第2話
(...............?)
俺が死んでからどれくらいの時間が過ぎたのだろう?
(.....................。)
気が付くと、俺は心地の良い浮遊感に包まれていた。
(体が...軽くてすごく気持ちいい......。)
意識がはっきりしてきたところでそっと目を開くと、そこはまるで宇宙の様だった。
(おぉ......!これは...すげぇ...!)
目の前に広がったのは、現実ではありえないほどの数の星々が散りばめられていて、そのどれもが様々な色の光を放っている。
しばらくの間。重力を感じない世界に身を委ね、この圧倒的な神秘に感動していると、遠くの方に他の星々よりもより強く光を放つ星を見つけた。
(なんだろう...?ただ強く光っていると言うより、気づいて欲しい?ような...なんだかあの星にすごく呼ばれてるような...?...うわっ!)
そう感じた瞬間、いきなり俺の体は磁石が引き合うかの様に、その星に向かって強く引き寄せられていく。
(えっ?ちょ...ま!っ......!?)
引き寄せられる力は徐々にその強さを増し、すぐに周りの星々は白い線になって通り過ぎていく。
そしてついには、黒く美しかった景色は、真っ白に輝く世界へと変わり、ただ一つの大きな光へと近づいて行った。
(おおぉおおおぉぉぉおおお!!!!!)
とてつもないスピードとこれから何がどうなるのか分からないという混乱で、俺はただただ叫ぶ事しか出来ない。
(なな...なんだこれぇぇえ!!!!!)
ただでさえ状況が飲み込めないのにも関わらず、ついには俺の体まで光だした。
(うっ...!!!か、体が...熱いっ...!!!!)
そして光に包まれた俺の体は、みるみるうちに縮んで小さくなり、まるで30代のオッサンとは思えないくらい若くなった。
(ハァ...ハァ...一体どうなって......。)
体から光と熱が消え、手で顔から足まで触って確認していると。突然俺の頭の中に、嬉しそうな...それでいてどこか安心したような中性的な声が響いた。
『よかった...。やっと見つけました!』
(...え?...だれ?って、ぇぇええぇぇぇ......っ!!!!!)
咄嗟に反応はしたが、会話する間もなく俺は大きな光へと吸い込まれて行ったのだった...。
「フゴゴゴゴゴゴゴッ......!?!?」
気が付くと何故か俺は水中にいた...。
「ゴボボッ!!ゴボボボボボッ!!」
俺はすぐに手足をバタつかせ、息が切れる前にどうにか水面から顔を出した。
「プハッ...!ハァ...ハァ...ハァ...。」
そしてどうにか息を整えながら、周囲を見渡した。
「ど...どこだここ...ハァ...ハァ...。」
辺りは薄暗くて真上には鍾乳洞みたいなのが垂れている。
「ここは...洞窟なのか?」
俺は完全に息を整えてから適当な方向に真っすぐ泳いだ。
(おっ?あそこから上がれそうだ!)
幸い広くはなかったようで、俺はすぐに水から上がる事が出来た。
「ダメだ。一旦落ち着こう...。」
色んな出来事が一気に起きすぎて、俺の頭の中は限界寸前になっていた。
とりあえず水の中よりかは少しだけ温かい平らな岩の地面に大の字で寝転がり、深く大きなため息をついた。
(まずは状況を整理しよう...。まず、俺はあの時確かに駅のホームで死んだ...。)
俺は集中して考える為に目を閉じた。
(そして意識も完全に失ったはずなのに、何故か戻った...。)
眉間には自然とシワが寄っていく...。
(一番星を見つけた瞬間引き寄せられて...?)
今度は右手の親指と人差し指で顎をつまむ...。
(体が光って熱くなって若返った...。)
俺は起き上がりあぐらをかいた。
(そして頭の中で確かに聞こえたあの声...。)
「うーん...。ダメだっ!!全然分からんっ!!!」
必死に考えてはみたものの、これまでの出来事を繋げることが出来なかった俺は、両手を投げ出し後ろへ倒れた。
しかしながら、このままではどうにもならないのも分かり切っているので、俺は両手を頭の後ろで組み今分かっていることを整理し始めた。
(とりあえず、まず俺は今確かに生きている...。目も鼻も耳も問題なく機能しているし、鼓動だって感じる...。)
今度はゆっくりと立ち上がり、薄暗さに慣れた目で周囲を見渡した。
(そして今居る場所はおそらくどこかの洞窟の中...。空気はジメジメしてるし、なんか見たことない光るコケみたいなものもあちこちに生えてる...。)
俺は先程上がった水辺まで歩き、うっすらと光る水面に顔を近づけた。
(やっぱり若い...身長も縮んでるし、声も高くなってた......ってあれ?これ本当に俺の顔か??......いや違う...!よく見たら髪の色も生前と違うし...これ...完全に別人の顔じゃん!!)
このとき、ようやく俺の脳は悟った...。
(俺、別の世界に転生したのか...。)
「確か会社の後輩が前に言ってたっけ...」
俺は前世の記憶を辿った。
《先輩!先輩は、もし転生するならどんな世界がいいですか!?》
『はぁ?転生?んなこと考えたこともねぇよ。てか昼休憩もうすぐだぞー早く食えって。』
《えぇー!?先輩一度も考えたことないんですか?なら一体何を心の栄養に生きてるんっスか...。》
『おいおい、憐れむ顔でこっちを見んなよ知らねーよ。あーほら時間だ、もう行くぞ。』
《ちょ...待ってくださいよ!あっ...ちなみに僕は、勇者で美女達を侍らせる世界に転生するってのがもう最っ高に...》
『あ、そう。それじゃお先に...』
《あれ...?先輩?センパーイ!!!!》
仕事は出来る方ではなかったものの、いつもニコニコしててなんの悩みもなさそうな後輩を思い出しながら、俺に転生と言う少しの知識を与えてくれたことに今更ながら感謝した。
(どんな世界かは知らないけども、転生したのは事実...。となると、まずはこの洞窟の出口を探さないといけないのだが......。)
俺は自分の体を見てため息をついた。
「なんで俺......裸なんだよ...。」
死んでから色々あったせいなのか、今まで気にもしなかったがこの格好で外に出て誰かにでも出会ったらと考えると絶望と羞恥心が押し寄せてきた。
(せめて大きな葉でもあればな......って、洞窟だからさすがに生えてるわけ無いし...。いっそのことあの光るコケでもちぎって......っていやいや、想像したら余計まずいことになりそうだし......。)
俺は少し迷った挙句、洞窟は薄暗くて足元が危ないと言う理由で自分を納得させたうえで、光るコケを少しちぎって束ね左手で握りしめながら松明替わりにした。
(さすがに衛生上こわいから、デリケートなとこには触れないように気を付けよっと...。)
それから俺は洞窟湖を背に、出口を求めて壁沿いに歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます