ても木と雪しかなくどこかも分からない。限界だ。もう走れない、立ち
上がれない。
肺が凍りついたように息が苦しい
意識が遠のいていく
視界がだんだんと... 狭まって
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