第20話 神器と謎の老人

咆哮と共に振り下ろされた戦斧が、大地を叩き割った。

地面が盛り上がり、岩塊が飛び出す。

「なっ……!?」

アレンは即座に跳び退き、仲間を庇った。


「ただのオークキングじゃない……持っている武器が異常だ」


セレーネが目を凝らす。

「待ってください……あれは……神器です! “岩脈の斧”!」


「神器だと……!?」

リリアナが息を呑む。


大地を操り、使用者の防御力を高めるという伝説の戦斧。

確かに、オークキングの肉体は岩のように硬質化していた。


「……だとしても、負けるわけにはいかない!」

アレンは剣を強く握りしめ、オークキングへ突撃する。


剣と斧がぶつかり合い、轟音が森を震わせた。

カイルも加勢し、大剣で巨体を押し込む。

リリアナが投げナイフで目を狙い、セレーネが矢で牽制する。

ソフィアは必死に祈りの声を上げ、仲間の傷を癒した。


岩脈の斧の力でオークキングは容易に倒れなかったが、アレンは隙を見て渾身の一撃を突き込んだ。

「これで終わりだ!」


剣が巨体を貫き、オークキングは絶叫を上げて崩れ落ちた。


その瞬間、背後から老人の笑い声が響いた。

「ほう……オークキングすら倒すか。やはり貴様らは面白い」


謎の老人は杖を掲げ、魔法陣を展開する。

神器ごとオークキングの死体を飲み込み、光に包んだ。


「また会う日も来るだろう……楽しみにしているぞ」


その言葉を残し、老人と“岩脈の斧”は転移の光と共に消え去った。


「……逃げられたか」

アレンは剣を下ろし、悔しげに息を吐いた。


残されたのは、辛うじて拾えたオークキングの牙だけだった。



王都に戻り、冒険者ギルドに牙を提出する。


「オークの牙、確かに確認しました。依頼達成です」

受付嬢が記録をつける。


カイルがすかさず聞いた。

「オークキングの分は!? 絶対ボーナスだろ!?」


受付嬢はにっこり笑って答えた。

「オークキングは依頼に含まれていませんので、ポイントにはなりませんね」


「またかよぉぉぉ!」

カイルの叫びがギルドに響いた。


アレンたちは顔を見合わせ、苦笑しながら依頼達成の紙を受け取った。



ギルドでの報告を終えたアレンたちは、その足で王都の北区にある王立魔法研究所へ向かった。

召喚や転移魔法を自在に使える者は極めて稀であり、老人の正体を探るには専門家の意見が欠かせなかった。


荘厳な石造りの塔に足を踏み入れると、膨大な魔導書が並ぶ閲覧室を抜け、研究員の案内で奥へ通された。

そこにいたのは、研究所の所長を務める初老の男性。白衣に魔導符を縫い付け、眼鏡の奥から静かな眼光を放っている。


「君たちが、転移魔法を使う老人を見たという冒険者だな」

所長は興味深げに頷き、話を促した。


アレンが森での出来事を説明すると、所長の顔色が変わった。

「……その者、もしかすると……」


「心当たりがあるのですか?」セレーネが問いかける。


所長は少し間を置き、重い口調で語り始めた。

「数十年前、我々の研究所に魔法陣研究の天才と呼ばれた研究員がいた。名をディアス。

彼は魔力の理を解き明かすことに執念を燃やし、転移や召喚の研究に没頭していた。

だがやがて、罪人を生贄にして魔神を呼び出そうとするなど、常軌を逸した実験に手を染め……思想が危険すぎると判断され、追放された」


「追放……?」アレンが息を呑む。

「そうだ。公式記録では消息不明のままだが──君たちが見た老人がもし彼なら、禁忌の研究を完成させた可能性がある」


リリアナは腕を組んで渋い顔をした。

「つまり、召喚や転移で好き勝手に動ける危険人物ってことね」


ソフィアは不安げに呟く。

「もし魔神を本当に召喚できるのだとしたら……」


研究所の空気は重くなった。

だがアレンは剣を握りしめ、静かに言った。

「どんな相手であろうと、俺たちが止める」


所長はその決意を見て、ゆっくりと頷いた。

「……いずれ必ず、奴はまた現れる。君たちの力が必要になるだろう」

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