武闘派作家の取材記録〜神の力を操り、俺はハッピーエンドを虚構する〜」

@Kagiotoko

プロローグ「発現」

プロローグ(前編)「デウス・エクス・マキナ」






その日は俺にとっての最初の能力使用日となった。


もうすぐ60代になる俺にとって、使い方のわからなかった能力を使えるようになったのは他人の目には遅すぎるように映るが。俺にとっては念願の自分だけの特別だった。これは確実に喜ぶべきものだろう、しかし願いがかなったというのに俺は素直に喜べなかった。




俺は自分の能力を知るべきではなかったし使えるようになるべきではなかった。




俺の人生の歯車が一個ずれた音がした気がした


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我々の知る世界ではないある世界のある国ブリタニ王国のどこにでもある宿で、何処にでもいる売れない作家は白紙の原稿を見つめながら頭を抱えていた、それはいたって普通のことでどこにでもある光景だった、そう何を書けばいいのかわからなかったのだ。


作家は出版社、オペラ、劇団、しまいにはサーカスにも原稿を持ち寄り、ことごとくはねのけられてきた。作家は知っていた、彼らはものの数分、ひどいときには数秒作家の原稿を読んだだけで駄作の烙印を押したのだ。




それすなわち、最初に問題があるのだ、タイトルか書き出しか、はたまたテーマか。


何かが悪いという結論まではたどり着いたが、結局何が悪いのかはわからなかったのだ、どれも自信があったし今でも面白いと作家は感じている。


作家がこのループに囚われ早数時間、ドアがノックされる、しかし作家はもうすでに精神世界のカオスに閉じ込められており、もはやノックを感知する程度の脳のリソースすらもカオスからの脱出に充てられていた。




幸いなことに来訪者はノックの返事を待たずノックと同時、否ノックより前に部屋にはいてって来ていた。




「ハンク~帰ったよ。」




かわいらしい声と、人を侮った口調、可憐な少女の容姿を持った女がそこにはいた


作家は2時間前、助手には1時間でティータイムは終わらせるように釘を刺しており。普段なら憤慨しひどくお説教するはずだが。時間の概念すら忘れるほど集中していたようだ。


助手は悪びれる様子もなく言葉を続ける。


「あんた。まだスランプやってんの?」


ハンクと呼ばれたその作家もようやく助手の存在に気付く、


「ああ、戻ったか。新作のスイーツはうまかった

か?」


作家は疲れからか、現実逃避に助手の一番したいであろう話に付き合う



「ああ!うまかったぞ!やはりレモンの香りが…」




自分の問いを無視され問で返されたというのに、逆に機嫌を良くし、そこからは助手がしゃべり続け、ハンクは赤べこのようにうずくだけの人形とかしていた。






少しハンクもリラックスできたのか状況を客観的に分析できるようになってきていた。スランプ脱出のためにも今を何かにたとえてみようとおもった、ハンクは赤べこで、助手は水を得た魚のようにぴょんぴょんはねながら口をパクパクさせている。




「いや、水揚げされとるやないかーい」




ハンクは自分の脳内で考えたボケに自分でノリ突っ込みをした


ハンクはうまいこと言ってやったという雰囲気だが、客観的に見ても助手から見ても。脈絡のないその意味不明の突っ込みは、フツーに下手なホラー小説よりも数倍怖い雰囲気であった。


助手からしてみればレモンチーズケーキの話が終わり、モンブラン編に突入して、「やはり栗が上質なのか」と話した矢先「水揚げされとるやないかーい」だ、


やはり意味不明である




助手はさすがにこのまま放っておくと精神崩壊を起こしかねないと思い本気でアドバイスをしてみる


「あんたのフィクション突拍子がなさすぎなんだよ、たまにはノンフィクションでも書いてみれば」


ハンクは本当に目からうろこを流していた、少なくとも感受性が豊かではない助手も幻視するほどには真実味のある反応だった、このリアリティを小説に落とし込めれば少しぐらいは人気が取れるのに、と思う助手である。




「ノンフィクションか!確かに変わるかもしれない!よし殺人一家のうわさがあるルビー家に行こう、遠くはないし日帰りで行けるはずだ」




先ほどの言葉は撤回しよう「精神崩壊を起こしかねない」ではない、もう起こしていたようだ。この男はもともとそんなフットワークが軽い男でもないし、貴族の家などはいれるものではない。と助手は考えている




「今から行くんか!?」




「もちろん!」




その簡潔で何も考えていなそうな回答が助手の神経を逆撫でしていることをハンクは知らない。






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「本当におっけいもらえちゃいましたな」




「ああ、俺も本当に許可がるとは思っていいなかった」




「しかも今日は遅いから夕食で出してもらえるとか」




「ラッキーだな」




「いや絶対怪しいだろ、大量の借金吹っ掛けられてもおかしくないぞ、平民に払える金額では確実にないぞ」




「では逆に聞くが、かえすあてがない人間に借金を背負わせて何のメリットがあるんだ?」


「それに、ルビー家は自分たちの家業に相当心血を注いでいる、ルビーをとるだけでなく、さらに赤くする研究も行っているそうだ」


「今更儲かってるのに貧乏人に金をたかるようなことするかね」




助手は納得してしまった


二人そろって客間から出るとそこには大量の使用人がいた、緊張した雰囲気で案内されると、そこは食卓だった。豪華な食事が並んでおりハンクは目をぐるぐるさせていた、しかし一方助手のほうは、悔しがっているようだ。




助手はティータイム中にケーキを二つも頼んでおりおなかがあまりすいていなかったのだ、使用人たちに導かれるまま食事にありつくハンクと助手、当然だが貴族様はいない平民と食べることなどないのだろうと二人とも推測した。




そして食事が終わり、二人は取材という目的を忘れかかけていた、しかし使用人は忘れていなかったようだ。なんと貴族様から直接話を伺えるらしい、部屋に戻って待つように言われ二人そろって客間で待機する。




ひまなので考えてきた取材の内容を整理する、




最近近隣で人さらいが増えている


狙われるのは若い女性ばかり


最近はルビー家の家業ルビーの採掘がうまくいっていない


やべこんなこと聞いたら怒られるぞ、打ち首かもしれない


いやでもルビー家は寛大だそうだ。いけるか?




そんなことを考えているうち、食べ過ぎたからかハンクは、助手に人が来たら起こしてと言い残し寝てしまった。そして助手もまぁ使用人さんが起こしてくれるだろと楽観し、寝てしまった




―それが死への片道切符だと知らずに






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ハンクは猛烈な吐き気とともに目覚めた、えづきながら、吐ける場所を探し走る。


客間を出ようとしたところで外からカギが締まっていることに気付く、


―絶望とともに、ご馳走だったものをすべて床に吐き出した。


助手があんまり食べないから、もったいないと全部食べたのだ。若いころはこんなことはなかったと。歳を感じ、みじめになる。


そして、そんな自分を茶化すこえが聞こえないことに違和感を持つ。助手が部屋にいないのだ「俺を置いていき鍵を閉めた?」いいや、長い付き合いだが断じてそんな人間ではなかったはずだ。何十年も一緒にいたのだ、信頼から何らかの書置きがないかと、あたりを探す


案の定見つける、机の上だ、彼女は終始人を馬鹿にしたような態度をとるが、こういうところはしっかりしていた


ハンクは彼女にしっかり者の一面があることをしっていながら猛烈な違和感を感じ、焦り、書置きを確認する。


内容は用事を思い出したから帰ることと、おとなしくじっとしていることだった




「確実に彼女の文字ではない」




違和感は一転し恐怖と不安に塗り替わる、彼女に何かあったのではないか、と。


しかしハンクに手がないわけではなかった、彼女は書置きを机になんか置かない、見落としがないよう寝ている人の口や鼻に詰めるのだ。そんな形跡はなかったが、一縷の望みをかけて枕もとをあさってみる・


紙きれが見つかった。俺は安堵の息をこぼし裏の内容を確認する。


再びハンクの背筋は凍り付いた、それは彼女の文字ではなかったからではない、完全に何となくだった。


不気味なほどきれいな文字でこう書いてあった




「客間の本棚2段目の黒い本を探せ、今までの出来事を記録し。そこから導き出せる結末を予測しろ。そして結末が確定したら、結末を書き換えろ。さすればデウスがそなたの望む結末に世界を書き換えるだろう」




意味が分からないし、何処から突っ込めばいいかわからないが、なぜか妙に説得力があった。


そこからの行動は早かった、何もかもが意味不明なのに対し体はその手順を覚えていた。


黒色の本を取り出すと妙に手になじんだ、中はすべて白紙、貴族の邸宅に白紙の本などあるはずないと理解しながらも、またしてもどこか納得してしまっていた。それに今はそんなことを考えている場合じゃないこともわかっていた、いち早くなぜこうなったかを明らかにし、その時までに結末を書かなくてはならない。そうしないと、取り返しのつかないことになる気がしていた。


後編へ続く










追憶


作家は混乱したが。なぜかそこにあった二つの誰かのメモ。それは彼の今まで発動したことのなかった能力「デウス・エクス・マキナ」の一旦かもしれない。なぜ発動したか、それは彼がこれをきっかけに小説の主人公になったからだ。助手に危機が迫っている、彼女を救わなければ。




「主人公はハッピーエンドを迎えなくてはならない」それは作家の口癖だった。


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