第48話 魔法契約
■ゲーム開始13日目(王国歴725年6月13日)
「もう殺してくれ……」
「死にたくない……死にたく……死にたい……許してくれ……」
ぐったりと項垂れる子爵とその息子。
回復魔法があるっていいよな。
だって、相手の精神が折れて、将来を諦めるくらいボコっても無傷で留めておけるんだから。
冒頭からグロエピソードをすみません。
カシェルと、俺の大切なミルフィナを狙おうとしたバカを許すつもりなんか、俺には一切ない。
怒り心頭のカシェルを『どうどう』ってやって落ち着かせた後、そのカシェルが引くぐらいタコ殴りにしてしまった。
まぁ、命は助けてやるし、なんなら今後良い思いをしてしまうかもしれないから、その代わりに先に地獄を見てもらっただけだよ。
絶対に裏切らないように、脳に刻んだんだ。
恐怖を。
「お前たちが言うことを聞くなら生かしてやる」
「「はい」」
「逆らったら殺す」
「「はい」」
「これから話すことを国王代理やその派閥の貴族……いや、お前たちの領地のもの以外に話したら殺す」
「「はい」」
もうちょっと抵抗するかなと思ったんだけど、そんなことはなかった。
ぐだーっと地面に突っ伏した子爵とその息子は、頭をあげることなくYESだけを言うマシーンになったらしい。
<魔法契約:成立>
「アゼルディスト様、なぜ魔法契約など?」
「こんなやつら、処罰するか、脅しつければよいのでは?」
フリードもカシェルも不思議そうな顔をしている。
まぁ、疑問には思うよな。
魔法契約をするということは、何らかの使い道があるということだ。そうじゃなければ2人が言うようにただ殺すか、脅すだろうからな。
「国王代理となった兄上は今は王都で手いっぱいだと思うんだけどさ。きっとシエニアが発展していけば、嫉妬に狂ってまた邪魔をしてくるだろうと思うんだ。兄上は俺の成功を許せないだろう」
「それはそうかもな。あいつ、以前からアゼルディストに絡んだりしてたしな。うっとーしい」
「なるほど。でも、なぜガッフェル子爵を? はっきり言って使い道があるとは思えませんが?」
「「ぐぅ……」」
フリードの辛辣な言葉にガッフェル子爵たちが項垂れる。
が、大丈夫だ。俺には使い道がイメージできているからな。
「問題ない。ガッフェル領には隠れ蓑になってもらうつもりだからな」
「ほう……」
「隠れ蓑?」
俺の言葉を咀嚼するように黙り込むフリードの横で疑問はすぐ口に出すカシェル。
「あぁそうだ。これからシエニアが生み出す産業や仕組み。その劣化版をガッフェル領でも実行させて、一定の成功を納めさせるんだ」
「そんなことができるのですか?」
「あぁ、やるつもりだ。俺にはなにせ"創造"魔法があるし、領地内にはダンジョンがあるし、オルフェール伯爵が送ってくれる魔石もある。お前たちのような優秀な人材もいるし、これからも集めていく。今までは対魔王戦に備えて領地の発展のことは後回しにしてきたけど、これからはミルフィナと一緒に頑張るつもりだ」
「ご立派です」
フリードが感極まったように目頭を押さえている。
もう数年の付き合いになるフリードだが、いつも冷静で穏やかで、それでいてこの領地のことを気にかけているのを俺は知ってる。
領主ではなく、王家に任命された代官でしかないのに、こんな男がいてくれたことに感謝したい。
「一方で、国王代理となった兄上自身は"国王"になるためにも王都周辺の統治は頑張るだろう。でも、あの性格だ。そんなにうまくいかないだろうと思うんだ」
「仰る通りかと思います」
会ったこともない家臣から欠片も能力に期待を持たれえていないと知ったらあの兄は怒り狂いそうだな。
どうでもいいけど。
「その時、派手に成功している領地があったらどう思うだろう」
「嫉妬するでしょうね」
「それだけで収まらないのが、兄上だ」
「今回のように邪魔をしてくると?」
「それだけならいんだがな。時間が経過すれば兄上の権力は増えるだろう。看板に従う貴族もいるだろう。なにせ国王代理だ」
「実力行使もありうると?」
「俺はそう思っている。だからこそ、シエニアの成功は可能な限り隠し、逆にガッフェル領に成功させる。これで兄上の嫉妬は全てガッフェル子爵のものだ」
「……」
考え込むフリード。
何もできない哀愁をまとったガッフェル子爵とその息子が抗議したいような、でも恐怖心で何も言えないといった様子で悶々としている。
大丈夫だ。お前たちに拒否権などない。
「ガッフェル領にとっても良い話だろう」
「???」
「なにせ、今日ここで血が途絶えなくて済むわけだから」
「「ひぇ……」」
一瞬きょとんとした後、縮み上がる子爵たち。俺への恐怖を忘れて貰っては困る。
だけど、恐怖だけで動けなくなってしまっても困る。
「従っていれば良い思いもできると?」
「あぁ、もちろんだ。王都の嫉妬を受けるべく、ほどほどに成功してもらわないといけないんだから」
「具体的に何をすれば?」
「これから移民が増えるんだよね」
「「「「!?」」」」
唐突過ぎたかな?
子爵たちだけじゃなくて、フリードとカシェルもはてなマークを浮かべた顔をしてる。
魔王によって攻め滅ぼされた各国。
普通に復興すると思うかな?
でも、残念ながらそれはない。
魔王は各国の支配者層を無残に殺しまわった。
魔王軍は各国の戦力を潰した。
結果、かつて反映していた国々に昔のような武力も権威もない。
だから例え王族が生きていたとしてもすぐに安定統治を取り戻すのには苦労することになる。
場合によっては既に暫定政府とか言い張ってクーデターが起こっている国もあるだろう。
ようするに大陸中で大混乱が巻き起こっている。
それでも魔王軍が健在であれば、恐怖が行動を押しとどめる。目立ったらまた襲撃を受けるだろうし、魔王軍が侵攻していった先に向かうバカはいない。
当然だろ?
もう一度蹂躙して欲しいというドMなやつは早々いない。
だが、俺が魔王を倒した。
魔王軍は離散していった。
結果、この国は平和だ。
でも、周辺国は混乱している。
そうなれば必ず移住する者が出てくる。
通常であれば国境の往来は制限されているが、現在それが機能している国の方が少ないだろう。この国だってそうだ。国王代理はそんなことを気にしていないだろうし、突然大臣になった者達もそうだろう。
だからどんどん入ってくることになるう。
この国の風習に従う覚悟なんかないものたちが。この国の統治制度を理解していないものたちが。ただただ今日を生き延びるためだけに入ってくるんだ。
今の状況でまずやるべきなのは、移民の選別だ。
誰も彼も受け入れては、土地がおかしくなる。
文化も思考も異なるわけだから、簡単には受け入れられない。
理想は十分に審査し、教育した上でこちらの利となる人材のみを入れたい。
「どっ……どうしろと?」
「ガッフェル領は盗賊を飼ってるって話を聞いたことがあるんだけど、本当かな?」
「……」
「本当かな?」
「……はい」
どうやら話がつながらなくてきょとんとしているようだ。
だがガッフェル親子が理解しているかどうかは関係ない。フリードはちゃんと理解してくれたようで、頷き、了解したと言ってガッフェル子爵たちを連れて行ったのだった。
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