第35話 共に刻む意志
蓮とリィナは血に濡れた指で床に文字を描き続けていた。
声を奪う沈黙の本体に対抗する唯一の手段は、意志を記すこと。
兵士たちの胸に刻まれた文字が輝き、かろうじて白紙化を拒んでいる。
「……はぁ……っ……リィナ、まだいけるか……!」
リィナは肩で息をしながらも頷いた。
「ここで止まれば……終わる……。書き続けろ、蓮!」
二人は再び指を走らせようとした。
だが、沈黙の本体が腕を広げ、広間全体に白紙の波を放った。
兵士たちが一斉に崩れ、床の文字まで消されていく。
「……っ、消される……!」
その時だった。
「やーっと見つけた! あんたたち、相当な残業してるね!」
突如、蓮の肩にひらりと紙片が舞い降り、人の形を取った。
顔は墨で描いたようなにやけ顔。
尻尾にはしおりの房が揺れている。
「……は?」蓮は呆気に取られた。
「なんだこの付箋みたいなやつ……」
「付箋じゃない、パピルス! 沈黙の区画をずっと監視してた偉大な精霊だよ!」
小さな紙片の体が胸を張る。
リィナは目を細めた。
「……また厄介なものが……」
パピルスはくるりと宙を舞い、沈黙の本体を指差した。
「やばい相手と遊んでるねぇ。あいつは“白紙化の中心”。でも弱点はあるんだ」
蓮が思わず身を乗り出す。
「弱点!? 早く言え!」
「慌てなさんな。声が奪われても、“書かれた言葉”までは消せない。
でも――“複数の言葉を重ねる”ことで初めて核を貫ける」
「複数……?」
リィナが瞳を光らせた。
「つまり、二人以上の意志を同時に刻む必要があるということか」
「正解! さすがクールビューティー司書!」
リィナの眉がぴくりと動いた。
「……その呼び方は二度とするな」
沈黙の本体が動いた。
赤い瞳がぎらりと光り、再び白紙の波が広がる。
「来るぞ!」
蓮はカードを床に叩きつけ、血で大きく文字を描いた。
『抗え』
同時にリィナも本のページを破り、床に投げ出す。
そこには古い記録の断片が記されていた。
二つの言葉が重なった瞬間、兵士たちの胸に強い輝きが走る。
――我らは二つの意志。
――沈黙には屈しない!
光の軍勢が押し返し、沈黙の本体が初めて後退した。
蓮が振り返り、肩の小さな精霊を見た。
「パピルス、今のが……!」
「そう! 二人の言葉が合わさったからこそ効いたんだよ!
で、ぼくも混ぜてもいい? 三人目の力ってことで!」
「……お前が混ざったら余計カオスになりそうだな」蓮は苦笑した。
「ちょっと! ぼくは役に立つって!」
パピルスはぷりぷりしながらも、きらりと光る目を向けた。
リィナが本を構え直す。
「蓮、次で決める。私とお前の意志を完全に重ねろ」
「おう! ……ついでにパピルスもな」
「だからぼくを無視するなって!」
無音の広間に、奇妙な三人の気配が並び立つ。
沈黙の本体の赤い瞳が、さらに強く輝きを増していた。
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