第25話 深淵を切り裂く声
閃光が広間を覆い尽くした。
眩しさに目を細めながらも、藤堂蓮は必死に声を張り上げていた。
「俺は藤堂蓮だ! ここで忘れるもんか!」
隣でリィナも声を重ねる。
「私はリィナ! 記録を守る司書だ!」
二人の叫びが共鳴し、光が一層強く輝いた。
兵士たちが再び現れる。
だがその姿は以前よりも鮮明で、胸には蓮とリィナ両方の言葉が刻まれている。
彼らは声を揃えて咆哮した。
――我らは声。
――我らは記録。
――忘却に屈しない!
その響きは衝撃波となり、巨影の胸を直撃した。
赤い瞳が揺れ、巨体がよろめく。
深淵の口から黒い霧が吹き出し、本棚を呑み込んでいた闇が一瞬だけ後退する。
「効いてる……! 本当に効いてるぞ!」蓮が叫んだ。
リィナも頷く。
「声が深淵を切り裂いている……!」
だが巨影は呻きながらも踏みとどまり、再び口を大きく開いた。
広間に轟く囁きが二人の意志を揺さぶる。
――お前たちの声など、一時の幻。
――すぐに掻き消える。
兵士たちの何人かが揺らぎ始める。
蓮の胸に激痛が走り、膝が折れそうになった。
「ぐっ……! まだ足りないのか……!」
リィナが彼の肩を支え、鋭く言った。
「蓮! “名を叫ぶ”だけでは足りない! “何を守るのか”を明確に刻め!」
「何を……守る……?」
囁きが頭を侵し、思考が白く霞む。
だが、その霞の中で浮かんだのは――
母の声。
友人の笑顔。
そして、ここまで共に歩んできたリィナの背中。
「……守りたいのは……全部だ!」
蓮はカードを床に叩きつけ、血に濡れた指で文字を描いた。
『全てを繋げ』
光が爆ぜ、兵士たちがさらに輝きを増した。
声はもはや咆哮ではなく、合唱のように広間全体を震わせる。
――我らは記録を守る盾。
――我らは声を繋ぐ刃。
――忘却の深淵を切り裂く!
巨影の赤い瞳が大きく見開かれた。
胸から腹にかけて裂けた口に光が突き刺さり、闇が抉られる。
轟音とともに巨体が後退した。
初めて、本気で傷を負ったのだ。
「やった……本当に傷つけた!」蓮が叫ぶ。
リィナも声を震わせた。
「忘却の深淵に……亀裂が入った……!」
だが喜ぶ間もなく、巨影の全身が赤黒く脈動した。
無数の瞳が一斉にぎらつき、広間全体が闇に覆われる。
――抗う声よ、最後に証明してみせろ。
――お前たちの“記録”に価値があるのかを。
闇と光がせめぎ合い、空間が軋む。
深淵の記録庫の決戦は、ついに最終局面へ突き進もうとしていた。
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