Episode.23 ― 帝国陸戦戦力との激突
◆ 帝国の反応 ― 戦の狼煙 ◆
ヴァルガルド帝国、首都バルバロッサ。
黒鉄で築かれた軍事評議会の大広間には、怒号が響き渡っていた。
「一夜にして赤牙も黒鴉も、蛇の環までも潰されただと!?」
「侯爵家まで鎖につながれた……これは我ら帝国の威信への冒涜だ!」
「相手は子ども同然の娘にすぎん! それに街の雑兵と工房風情……にもかかわらず、我らが敷いた工作網を一挙に潰されたのだぞ!」
将軍たちの怒声が交錯する。
帝国の誇る諜報と裏社会の連携網が、一夜にして根こそぎ破壊された事実に、誰もが信じられぬ思いでいた。
剛腕で知られる将軍バルディウスは拳で円卓を叩き割り、戦略家アレクシオンは顔色を蒼白にして地図を睨みつける。
「ミッドウェル街を見逃せば、帝国は牙を折られた獣と同じだ!」
「腐蝕十二柱にまで報告が届けば、我らの立場は失墜する!」
「ならば――兵を出すしかあるまい!」
だがその場にただ一人、沈黙を守る者がいた。
黒曜石のごとき玉座に腰かける皇帝、ダリウス・ヴァルガルド。
深い影にその瞳を隠し、ただ顎に手を当てて黙考していた。
やがて重苦しい沈黙を切り裂くように、低く冷徹な声が落ちる。
「……ならば見せてやろう。我らの陸戦戦力を」
その声は鋼を擦るように硬く、広間全体に響き渡った。
「ミッドウェル街など、一夜で平らにできる。小娘の工房とやらを、我が鉄の嵐で踏み潰せ」
将軍たちは一斉に頭を垂れた。
「はっ……!」
命令は瞬く間に伝達され、帝都の兵舎が震え上がる。
鋼鉄の戦車部隊、重装歩兵、魔導砲を積んだ攻城兵器、そして帝国が誇る強襲部隊が次々と編制を開始。
街を踏み潰すための“戦の狼煙”が、確かに上がった。
黒鉄の鐘が鳴り響き、帝国全土に戦の気配が満ちていく。
その報せがミッドウェル街に届く前に――、帝国の巨大な戦車の影がすでに動き出していた。
◆◇◆◇
◆ 防衛準備 ― 錬金術の街へ ◆
一方その頃、ミッドウェル街。
夜気が冴え渡り、遠くで鐘の音が一度だけ鳴った。
その屋上に、白衣の袖を揺らしながら小柄な少女が立っていた。
「……きっと、帝国は動く」
ネルフィは夜空を仰ぎ、指先で胸元のペンダントをそっと握る。
誰に向けるでもない独白は、静かだが確信に満ちていた。
「だから――こっちも備えなきゃ。街ごと、絶対に守る」
広げられたのは分厚い魔導設計図。
そこには膨大な回路図、都市規模の防衛プラン、未知の記号がぎっしりと書き込まれている。
赤いインクで走り書きされた言葉はひとつ。
【錬成・街全域防衛機構】
ネルフィは深く息を吸い込み、両手を広げて宣言した。
「――錬成、開始!」
次の瞬間、街の石畳に隠された錬金陣が一斉に光を放つ。
大通りを縦横に走る光脈、家屋の壁に浮かび上がる光の回路。
まるで街全体がひとつの巨大な魔導機と化していくように、鋼の轟音が地響きを伴って響き渡った。
「なっ……地面が動いてる!?」ティナが声を上げ、
バルドは驚きに目を丸くして「お、お城みたい……!」と呟く。
石畳は変質し、厚い鋼鉄の壁となって街を囲む。
窓辺の装飾はそのままに、要塞の装甲板へと姿を変え、門には巨大な防衛機構がせり上がる。
ミッドウェル街が、一夜にして要塞都市へと生まれ変わっていった。
さらに、街角の広場、交差点、屋根の影から――
ゆっくりと巨像たちが立ち上がる。
槍と盾を備えた、十数体の都市防衛機動兵器。
《ミッドウェル・ガーディアン》
無機質な視線が赤く光り、盾を構えて一糸乱れぬ動きを見せる。
足元の地面に連動して刻まれた魔導陣が、巨体を安定させ、守護者たちは街全体を見下ろした。
「……やるじゃねぇか、社長」
ユリウスが感嘆混じりに口笛を吹き、腰に手を当ててにやりと笑う。
リーは興奮を隠さず拳を鳴らす。
「ふふん、これでどんな敵でも来いやってわけね! 壁は壊せねぇし、あんなデカブツまでいるなんて、最高だ!」
マリウスは制御端末を操作しながら、冷静に画面を見やる。
「動力安定、機構連携良好。……でも、ここからが本番だ。いつ、どこから攻めてくるかはまだ不明だからな」
セレナは配置図を手に、的確に指示を飛ばした。
「各持ち場へ。初動は速さがすべて。――工房を守るだけじゃない、街の人々も守るのよ」
ネルフィは屋上から皆を見渡し、ふっと微笑んだ。
その表情は幼いながらも堂々としていて、街そのものを背負う覚悟に満ちていた。
「街を守るのは……私たちの役目だもの」
言葉は柔らかく、しかし決して揺るがない。
その声を聞いた仲間たちは、誰もが拳を握り、胸に力を込めた。
ミッドウェル街は今、少女の錬金術によって“砦”へと変貌した。
帝国の影が迫るその前に――彼らはすでに備えを終えていたのである。
◆◇◆◇
◆ 帝国軍の到来 ◆
翌朝――。
まだ朝霧の残る大地の向こう、黒々とした煙が立ち上り、やがて地平を覆い尽くすように広がっていった。
地面は低く唸り、石畳の下まで伝わる振動に、街全体がざわめき立つ。
「……聞こえるか? 太鼓の音だ」
ゼルダンが低く呟いた。耳を澄ませば、確かに規則正しい軍鼓の轟きが空気を震わせていた。
「き、来たか……」
ボルトは唇を震わせ、握る工具に汗を滲ませる。だがその目だけは逸らさなかった。
砂塵を巻き上げながら姿を現したのは、規律正しく整列した帝国の歩兵部隊――数千。
黒鉄の槍と盾を掲げ、進軍の足並みは一糸乱れぬ重圧を街に叩きつける。
さらにその後方には、鎖を軋ませながら進む戦車隊。
巨大な鉄の車輪が石を砕き、車体に装備された弩砲と魔導砲口が不気味に光を放っている。
そして極めつけは――。
「……あれが、《陸戦ゴーレム》か」
榊が目を細め、静かに吐き出した。
黒鋼で覆われた巨体、十数体。
一歩ごとに地面を震わせるたび、まるで大地そのものが呻いているかのように轟音を立てる。
目に当たる赤い魔核が爛々と輝き、背中からは煤のような煙が噴き出していた。
街を覆う緊張は、もはや息苦しいほどに濃くなっていた。
市民たちは防壁の影に退避し、仲間たちはそれぞれの配置に散る。
ネルフィはその全てを屋上から見下ろしていた。
小さな身体に不釣り合いなほど大きな責任を背負いながらも、その瞳は鋭く燃えていた。
「……戦場だな」
榊の低い声が風に混じる。
ネルフィは一歩前へ進み出て、両手を高く掲げた。
その掌に魔力が収束し、街全体を走る錬金回路が一斉に眩い光を放つ。
「――《ガーディアン》、起動!」
轟、と大地が揺れた。
街を取り囲む鋼鉄の壁が赤光に包まれ、巨大な槍を構えた《ミッドウェル・ガーディアン》たちが一斉に動き出す。
機械仕掛けの関節が軋むたびに、空気が緊張の刃で裂かれるような音を立てる。
「立て、街の守護者たち――!」
ネルフィの声に応じるように、ガーディアンたちは槍を地に突き立て、帝国軍を迎え撃つ陣を敷いた。
街と帝国、少女と皇帝の軍勢――。
その激突は、すぐそこまで迫っていた。
◆◇◆◇
◆ 激突 ― 戦端
「――撃てぇぇぇッ!」
帝国将校の怒号が朝空を切り裂いた。次の瞬間、地平線を覆うように砲弾の雨が押し寄せてくる。
轟音。衝撃。炎の奔流。
石畳を粉砕するほどの破壊が街を覆う――はずだった。
だが。
「……効かない……!?」
前列の帝国兵が目を剥いた。
街を取り囲む鋼鉄の壁が唸りを上げ、そこに刻まれた錬金回路が一斉に光を放つ。
壁面から立ち上がった半透明の障壁――青白い魔導防御フィールドが、降り注いだ砲弾をすべて弾き返していた。
炸裂する火花が宙に散り、爆音が空気を揺さぶる。だが街は無傷。
むしろ跳ね返された爆炎が帝国の最前列を包み込み、盾を持つ兵たちが混乱に陥った。
「――迎撃!」
ネルフィの声が、鋼鉄の壁を越えて轟いた。
応じるように、《ミッドウェル・ガーディアン》たちが一斉に目を光らせる。
槍を掲げ、胸部の魔導炉が唸りを上げる。
次の瞬間、両腕に組み込まれた砲口が開き、青白い閃光を一斉に放った。
――ドォンッ!
直撃を受けた帝国兵の前列が一瞬で吹き飛ぶ。
炎と衝撃波が砂塵を巻き上げ、戦車部隊が軋みながら列を崩す。
「ぐわぁぁぁ!」
兵の悲鳴と鉄の崩れる音が重なった。
ガーディアンたちは一体一体が小さな要塞。
一斉射撃ののち、隊列を組んで槍を突き出し、前進を始めた。
「ば、化け物め……!」帝国兵が狼狽する。
砲火と魔導光が交錯し、空気は焦げ、地面は抉れ、戦端が完全に開かれた。
帝国の黒鉄の軍勢と、アウルディーン工房が築いた“要塞都市”が激突する――。
◆◇◆◇
◆ 仲間たちの戦い ― 防壁の外での総力戦 ◆
帝国軍の黒鉄の大軍勢が、砂煙を巻き上げながら進軍してきた。
街の外周、防衛壁の外側で、アウルディーン工房の総戦力が展開する。
鋼鉄の要塞と化したミッドウェル街を背に、彼らは外の荒野を戦場に選んだ。
「――全員、出撃!」
ネルフィの声が響く。
ミッドウェル・ガーディアン十数機が、槍と盾を構えて前進。
地響きを立てて歩みを進め、帝国戦車部隊を迎え撃った。
---
前線
レオンが剣を振り抜き、槍兵の列を切り裂く。
「ここは通さない!」
榊は無言で刀を抜き、一太刀ごとに帝国兵を斬り伏せる。
「……戦場に散れ」
リーが拳を叩き込み、帝国戦車をひしゃげさせる。
「虎拳ッ!」
装甲が爆ぜ、兵士たちが宙に舞った。
バルドが雄叫びを上げ、戦斧を振るう。
「力比べなら負けねぇ!」
巨躯で盾兵をまとめて薙ぎ倒す。
ジークは恐怖に震えながらも踏み込み、叫んだ。
「引かない! 俺だって守る!」
ロザンナの矢が連射され、帝国狙撃兵の眉間を正確に貫く。
「……次」
ガレットは戦槌を振り下ろし、鉄盾ごと兵士を粉砕。
「砕けろッ!」
---
遊撃と支援
ユリウスがライフルを担ぎ、指揮官を正確に撃ち抜いた。
「頭を撃ち抜けば、軍は死ぬ!」
カインが二丁拳銃を乱射し、突撃兵を足止めする。
「撃ち抜かれたい奴から来な!」
セレナが味方の死角に入り、短剣で敵を制圧。
「油断大敵……よ」
レイナとエレナの双子がナイフを交差させ、投げ放つ。
「右は任せて!」「左も落としたわ!」
マルタが巨大お玉を振るい、敵兵を吹っ飛ばす。
「うちの子たちを傷つけるんじゃないよ!」
ティナが両手を口に当て、声を張り上げた。
「みんな、負けないでぇぇぇ!」
メリアが物資を即座に配布し、戦線を整える。
「補給、完了!」
デイジーが煙幕を撒き、負傷兵を癒す。
「息を吸って! 痛みが引くわ!」
フィクスが壊れた銃を蹴り上げ、即席改造。
「ほらよ! もう一発撃てる!」
ミーナが召喚した魔獣たちが敵兵に飛びかかる。
「走って! 噛み砕け!」
---
技術・特殊戦力
マリウスのドローン群が戦車の上空で爆撃を開始。
「空から押し潰せ!」
アイリスが敵の通信網を断ち切る。
「指揮系統、遮断完了!」
リュシアンが狂気じみた笑みを浮かべ、砲塔を展開。
「美しく散れッ!」
光線が奔流となり、帝国兵を薙ぎ払う。
アカ&シロがにゃふ弾を乱射。
「にゃふ!」「にゃふにゃふッ!」
混乱の渦に帝国兵が呑まれる。
ラムがぷるるん爆弾で敵戦列を崩壊。
「ぷるるん☆どかーん!」
リルが影狼とともに突撃し、副将を撃ち倒す。
「私の獲物だ!」
リュミエールが幽霊の身で敵兵の背後に現れ、冷気を吹きかける。
「死の冷たさを知れ……」
---
巨兵と盟友
ミッドウェル・ガーディアンが槍を突き立て、帝国戦車を粉砕。
コルトが雷光を纏い、敵ゴーレムを撃破。
《アウルディーナ・コルト、雷撃!》
デイジーの補助を受け、
「ガァァァァォォンッ!」
「現実を見抜けるか?」
「凍てつき、燃え尽きろ!」
---
ネルフィは全戦力を見渡し、声を張り上げる。
「アウルディーン工房――総力戦、開始!」
仲間たちの雄叫びが大地を揺らし、帝国陸戦軍との地獄の激突が幕を開けた。
◆◇◆◇
◆ 帝国の切り札 ◆(長文版)
「――デストロイヤー部隊、前へ!」
帝国将校の怒声が大地を震わせた。
その号令と同時に、帝国軍の陣列が左右に割れる。
現れたのは、漆黒に輝く十数体の
高さは十メートルを超え、黒鋼の装甲板が幾重にも重なり、まるで城壁そのものが歩いているかのようだった。
胸部に埋め込まれた赤い魔導炉が脈動し、巨体の関節からは蒸気と火花が噴き出す。
その一歩ごとに、大地は沈み、戦場は揺れる。
「ひっ……! あれが帝国の切り札……!」
ジークが震えながら剣を握りしめる。
「ただの鉄塊じゃないわね。人ひとりなんて、拳で押し潰される」
ロザンナが冷静に矢を番え、しかし額には汗がにじんでいた。
榊は目を細め、無言のまま巨兵を見据える。
レオンはネルフィの隣に立ち、静かに剣を握り直した。
「来るぞ……!」
その瞬間――陸戦ゴーレムたちが一斉に巨腕を振り上げた。
金属の山が崩れ落ちるような轟音と共に、前線へ拳が振り下ろされる。
地響きと砂塵が戦場を呑み込み、帝国兵たちが勝利を確信して歓声を上げた。
「これで終わりだ!」
「小娘の工房など一撃で――!」
だが――ネルフィは動じない。
小柄な身体をまっすぐに伸ばし、指揮台から冷徹に宣言した。
「――出ておいで、ディザスター・フレーム!」
轟音をかき消すように、街外れの格納庫が開放される。
そこから姿を現したのは、鋼鉄の巨影。
過去の戦闘データを解析し、ネルフィ自身が徹底的に改修を施した強化型カスタム機。
両腕には高出力の振動衝撃刃が煌めき、脚部は重装甲と推進ブースターで強化されている。
背部には遠距離支援モジュールが展開し、魔導回路が光の翼のように走った。
全身を覆う漆黒の装甲は、帝国のゴーレムを嘲笑うかのように輝き、そのシルエットはまさに「災厄の巨人」。
「な、なに……あれは!?」
帝国将校が蒼白になり、叫び声を上げる。
さらに格納庫から次々と現れるのは、複数の量産型ディザスター・フレーム。
ネルフィが短期間で組み上げた改良機であり、強化型に比べれば性能は落ちるものの、連携と数で帝国の切り札を迎え撃つ戦力となる。
「量産型、展開完了!」マリウスがドローン端末を操作し、各機を前線へ送り出す。
「射撃系は左翼支援、格闘仕様は右翼の押さえに回せ!」ネルフィが即座に指示を飛ばす。
アウルディーン工房が誇る鋼鉄の兵士たちと、帝国が誇る黒鋼の巨兵たち。
巨体同士の激突が、地鳴りのような轟音と共に幕を開けた。
大地が砕け、天空が震えた。
戦場は、もはや人の領域ではなく――神話の巨人同士の戦いそのものだった。
◆◇◆◇
◆ 最終局面 ― 指揮官クラス陸戦ゴーレム ◆
戦場に響いていた砲火と悲鳴のざわめきが、一瞬にして掻き消された。
帝国軍後方、大地を割るような振動と共に――巨躯が立ち上がったのだ。
それは通常の《陸戦ゴーレム》の倍はあろうかという威容。
漆黒の装甲には金色の縁取りが施され、帝国の象徴である双頭の鷲が胸部に浮かび上がる。
両腕には巨岩を砕くハンマーと艦すら断つ斬艦刀。
その胸で脈打つ魔導炉は、まるで帝国の心臓そのもののように赤黒く輝いていた。
「……あれは……!」
ジークが顔を引きつらせ、剣を握る手を震わせる。
「こいつは……指揮官機か!」
ユリウスが歯噛みしながら叫ぶ。
榊は目を細め、声を潜めた。
「……ただの兵器じゃない。軍を束ねる象徴、帝国の切り札……」
その威容に兵たちは歓声を上げ、ミッドウェルの守り手たちは一瞬息を呑む。
だが、ただ一人――ネルフィだけは、その光景を真っ直ぐに見返していた。
「なるほど……ただの切り札じゃない。軍を束ねる象徴、ってわけね」
小柄な身体に似合わぬ重みを帯びた声でそう呟くと、
ネルフィは
ゴーレムの胸部から拡声魔導器を通じ、将校の怒声が轟く。
「小娘! 貴様の“おもちゃ”など、この帝国の力に踏み潰される運命だ!」
ネルフィの瞳が鋭く光る。
「おもちゃかどうか……試してみなさい!」
指先が閃き、魔導炉に直結する制御ルーンが点滅する。
次の瞬間、ディザスター・フレームが獣のような唸りを上げ、推進噴射を噴き上げながら前進した。
大地が震えた。
漆黒の巨兵と、ネルフィの創り上げた強化機が、真っ向から激突する。
斬艦刀と振動衝撃刃がぶつかり合い、天地を割る衝撃波が走り抜ける。
仲間たちはその光景に息を呑んだ。
「ネルフィ……!」
レオンが剣を握り締め、祈るように彼女の背を見つめる。
ネルフィの唇が動いた。
「――ここからが本番。全部のデータ、もらうわよ!」
烈火のような戦いが、ついに幕を開けた。
◆◇◆◇
◆ 巨人同士の激突 ◆
大地を割るような咆哮。
帝国の指揮官機たる漆黒の陸戦ゴーレムが、巨腕に握った斬艦刀を振り下ろす。
対するはネルフィの操る
振動衝撃刃がうなりを上げ、両者の刃が交錯した瞬間――天地を震わせる衝撃波が奔流となり、周囲に群がっていた帝国兵を一斉に吹き飛ばした。
「ぬぅ……!」
指揮官の声が拡声魔導器越しに響く。
「小娘一人にここまで……だが、帝国の鋼は揺るがぬ!」
ネルフィは歯を食いしばり、全神経を魔導インターフェースに集中させる。
操縦席の水晶盤が一斉に光り、膨大な数値が彼女の意識に流れ込む。
「――出力120%! データ収集モード、全開ッ!」
ディザスター・フレームの背部から推進ブースターが咆哮を上げ、巨体が宙を舞う。
振り下ろされる黄金のハンマーを紙一重でかわし、逆に頭上から衝撃刃を浴びせかけた。
だが――煌めく装甲が火花を散らし、刃は通らない。
「っ……硬い!」
ネルフィが呻く。
帝国将校の勝ち誇った声が響く。
「フハハ! これぞ帝国の誇り、《黄金装甲》。貴様の玩具など歯が立たん!」
再び、ハンマーが振り下ろされる。
大地が陥没し、巨大なクレーターが穿たれ、瓦礫と砂塵が巻き上がる。
その衝撃波に飲まれまいと、ネルフィは再び噴射で跳躍し、敵の死角を狙う。
「くっ……防御特性、熱と衝撃には耐性あり……!」
瞬時に解析データを展開しながら、ネルフィの額には汗が伝う。
「――なら、弱点を探るだけよ!」
周囲では仲間たちが必死に彼女を援護していた。
ユリウスが帝国兵の狙撃を遮り、マリウスのドローン群がゴーレムの視界を乱す閃光弾を放つ。
「ネルフィ! 正面に集中するな、側面だ!」
レオンの声が響き、榊も刀を構えながら低く告げる。
「隙は必ずある……見極めろ」
ネルフィの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
「……データは集まった。今度はこっちの番よ」
ディザスター・フレームの眼光が赤々と輝き、次の一撃へと備えた。
◆◇◆◇
◆ 戦況の転換 ◆
戦場を覆う轟音と砂塵。
仲間たちが一斉に援護の火線を放ち、ネルフィを守る。
「目くらまし行けぇ!」
マリウスのドローン群が高高度から閃光弾と小型爆撃を投下し、巨大ゴーレムの視界を乱す。
「通信妨害、最大出力……指揮系統を切断!」
アイリスの端末が赤く瞬き、敵部隊の合図が途切れ、兵たちが混乱に陥る。
「おらぁ! まとめて吹っ飛べぇ!」
リーの拳がうなりを上げ、地上の帝国兵を薙ぎ倒す。爆風のような掌打が戦列を粉砕した。
「影狼――走れッ!」
リルの影から黒き獣が溢れ出し、敵の足場を裂いて崩落させる。悲鳴を上げながら兵士たちが飲み込まれていった。
仲間たちの援護が織りなす光と衝撃は、帝国の圧倒的な戦力すら押し返す勢いを見せていた。
だが、その中心で――ネルフィが叫んだ。
「みんな、下がって! これは私の戦い!」
一瞬、戦場全体が凍り付いたように静まり返る。
レオンが驚愕の眼差しで彼女を見つめ、榊は刀を収めながら静かに目を細めた。
「……そうか。これは“彼女の戦場”だ」
背部の推進ユニットが悲鳴を上げるように咆哮し、赤熱した魔導炉が唸る。
ネルフィの声は幼い響きを残しながらも、戦場全体を圧するほどの熱を帯びていた。
「――データが欲しいの! これを超えて、私は“次の兵器”を作るんだから!」
衝撃刃を握るディザスター・フレームが大地を蹴り、黒鋼の指揮官ゴーレムへと突進する。
その瞬間、仲間たちは彼女の意志を悟った。これはただの戦いではない。
未来のため、街を守るため、そして――ネルフィ自身が発明家として次の高みに至るための、決定的な一歩だった。
轟音が夜空を裂き、巨人同士の激突が再び始まる。
◆◇◆◇
◆ 決着 ◆
帝国の指揮官クラス陸戦ゴーレムが最後の咆哮を上げた。
胸部の魔導炉が脈打ち、巨体全体に赤黒い光が走る。
将校の怒声が拡声魔導器を通して戦場に轟く。
「これで終わりだ、小娘ェェェェッ!」
大地を砕くほどの重力と魔力を帯びた斬艦刀が振り下ろされる。
その一撃は街ごと消し飛ばしかねない破壊力を秘めていた。
だが、ネルフィは逃げなかった。
強化型ディザスター・フレームの操縦席で両腕を交差させ、振動衝撃刃を正面に構える。
「――砕け散れぇぇぇッ!」
二つの巨刃が正面で激突した瞬間、
眩い閃光が戦場を飲み込み、空気が爆裂音を立てて震えた。
衝撃波が周囲の兵士も戦車も吹き飛ばし、砂塵が空を覆い尽くす。
時間が止まったかのような静寂。
次の瞬間、指揮官ゴーレムの黄金装甲に亀裂が走り、胸部の魔導炉に達した。
「な、馬鹿な……帝国の鋼が……!」
絶叫と共に、巨体は胸部から真っ二つに裂ける。
魔導炉が暴走し、轟音と閃光を伴って爆散した。
炎柱が夜空を切り裂き、黒煙が天を焦がす。
爆炎が晴れた時――煙の中に仁王立ちするディザスター・フレームの姿があった。
その装甲は傷だらけで焦げていたが、瞳のように輝く魔導炉の光はまだ消えていない。
操縦席のネルフィは荒い息を吐き、額に汗を滲ませながらも、口元にゆるりと笑みを浮かべた。
「……はい、データ収集完了。
これで、次は――もっとすごいのを作るわ」
彼女の呟きは、仲間たちの歓声にかき消されながらも、確かに戦場に刻まれた。
それは破壊の余韻を超え、未来を切り拓く宣言だった。
◆◇◆◇
◆ 帝国軍の撤退 ― 勝利の余韻 ◆
轟音と共に指揮官ゴーレムが爆散した瞬間、戦場を覆っていた緊張の糸がぷつりと切れた。
帝国兵たちは一斉に武器を取り落とし、恐怖と混乱に駆られて後退を始める。
「し、指揮官機が……やられた!?」
「ば、馬鹿な……! 一撃で……!」
「撤退だぁぁぁ!」
戦列が乱れ、黒鉄の軍勢が雪崩のように後方へと崩れていく。
残った戦車も、マリウスのドローンが追撃爆撃を浴びせ、逃げ惑う兵士たちを瓦礫と煙の中へ追い込んだ。
榊が静かに刀を下ろし、瞳を細める。
「……終わったな」
レオンはネルフィのディザスター・フレームを見上げ、息を吐きながらも誇らしげに笑った。
「よくやった、ネルフィ。……お前はやっぱり誰より強い」
ユリウスが銃を回して肩に担ぎ、豪快に笑う。
「ったく! 心臓が何度止まるかと思ったぜ! でも――最高だったな!」
リーは拳を振り抜いたまま空を見上げ、戦いの余熱に震えながら叫んだ。
「ふん! もっと殴り足りなかったわね!」
アイリスは端末を閉じ、冷静に呟く。
「帝国通信網は完全に沈黙。後方支援も来ない。これで決まり」
リルが影狼を従え、血に濡れた剣を拭いながら深く頷いた。
「これ以上、この街に牙を剥かせはしない」
ラムがぷるるんと跳ねて、「ぷるるん勝利~!」と叫び、アカとシロが両脇で「にゃふ!」「にゃふにゃふ!」と合唱する。
その姿に仲間たちは思わず笑みをこぼした。
ディザスター・フレームの操縦席で、ネルフィは荒い息を整えながら仲間たちの姿を見渡した。
煙と炎の中に立つその光景は、血にまみれながらも確かに生き残った“家族”の姿だった。
「……みんな、本当にありがとう」
小さな声が通信網を通じて広がり、仲間たちは一斉に頷いた。
戦場を覆っていた黒煙が風に散り、空に朝陽が差し込む。
ミッドウェル街の背後にそびえる鋼鉄の壁と、輝くガーディアンたちは健在だった。
――この夜、帝国の陸戦部隊は壊滅し、
ミッドウェル街はアウルディーン工房の手で守り抜かれた。
そしてネルフィの胸には、勝利の喜びと同時に、次なる“創造”への確かな決意が燃えていた。
「次は……もっとすごいものを作ってみせる」
その言葉は、戦場を照らす朝陽の中で、新たな未来の狼煙となった。
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