第2章:巨人の襲撃
「おおっ、テオ先輩じゃん!」
若者がそう叫びながら、小さな石垣に腰かけていたテオの背中を思いきり叩いた。
「元気してんの?」
「まぁ、相変わらずだよ…お金もないし…まだちょっと落ち込んでるし…人生ってこんなもんだろ?」
テオはそう言って、食堂でもらったハムチーズサンドをかじりながら、ぼんやりと空を見上げた。
「…お前、大丈夫かよ?」
若者は少し顔を寄せて、テオの隣に腰を下ろした。
「なんかあった?」
「…そんなに顔に出てる?」
テオは彼に視線を戻した。茶色いくせ毛に日焼けした肌、まるでブラジルのサーファーそのものだ。
「さっき、ランクマの最後で回線落ちてさ…友達がめっちゃ損しちゃったんだよ」
「どんくらい損したって?」
「彼女、LATAMの1位になるとこだったんだよ」
「マジかよ、そんなことでクヨクヨすんなって」
「じゃあ俺は何すればいいんだよ、Gab?彼女がどれだけ頑張ってきたか無視しろってか?」
「いや、知らねーけどさ、土曜日の大会に集中すんのもアリじゃね?スカウトも来るらしいしさ。それに、その友達ってさ…会ったことあんの?」
「あるよ」
「リアルで?」
「いや…」
「マジか〜それはキツいな…」
Gabは笑いながらそう言った。
「まぁ、心配すんなって。土曜の大会、ワンチャン全部変わるかもよ」
「そんな簡単な話じゃねぇんだよ、Gab…」
「知らんがな」
Gabはぴょんと立ち上がり、のんびり歩き始めた。
「とりあえず、学校にトロフィー持ち帰ってくれりゃ、それでオレは満足だわ」
「ほんと、お前はバカだな…」
テオはため息をつきながらも、少しだけ笑った。一瞬、太陽の光が目に差し込み、彼は手をかざして眩しさを防ごうとした。そして、いつものように遠くに見える大きな像へと目を向けた。
「本当にいるのか分からないけど…大会のときは味方してくれよ」
テオは遠くのコルコバードの丘に立つキリスト像を見つめながら、静かに語りかけた。
「ゲームでは祝福されなかったけど…人生では変えられるかもしれないしな」
「はい、今日はここまでー」
先生がノートパソコンを閉じ、ホワイトボードのコードを抜きながら声を上げた。
「みなさん、良い週末を。そして今週の質問は:細胞の中でDNAが一番多く含まれている構造はどこでしょう?」
「リボソームっしょ!」
ガブがすぐに叫び、笑いながら答えた。
「当たっても外れても、どうせ宿題出るんだろ、ロ先生〜!」
「最近の若者は、本当に信じる心が足りないな」
先生はドアの前に立ち、チャイムを待ちながら少し笑って言った。
「でも、今回はゆっくり休んでいいぞ。明日は大事なTarotの試合があるからな。しかもこのクラスから、ある生徒が出場するんだ…補欠としてだけどな。でも、ちゃんと準備はできてるはずだ」
「ありがとうございます、先生…」
テオは机にうつ伏せになったまま、小さな声でつぶやいた。
そしてゆっくりと古いリュックにノートをしまい、立ち上がる。チャイムが鳴ると、教室の出口は生徒でいっぱいになったので、彼はいつも通り後ろで待つことにした。
その間に、スマホを取り出し、いつものように親友にメッセージを送ろうとした。
「授業終わったよ、じゃあね」
テオはそうメッセージを書いたが、送る前に考え直した。
「授業終わった。あとでTarotに入るよ」
そう書き直して、彼はすぐに送信した。すると驚いたことに、アナからすぐに返信があった。
―「準決勝前の最後の練習だね…」
テオは声に出してメッセージを読んだ。
―「明日、直接会えるのを楽しみにしてるよ。君のチームをボコボコにしてやるからね…」
うーん…
テオは少し考え込んだ。挑発は苦手だったからだ。アナはいつも一人でやっていた。
「来いよ、ベイビー」
そう入力して送信した。送ったことに気づいた時、彼の肌が赤くならなかったのは、色が濃いからに過ぎなかった。
「やばい、マジでこれ送っちゃったのか…めっちゃキモいな…」
テオはキャンパス内を歩きながら、何人かに挨拶をした。途中、茂みの枝で遊ぶ子猫の写真も撮った。ずっと、もうすぐ始まる試合のことを考えていた。ほかのチームに勝てるかどうかはわからなかったし、そもそも自分が出場できるかもわからなかった。ゲームでは運がなかったからだ。
校舎の白い壁を抜けて、ようやく練習場所に着いた。
スターティングメンバーは全員いたが、いつものように控えの選手は一人だけだった。そう、彼自身だった。
「おう!」
バーチャルリアリティのゴーグルをかけたマルセロが声をかけた。
「明日の試合、準備はできてるか?」
「たぶん…」
テオはいつも使っているパソコンに向かいながら答えた。
そこは大きな部屋ではなく、4メートル×5メートルほどの広さで、6つのセットアップと壁の大きなホワイトボードがあり、戦略を練るのに使われていた。
本来はコーチが使うパソコンだが、彼は控え選手のテオに使わせてくれていた。
「練習はどうだ?」
「順調だよ」
黒人のアフロヘアの女性が答えた。
「やっとキャラクターの最終レベルに近づいてるんだ。これまで8年かかったけどね…」
「うわ…それはかなり早いね」
テオは女性のパソコンの画面を見ながら言った。
「どんなスキルがアンロックされると思う?」
彼は女の子のアバターが巨大な土の壁を作るのを見つめた。
「うーん…」
女性は一瞬マウスとキーボードを置いた。
「大きな隕石を落とすのも面白そうだよね…」
「それだと、敵チーム全員を倒せるかも…いや、うちのチームだ!」
マルセロが叫んだ。彼は自分の装備を狂ったようにクリックし始めた。
「でも、それは楽しいよね」
ビアンカが答えた。彼女はテオと話しながら、他のキーボードを同時に操作し、複雑なコンボを組み合わせていた。
足元のボタンも使っていて、片足に3つずつ、合計9つの違う組み合わせを使っていた。
「で、テオはどう?ゲームの調子は?」
「まあまあかな…今日はほぼ1位の人を倒せそうだったよ」
「何の1位?ランク?」
「ラテンアメリカのね…」
テオは椅子に座り直した。
「『Arcana』はもうそんなに強いの?」
マリアが話に割り込んできて、テオにコシーニャを差し出した。テオは優しくそれを受け取った。
「そうだよ。彼女はまだ世界一になるはずだ」
テオは誇らしげに言った。
「俺たちの世代の期待の星だと思うよ」
「まあ、それほど自信持たなくてもいいと思うけどね。結局、彼女のチームとは決勝で当たるんだし…明日の試合を勝ち抜ければだけど」
アンジェリカがそう言いながら、モニターとパソコンから少し離れた。
「テオは彼女のペースについていけないのが残念だわ」
「ねえ、そんなにキツく言わなくてもいいじゃん」
ビアンカはゲームを一旦止めて、チームキャプテンをじっと見つめた。
「テオは私たちが今までやった中でもトップクラスのプレイヤーだよ。あなたもそう言ってたじゃん」
「それは否定しないけど」
アンジェリカは没入型ヘッドセットを外して、話している相手の目を見た。
「でも、テオと今のトッププレイヤーを比べるのはフェアじゃないわ。しかも、彼のキャラはほとんど何のスキルも持ってないのよ。彼は文字通り世界一運のない男よ」
そう言って、軽く笑った。
「彼には一度だけ、何か役に立つスキルを得られるチャンスがあったけど…ほら、彼のキャラはスキルゼロなんだから!」
「でもさ、もしスキル持ってたら、あそこまで武器マスターになれたかどうかはわからないよ」
ヘリオがコシーニャをもう一つ取りながら言った。
「みんな彼と同じことはできるかもしれないけど、彼ほど幅広く武器を使いこなせる奴はいない。間違いなく今回の大会で一番の武器使いだよ」
「でも、それって代償が大きいんじゃない?」
アンジェリカはゆっくりテオを指さした。
「リックも言ってたわ、『良いプレイヤーであっても良いキャラを持ってなければ意味がない』ってね」
「逆に、良いキャラ持ってても下手くそじゃ意味ないけどな」
テオはリュックからヘッドセットを取り出し、使っているパソコンに接続しながら言った。
「悪く思わないでくれ、ジェル。だけど、このゲームで『ボタニスト』って言われるのはたいしたことじゃないんだよ…スキルがあろうとなかろうと、俺は自分のキャラのままでいいと思う」
テオは話の流れを維持しようとしたが、うまくいかなかった。
結局、アンジェリカは彼を怖がらせるだけでなく、完全に怯えさせていた。テオはその瞬間くらくらしたが、ずっと言いたかったことを言えたことで、少しだけ満足していた。
「みんな、すごく熱が入ってるな」
ロベルト、コーチ兼担当教師が言った。少し遅れて来たが、すでにその熱気は場を包んでいた。
「でも、今はそんなことは関係ない。アンジェリカ、テオに謝れ」
「ごめんね、『0-P』」
アンジェリカはテオをさらにからかうように言った。
「いいよ」
テオは頭を下げ、使っているパソコンにログインし始めた。心臓は速く鼓動し、目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「ほら、問題ないだろ!」
ロベルトは選手たちの鋭い視線を気にせず、ホワイトボードへ歩み寄った。
「明日は大事な日だ。今から話すことをしっかり聞いてくれ」
教え子たちは全員、真剣な顔でロベルトに注目した。
「君たちは俺が見てきた中で最高のプレイヤーだ。このトロフィーは手に入れるぞ。アンジェリカ、通称『エンジェル』、君がキャプテンなのは理由がある。難しい状況で決断を下せるからだ」
「私だね」
少女は頷いた。
「明日は君の冷静な判断に期待している。ビアンカ、君は我々の防波堤、盾だ。だからニックネームは『ムラリャ(壁)』。DPSをずっと守って、彼女が輝けるようにしてくれ」
「任せて」
ビアンカはマリアを見ながら言った。
「『セックスファイヤー』は私が守る限り、すべてを焼き尽くすわ」
壁役の彼女はマリアを見て言い、マリアはうなずいた。
「…」
ロベルトは作戦の続きを話そうとしたが、テオが口を挟んだ。
「本当にうまくいくんですか?」
テオは動悸が激しくなりながら、画面から目を離さずに尋ねた。
「なんだって?」
ロベルトは険しい顔で彼を見返した。
「彼らには我々と同じく、全プレイヤーの位置を把握できるセントリーがいる。でも、敵の戦闘員をあまり警戒していないように思います…」
「どういうことだ?」
ロベルトは大きく笑った。
「『トキシデス』という名前の奴です。毒の雲を投げつけたり、酸を放つ攻撃まである。セックスファイヤーを第二のタワー前に倒されるかもしれません。リスポーンとバフのシステムで、少しずつ押し込まれる可能性が高いです」
「またテオが新しい戦術を考えられるように、わざと変なプランを出してるんでしょ?」
マルセロは顔をしかめながら言った。
「俺たちがテオの言うことを聞かなかった唯一の試合が負けたんだ。これ以上言うことあるか?」
ロベルトはカジュアルにゲームしているテオに向き直った。
「彼に必要なのは、ひどいプランを与えてやることだ!まだそれがわかってないのか?」
「じゃあ、パワーゼロ、これからどうやって目標突破すんの?」
アンジェルが若いテオを軽くつついた。
「まずは、もう少し敬意を払ってもらいたいな」
テオはアンジェルをじっと見つめた。体が震えていて、座っていたから倒れなかった。
「わかったわかった、パワーゼロさん、もう一回休戦ね」
「よしよし、まずは話を始めようか…」
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