夜羽と真勇

希織ポリ

プロローグ

 僕の夢の中では毎晩誰かが死んでいる。

 知らない誰かの人生を、最初から最後まで——
 挫折したり、誰かと衝突したり、恋をしたり、そして死んでいくその瞬間まで、まるで映画のように見させられる。


 でも彼ら彼女らは普通の人間じゃない。不思議な力を持っていて、宇宙をわたり、行き着いた惑星で誰かのために戦っていた。

 そして最後は体が光って砂のように消えていく。まるで初めからそこにいなかったかのように、風に吹かれて消えていく。


 目が覚めた後もいろんな感情が心の中で渦巻いていて、身体中には鉛のように重い感覚が残る。


 今となっては何とも思わなくなってしまったが、幼い頃はそれがただただ怖かった。母を早くに亡くし、父は夜遅くまで帰ってこない僕は、夜1人で寝るのが怖くて、決まって隣の幼馴染の家の窓を叩いた。

「また?」とあきれた顔をしながらも、彼女は布団の隅を少しだけ持ち上げて、僕を布団の中に入れてくれた。

 隣に誰かいるという安心感で僕はようやく眠りにつくことができた。

 そのことで「今日は一緒に寝なくて大丈夫そ」とたまにからかわれる。

 けどあの優しさにどれほど救われたか……。


 ……話は戻る。

 昨日夢の中に出てきたのは、どこか儚げで、綺麗な女性だった。

 夜のように黒く、天の川みたいになめらかな髪、雨に濡れたアスファルトみたいな漆黒の目、月明かりを受けたように艶めく肌。大人な雰囲気を纏っている素敵な女性だった。

 仕事を完璧にこなし、人には慕われていて、なにより妹思いの優しい女性だった。

 そんな人にも無慈悲に最後は訪れて——


 少し彼女に惹かれていたのかもしれない。

 しかしそれ以上に——彼女の最期があまりにもやるせないものだったから……。起きた時の喪失感がいつもよりも大きかった。夢を見てこんな気持ちになるだなんて本当に久しぶりだ。

 こんな夢を見てしまうのは何故なのだろうか。

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