追放天才少女は呪われ王子に溺愛される 〜 工房から始まる恋と革命〜

ことひら☆

第1章 死線を越えて――工房の旗は立つ

プロローグ

◆追放されし天才少女◆


◆研究棟 ― 天才の孤独


煌々と輝く研究都市ヘリオスの研究棟。最奥の実験室では、子供の姿をした主任研究者が、眠気を押し殺しながら膨大な設計図に向き合っていた。

ネルフィ・アウルディーン、齢わずか十歳。

だが彼女の瞳に宿る光は、成熟した研究者さえ圧倒する鋭さを持っていた。


「ネル、また徹夜したのね」

ホログラム越しに映るリュシェル・エリムハイド第2王女が眉をひそめる。


「大丈夫だよ。慣れてるから」

ネルフィは笑って答えるが、その声はどこか掠れ、孤独を隠そうとするかのように硬かった。


机の周囲では、小さな“家族”たちが彼女を支えていた。


コルトは無骨なボディを震わせ、模擬剣を構えて「テストはいつでも可能」と待機。


デイジーは紅茶を差し出し、肩に毛布を掛ける。


フィクスはガラクタ同然の部品を片っ端から修復。


ミーナは冷静にデータを整理し、「ネルフィ様、休息が必要です」と繰り返す。


黒猫の姿をした人工精霊アルスは、尻尾を揺らしつつ「効率低下は目に見えております」と苦言を呈する。



そして猫型AI、シロとアカが駆け寄り、ネルフィの両肩によじ登った。

「にゃふふ〜♪ シロはネルフィのこと大好きにゃ!」

「アカだって大好きにゃ! 助けるにゃ!」


孤独に苛まれる天才を包み込む、小さな温もり。

だが机の上に広げられた設計図に描かれていたのは――巨大人型機動兵器。

その存在は、世界の均衡を根底から崩す「禁忌の火種」だった。




◆裏切りと追放


その午後。天空を突くヘリオス・タワー、最高経営階の会議室。

ネルフィはCEOギルバート・ヘリオスに呼び出され、冷酷な言葉を突きつけられた。


「ネルフィ・アウルディーン。君を――解雇する」


背後に並ぶ重役たちは口元に冷笑を浮かべる。

「子供に主任の椅子など愚の骨頂」

「これでようやく俺たちが前に出られる」


だが一方で、数名の若き研究員が声を上げた。

「主任! あなたの研究に未来がある!」

女性研究員は涙をこらえ、小さなデータチップを差し出す。

「……これだけは、あなたに残しておきたい」


それでもギルバートは嘲笑を崩さなかった。

「君の研究はすべてヘリオスのものだ。特許? 権利? 子供の落書きにすぎん」


だが――。

黒猫のアルスが前に進み、空間投影を開いた。そこに映し出されたのは数百に及ぶ特許証。

発明者名――すべて「ネルフィ・アウルディーン」。


「な……何だと……!」

狼狽するギルバート。

ネルフィは一枚を手に取り、目の前で破り捨てた。


「権利を奪えば、失うのは私じゃない。ヘリオスよ」


紙片がひらりと舞う中、ネルフィは机に許可証を置き、背を向ける。

「……さようなら」


閉じる扉の音が、研究棟全体を震わせるように響いた。




◆夜空の誓い


都市の灯から遠く離れた郊外。

ネルフィは星空を見上げ、深く息を吐いた。


「これから、どうなさるのです?」とアルスが問う。


「決まってる」

小さな拳を握り、彼女は凛と告げる。

「工房を作る。私の居場所を。そして必ず――ヘリオスを超える」


その声は、追放の痛みを超えて未来を切り拓く決意に満ちていた。


地面に召喚魔法の魔法陣が展開される。

「――来て、リル」


光の渦から漆黒の狼が現れた。召喚メカ獣フェンリル――リルはその巨体を低く構え、咆哮と共に忠誠を誓う。


「リル、一緒に行こう」

ネルフィの言葉に応えるように、リルの瞳が赤く輝いた。


背後では、コルト、デイジー、フィクス、ミーナ、アルス、そしてアカとシロが彼女を囲む。

誰もが無言で寄り添い、彼女の選んだ未来を肯定していた。


――ネルフィはもう独りではない。

裏切りと陰謀の只中で追放された小さな天才が、仲間と共に歩き出す。


こうして、アウルディーン工房の物語が――静かに幕を開けた。




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