宇宙放浪者ヘドロ!

村上さゞれ

第1章 海洋衛星カリスト編

第0話 プロローグ(ばかたれ四人衆です)


『んあぁぁぁあ!! はようトイレから出てくれぇぇぇ!! も、漏れるぅぅぅうう!!』


 個室トイレの外でガキ(女)が騒いでいる。

 ドンドンドン――とまるで檻に入れられた猿がブチ切れているような勢いで、トイレの扉が叩かれる。


 だが、まだ慌てる時間じゃない。

 鍵はこじ開けられないよう、しっかり施錠してあるし、扉は強化アルミニウム合金板だから蹴破られることもない。


「ハハッ。残念だったな。あいにく俺はうんこ中だ。バラムツ亜種とかいうケツ穴から油が漏れ出る魚をお前に食わされたせいで、あと一時間は垂れ流しの予定だ。うんこならよそでしな」

わらわもそれ食ったんじゃが!? だいたい、この船のトイレはおぬしの使ってるやつだけなのに……ま、まずい……すでにパンツがすーすー冷えてきたような気がするんじゃが……!』


 うーん、小さい頃から野糞をする経験というのも大事だと思う。

 何があるか分からないこのご時世では、男女に限らず立ちションと野糞の経験があればきっと将来就活するときとかに役立つんじゃないかな。

 まぁ、ハイパードライブ中の宇宙船とかいう密閉空間じゃ、外にうんこしに出ることはできないんだが(笑)


『クソオスのご主人様は大便をしているといつわり、今ごろエロサイトでも見てしこっているのでしょう。やはり去勢をしなければ類人猿エイプオスは猿と変わらないのでしょうか』

「ししし、してねぇから!? しこってなんてないから!? 根拠のない風評被害はやめてください!?」


 扉の向こうで長身の男嫌いのメイドロイドが地球人(男)に対する誹謗中傷を呟く。

 だが、一瞬、脳裏にその豊満なボディを思い浮かべそうになり、慌てて雑念をかき消す。いくら胸がデカかろうとやつはアンドロイド……胸もシリコンの偽乳にせちちなのだ。騙されてはいけない。


『おーほっほ! わたくしの船で糞を漏らすだなんて、わたくしが許してもアルトマン・エレクトロニクスの役員たちが許しませんわぁ! その方は一生、大企業の栄えある製造初期ロットである記念艦で『糞を漏らした』と後ろ指さされること必至でしてよ――!』


 羽付きの扇子せんすをパタつかせながら、没落令嬢が俺たちの騒ぎを外から楽しんでいる。

 あの金髪縦ロールの下乳バカ女はこういう貧者が何かを求めて群がるさまが病的に好きなのだ。性癖といってもいい。そこさえ歪んでいなければいくらでも嫁として貰い手があっただろうに。


「ハッ、言ってろ。こういうのは自分が漏らしてないことが大事なんだ。俺は漏らしていない。であるならば他人がいくら漏らそうと構わない! なぜなら、俺は漏らしていないのだから!(……ぶりぶり!)」

『こ、こやつ、脱糞音で返事をしおった……』

『あらあら、どうやら押し問答は無駄なようですね』

『名言っぽいですわ! 糞漏らし伯爵ここに降臨ですわ――!』


 ふっ、せいぜい言ってろ。

 すでに体内に入ったバラムツ亜種の油はケツ穴からすべて出つつある。ここで尻を拭けば、俺は晴れて自由の身。ターンエンドだッ!


「…………」


 しかし、そのとき、トイレットペーパーを掴もうとした手がカラカラ――と芯を回転させる。

 ……紙が、ない。

 俺はしばらく、あるはずの紙がないことで芯をにぎにぎと握ると、急激に胸の内に広がっていく冷えた感触に項垂うなだれる。そして――


「あのぉ、大変差し出がましいお願いなのですが……予備のトイレットペーパーをとってきていただくことはできませんでしょうか……」


 シーン、と扉の向こうでさっきまで騒いでいた三人が静かになる。

 扉を叩く音が止み、ゴウンゴウン――と機関室の原子炉が稼働する重低音があたりを支配する。


「いや、マジでお願いします。紙がないんです」

『…………』

『…………』

『…………』

「ちょっと、おい、トイレしたいやつ。そこにいるんだろ!? 紙とってこないと漏らすことになるんだぞ! いいのか!? 俺は別に構わないんだぞ、持久戦したって! いいのか、ほんっと――にいいのかぁ!?」


 しかし、何の返事もないことに俺は眉をひそめると、ある考えが脳裏をよぎりハッとする。


「まさか、シャワーブースで出すつもりじゃ……」


 この宇宙船には居住性を確保するためトイレの他に体を洗うシャワーブースがある。

 同じ汚水槽に流れていくという点でぶっちゃけそこで出しても同じだと考えれば、第二のトイレとして活用することもできるのではないだろうか。


「いや、いやいやいや、それはマズいだろ!? 誰が掃除すると思ってんだ!?」


 俺はケツの穴にぐっと力を入れると、内股で漏れないよう立ち上がり、鍵を開ける。

 しかし、それこそが罠だったのだ。

 その瞬間、ドパァ――ンと外部の力によって扉が開け放たれ、俺の股間があらわになる。


「キャ――――!?」

「女のような悲鳴をあげるな! サッサとわらわにトイレを譲らんか!」

「あらあら、被害者ぶる余裕があるとは。これはスーパー去勢タイムが必要みたいですね」

「ケツ穴確定ですわ――!」


 男嫌いなセクサロイドと金髪縦ロール・バカ女の手によって無理やりトイレから引きずり出されると、入れ替わるようにしてチャイナドレスを着たガキが中に入り、音量マックスの音姫(トイレ消音器のこと)でも隠し切れない脱糞音をぶりちち――と響かせる。

 俺は壁際まで投げ飛ばされると、ひっくり返ってケツを露わにする。直後、その衝撃でまたもや俺の腹がぎゅるぎゅると鳴り、猛烈な腹痛と悪寒がやってくる。


「ま、待って。マジで待って。なんか、まだ出し切ってなかったみたいだから……いま刺激を与えられるとまずいからっ!」


 そんな俺に、不敵な笑みを浮かべながら近づいてくるやつらがふたり。

 何をする気かは分かっている。だが、それを理性が拒否している。こんなところで脱糞すれば、男としてのプライドすら――


「あああああ――――!!」


 気づけば俺は宇宙船に響きわたるほどの叫び声をあげていた。


 だいたい、なぜ、こんなあほでバカなやつらとパーティなど組んでしまったのか。

 そうだ。

 話は俺が何もない宙域で漂流していた、あのときまでさかのぼる――。






追記。

第1章の海洋衛星カリスト編は全33話。

第2章の監獄衛星タイタン編は30~35話くらいで終わります。


うんこ、ちんこ! みたいな下ネタを含むギャグが多いです。主人公のレベルは80くらい。最強じゃないです。それでもよろしければ、このばかたれ四人衆を見守っていただければ幸いです。

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