第21話 vs ロア
■王国歴720年12月27日(宝石鉱山、アゼルディスト)
「エリアヒール」
慌てて駆けつけた俺の目が捕らえたのは、上半身だけになったメイガートと、左腕を失ったガルム……。
って、これやばいまずい物語変わっちゃう!?
「2人はこれを! "神酒強制一気飲み"」
「「ごぼっ!?」」
途端に、2人は淡い青い光に包まれる。癒しの光だ。
やられてから時間が経っていなかかったためか、失った部分がくっついて治っていった。危なかった……。
それにしても、ロアのやつ。
思いっきり暴れやがって。
許さないからな……。
『ヨウヤク現レタナ。イザ尋常ニ勝負ダ!』
昨日も思ったけど、なんか武士っぽいなこいつ。
しかし俺はもう決めている。
物語に出てこなかったこいつに手加減する必要はない。
魔王の守りに関する情報は昨日洗いざらい聞いた。
なぜまた単独でダンジョンから出てきたのかは問うにしても、両手両足はいらないよね?
『昨日トハ違ウ、我ノ真ナル斬撃ヲ受ケテミヨ!』
「"既に斬った後だ"」
『"
「なに?」
昨日、ロアを完封したスキルを使うも、予想外の対処をしてきた。
時間を戻すとか、どんなスペックなんだよ!?
やっぱりこいつが出た原因は"書庫"の関係だろ?
そのせいで出てきたのか、強化されたのかはわからないけど、そもそも登場しない場所に出てきているわけだから。
「"録画"」
「"解析"」
「"既に斬った後だ"」
『"
念のため録画もした上で解析を展開しつつ再度斬るとまた回復してきた。
しかし、今回は良く見えた。
こいつ、斬られたことになった部分だけ時間を戻して治している。
こうなると俺の技に過程が存在しないのが逆に有利に働いているな。
なにせ、事象だけを起こしているから、コンマ何秒かでも戻せれば治せるんだろう。
自分のスキルの盲点を知ると共に、どうやってそんなことを考えたのかと興味が沸いてくる。
が、まずは倒すことにしよう。
なに、問題ない。
「"
『ン? 防御魔法カ? モウ攻撃ハ終ワリナノカ?』
やつの周囲を魔法障壁で埋めると、きょろきょろとその様子を眺めながら嘲るようなことを言ってくる。
そんなわけがないだろう。
「殿下。無事全員、避難させました」
「転がってた兄弟もばっちり治療してくれたみたいだし、一緒に運んでおいたわ。あなたに感謝してた」
「ありがとう。今から使う魔法の影響を受けるかもしれないから2人も離れておいてもらえるかな?」
「わかりました」
「あなた、昨日もそうやって遠くで戦っていたけども、凄いスキル連発だったわよね?」
ファルスは素直に下がってくれたが、カシェルは興味を持ってしまったようだ。
だが、これから放つ魔法が危険なのは本当だ。
「頼むよカシェル。実験みたいなものだけど、ちょっと許せなくてな」
「そう。……なら成功したらまた教えてね」
「わかった」
ガルムとメイガートは出会ったばっかりだけど、ゲームではなじみのキャラであり、気に入ってよく使っていた時期もある。
つまり愛着がある。俺からの一方的なものだけど。
そんな彼らをゴミのように切り刻んだこいつを許す気はない。
ぐしゃぐしゃにしてやる。
『動ケナイダト?』
「あぁ……なにせ、これから放つ魔法が漏れたら困るしな」
ロアを取り囲んだ魔法障壁はその後次第に黒く変色していく。
『外ガ見エヌ……ナニヲ?』
「お前は気にする必要はない。じゃあ、さよならだな」
『ン?』
「"ニュークリアブラスト"」
俺が静かにそのスキルの名前を唱えると、黒く染まりきった魔法障壁の塊の中に太陽が現れ、そして爆発した。
光はもちろん、音すら出さない重厚な壁によって、外からでは何が起きているのかわからないが、ロアは核爆発に飲まれて蒸発した。
「アゼルディスト殿下、感謝します」
ロアを倒した後、さすがに大量の魔力を使ってしまって少し疲れた俺が休んでいると、ガルムとメイガートが走ってやって来て、跪いた。
良かった。元気なようだ。
「立ってくれ。まだ怪我が痛むだろう。俺の方こそ、鉱山の作業員を助けてくれてありがとう。ケガはあっても、死者が出ずに済んだのはお前たちのおかげだ」
「役目を果たしたまでです」
怪我人にきつい体勢をさせるのは良くないから立たせながら、2人の功を讃えた。
「もうダメだと思ったんですが、助けてくださって本当にありがとうございます」
堅苦しいガルムと比べて感情を隠さないメイガートが目に涙を貯めながら感謝を述べてくれた。
助けて良かったと、素直に思えるな。
「俺は代官代理だからな。メイガートのことも助けられて良かった」
その後、遺跡を確認に行ったが、特にモンスターが出てくるようなことは続いていないようだ。
つまり、ロアだけが出てきたということ。
なんでそんなことになったのかはわからないが、対策が必要だろうか……。
「殿下。我々はモンスターに対する罠を周囲に配置することにしたいと思います」
遺跡から出てきたところでガルムがそんな提案をしてきた。
なんでも、魔石を使った罠で、出てきたモンスターの足止めをしつつ、警備隊などに連絡をする魔道具があるそうだ。
それを使えば、どの程度のモンスターが出てきたのか分かるらしい。
「今回は偶然俺たちが鉱山にいて、さらに殿下にも早急に連絡が届いたおかげで助かりました」
「しかし、仮に遺跡が不安定になっているとすると、また同じことが起きないとも限りません」
「そんな罠が作れるなら、もちろん賛成だし、支援するよ。カシェル、頼めるか?」
「はい」
「「えっ??」」
驚いたような表情になる2人。
詳しく話を聞いてみると、どうやら警備隊の備品として集めてきた魔石を使うつもりだったらしい。
宝石鉱山でもたまに算出するものや、行商などから買ったりしてきたらしい。
素晴らしい準備。
しかし、今回は俺に頼ってほしい。
なにせ、オルフェール伯爵領から一定の魔石の供給を受けているんだ。
「本当にいいのですか? その……魔石を譲ってもらっても?」
「譲るも何も、俺はここの代官代理だ。シエニアを守ることは自分のためでもある」
「殿下……普通はそういう場合でもせいぜい『売ってやる』なんですよ。そうしないと、代官になったら私財を投じて職務に当たらないといけなくなるから」
「あぁ、なるほど」
そんなことができる代官はほとんどいないだろう。
しかしな。
「まぁでも、俺は王族でもある。この国の人々を守る責任がある。だから、魔石は使ってくれていいし、足りないなら言ってくれ」
俺はアイテムボックスから魔石を取り出して積み上げてみた。
「こっ、こんなに? ありがとうございます、殿下」
「「「「「ありがとうございます」」」」」
なぜかガルムだけじゃなく、メイガートや、他のものにまで平伏された。
「かわりにと言ってはなんなんだけどさ」
「はい?」
俺が積み上げた魔石を手に取って確認していたガルムに話しかけると、手を止めてこちらに向いてくれた。
だが、その表情は少し引きつっている。
「お願いがあって。その魔道具を作るのが苦ではないのであれば、もっとたくさん作ってもらえないかと」
「はぁ……?」
「もちろん対価は払うからさ」
「そういうことでしたら職人に依頼します……でも、何に使われるのですか?」
受け答えを自然に変わるメイガート。
この兄妹の役割分担ってことかな?
こちらとしても、デカくてゴツくてイカツいガルムよりも、同じ狼獣人でも物腰が柔らかでおっとりしたメイガートの方が話しやすいけども。
「この領地は国境沿いだからさ。いつか何かあるとも限らない。だから、一定数、備蓄させてもらおうかと思ったんだけども」
「それを殿下が買って下さるのですか?」
「あぁ。一応、代官代理だからね。予算的に厳しければ余ってる俺の分を使えばいいし」
「わかりました! 職人さんたちにお願いしてきます!」
「あぁ、頼むよ。とりあえず1万個でいくらになるか、教えて欲しい」
「へっ?」
ん?
きょとんとされた。
その顔が案外可愛らしい……とか、言ってる場合じゃないな。
「殿下。普通、魔道具というのは安くても金貨からです。1万個で1万金貨。殿下がお金を持っているのは知っていますが、そんな発注を気軽にするものではありませんし、職人たちも驚いてしまうでしょう」
一応、周囲の目があるから丁寧な口調になってるカシェルが教えてくれたが、確かにそうだな。
「わかった。ごめん、メイガート。何個くらいなら作れそうかと、1個あたりの金額を聞いてもらえるかな?」
「はい、わかりました! カシェル様もありがとうございます」
チュートリアルの際の魔王軍の進軍対策で大量に置いておこうと思っただけなんだけど、急ぎすぎたかな……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます