在りし日の硝子細工

爆弾魔どりえもん

第1話 願いの代償

「なぁ、どうしたんだ?その傷」

友人のサカグチ リュウとの食事の約束の日が訪れ、上機嫌で向かった所、友人が予想外に重症であったことに心配して開口一番に質問する。

「これか?あぁ、気にすんな。んな事より飯…」

「いや気になるって」

明らかに左手にギプスをはめている。

確実に骨折はしていそうだ。

「いや、この前夜コンビニで夜食を買った帰りによ、でけぇ影が近づいてきて急いで帰ったんだよ」

「そんで家に帰ってゆっくりしてたら玄関に同じ影が居て、襲われたってワケ」

「こっわぁ…」

「お前も気をつけろよー」

そうして談笑しつつ食事を済ませた。

この後レジャー施設にでも行こうかと思っていたが、サカグチの腕を案じて解散となった。

3日後

現在、急いで病院に向かって走っている。

それは何故かというと、サカグチから救急搬送されたという旨の連絡が来たからだ。

サカグチの病室に着き、ドアを開ける。

「よぉ、元気してたか?」

それはこっちのセリフだと思いながら、聞き返す。

「そんなことより、どうしたんだよ!」

「こらこら、病室で騒ぐもんじゃねぇよ」

「例の影がちょっとな…」

そんなになるまで怪我をしたのであれば、恐らく“超常現象”によるものを疑わ無ければならない。

「分かった、“例の店”に相談してみる」

「すまねぇな」

そうして足早にある店に向かっていく。

「ここかな、アマガ工務店って言うのは」

純喫茶のような外観をしているが、看板にはアマガ工務店と書いており、喫茶店では無いことを示している。

そして、ある注意書きが書かれている。

『硝子細工は本日分は売り切れです。超常現象の対処は受け付けております。』

そう、この店はただの工務店ではない。

超常現象は人間には手の負えないほど強大だ。

そこで、この店に依頼すれば全てが良くなると言われている。

ゆっくりと扉を開けると、チリン、と鈴の音が鳴る。

「いらっしゃい」

背後から赤髪のカーディガンを着用した中性的な人物(恐らく男性?)が話しかけてくる。

「うわぁっ!」

急な出来事で驚きの余り声を出してしまった。

「驚かせてごめんね。アマガさんに用があるんだよね」

「さぁ、入って」

促されるまま店に入る。

「客か」

ソファに寝転んでいる大柄な男性が起き上がりながらこちらに声を掛ける。

肩の下まで伸びた黒髪は、毛先が跳ねていて、反っている。

黒いスーツを着こなし、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「掛けろ」

もう1つのソファを指差し、座るよう促される。

「あ、はい…」

「要件を言え」

少し厳しい印象を感じ、恐る恐る要件を告げた。

「友人が最近夜道を歩いていたら何者かに襲われるみたいで、多分超常現象かなって思ったので、ここに来ました」

「そうか、相応の報酬を払うならばこちらで解決しよう」

その言葉を聞き、表情が一気に明るくなる。

「本当ですか!?」

「ああ。で、報酬の話だが…」

かなりの高額だろうが、あとでサカグチに請求すればいいだろう。

命が助かると思えば安いものだろう。

「うちは金ではなく、依頼者の大切な物を1つ貰うという契約だ」

「大切な物、ですか」

思い出の品等要求されるのかな、それならば困るなぁと思うが、やはり命には代えられない。

「お前の場合、命を貰おう」

一瞬、理解が追いつかなかった。

「は?」

命?命に代えられないとか思っていたら、命そのもの?そんなもの、払えるわけがない。

「うっわぁ、またですか」

最初の人が後ろで言う。

また、と表現する程頻繁に人の命を奪うだと?

…この店に頼んだのは間違いだった。そう確信した。

「少し、考えさせて下さい」

刺激しないようにやんわりと表現する。返答を間違えれば殺される可能性だって十分にある。

「ああ、重い代償だ。慎重に考えろ」

重いも何も、命だぞ?慎重もクソもあったもんじゃない。

「決まったらまた訪れます」

そういってそそくさと帰る。

「あーあ、そういうの良くないですよ。もう少し言い方というものが…」

「知るか。正当な報酬だ」

そんな会話が後ろから聞こえてくる。

が、気にも留めず急いで病室へ戻る。

「はぁ…はぁ…疲れた…」

「うわ、どうした」

「実はかくかくしかじかで…」

事情を簡潔に伝える。

「あそこそんな怖ぇとこなの?アマガさんいい人っぽかったけどなぁ」

「いやぁ怖かった」

表向きは行列が出来ることもある程の硝子細工点、その実態は人の命を奪うことが日常の組織だったなんて…

「ほんじゃあ回復したら飯食い行こうぜぃ」

「わかった、お大事に」

更に4日後

お見舞いにあいつの好物の○屋のう○トマハンバーグを持って行ってやろうと思って病院に向かう。

病院が見えてきた頃、とても大きな爆発音が聞こえてくる。

何が起こったか一瞬理解が追いつかなかった。

「サカグチの居る病院だ…」

サカグチのいる病院が爆破されている。

しかも、位置はサカグチの病室周辺の様だ。

まだ冬には早いというのに身が凍る思いだ。

全身から血の気が引いていく。

気づいた時には走り出していた。

ハンバーグは、もう手の中にない。

病室だった場所はもう瓦礫の山だ。

その中に2つの人影がある。

1つは、2メートル以上はあろうかという怪人のような外見をした黒い人影。

もう1つは、サカグチだった。

「サカグチ!!」

そう叫んだ瞬間、黒い人影は霧散していった。

そして、サカグチからの返事は無い。

「おい!起きろよ!」

右腕の肘から下は跡形も無くなっていて、顔にも大きな傷がある。

…このままでは死んでしまう。

右腕にベルトを巻き、止血する。

そしてサカグチを抱えて走る。

近くにもう1つ病院があった筈。

そっちに向けて走り出す。

しかし、途中で足を止める。

目の前にあるのは、アマガ工務店。

覚悟を決め、足を踏み入れる。

「あの!…助けて下さい…命ぐらいどうだっていいです!」

「これはひどい…治療しないと…」

以前も居た赤髪の人物が応急処置を始める。

「ようやく払う気になったか」

「いいだろう。ついてこい」

そういってアマガさんは歩き出した。

それにゆっくりついていく。

そして路地裏に入り言った。

「ここでいいだろう。人目は…無いな」

「ここで何をするんですか?」

「最近この辺りに幻想生物の気配がする。それを呼ぶ」

そしてアマガさんが手を空に掲げる。

「魔術構築 “ゲヘナ”」

辺りから黒い霧の様な物が集まり、形を成す。

その形は、あの時見た黒い人影だ。

「これは、お前だ」

…またしても理解が出来ない。

この人は何を言っているのだろう。

僕が、これ?一体何を言い出すのやら。そんな訳は無い。

第一、僕はここにいる。

あいつが僕な訳ない…よね?

「超常現象の種類の1つに、魔法というものがある。」

「魔法が発現した者は、定期的に魔力が溢れ出して災害となる」

「これは、お前の魔力が漏出したものだ」

説明を受けてやっと理解する。

…僕のせい?

僕のせいでサカグチが傷ついた?

…僕の…せいか…

項垂れ、どうにかならなかったのか、と自責の念に囚われる。

「そして、今ここでアレを殺す」

「そうすれば暫くは現れない」

「魔術構築 “スペクロ”」

何本もの光の柱が黒い影に降り注ぐ。

が、ものともせずにこちらへ向かってくる。

「面倒だな…」

「超能力 “サイコキネシス”」

黒い影の動きが止まる

「異能力 “ティへーラス”」

大きな鋏が黒い影の首を両断する。

が、すぐさま再生してしまう。

「…やめだ」

「…は?」

「だからやめると言ったんだ」

「お前が自分で倒せ」

…出来るわけがない。

「お前が力の源だ。お前が魔法を使えばアレは弱くなる。そして、同じ源の魔力なら対処しやすい」

「安心しろ、動きぐらいは止めてやる」

動きを止めたって、あんな攻撃を食らって生きているようなものを、どう足掻いても僕が倒せる訳がない。逡巡することしか出来ずに言う。

「でも、そんなのどうやって…」

「覚悟を決めて変身、と叫べ。でなければ友人が死ぬぞ」

…やるしか無さそうだ。

自信は、無い。

勝てる気もしない。

でも、僕なりに頑張ってみよう。

「…“変身”!」

黒い霧が僕の体を包む。

そして、黒い影と同じような見た目になってゆく。

不思議と根拠ない自信が湧いてくる。

何かを殴るなんて中学以来だ。

そう思いながら、思いっきり拳を振るう。

辺り一帯が黒い光に包まれ、爆発する。

黒い影は霧散していた。

「おめでとう、これで君は友人を救えた」

その言葉に安心して、纏っていた黒い霧が霧散する。

その後、ある事を思い出す。

「では、報酬の方だが…」

そうだった。

僕はこれから死ぬんだ。

でも、おかげでサカグチはもう傷つかないんだ。

でも…怖い。

人は死んだら何処へ行くのだろう。

そんな事を考えてしまい、益々恐怖が増していく。膝から力が抜けていく。

「では、報酬としてお前の命を受け取ろう」

「それでは今日からお前はうちの社員だ」

「…へ?」

あまりにも驚き過ぎて間抜けな声が漏れる。

「うちに所属すればその魔法の制御の仕方も簡単に教えられる。なんだ?その呆気に取られた表情は。お前は報酬で貰った金を破り捨てるのか?財布にしまうか、銀行へ預けるに決まっているだろう」

緊張が解けてへたりこんでしまう。

「名前は?」

「…キキョウメ サツキです」

「これから頼りにするだろう。よろしく頼む」


これは、在りし日の記憶。

沢山の人と、彼の記憶。

僕はただの語り手。

いつか、硝子細工が売り切れる日までの。

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