第33話

久しぶりに実家に帰ってきたのは1月2日の夕方のことだった。

「ただいま」

「あら、幸也!帰ってきたのねー」

母がにこやかに俺を出迎え「寒かったでしょ、こたつ入りなさいな!」とこたつの横を開けてくれる。

「つめた!……ってなんだ、幸也か」

こたつで寝ていたらしい妹がもぞもぞと起き上がって俺を確認して、やれやれと言う顔をしてくる。

「久しぶり。相変わらずだなお前は」

「王子様と結婚したからって態度一変させるより良いんじゃないの?」

「まあな」

変わらなさ過ぎるのもどうなのかと言う気がするが、もう何も言うまい。

「うち来る前にサルドビア行ったんでしょ?どうだった?」

「慣れない人んちのお邪魔する時の大変さを想像してみれば分かる」

「何となく察した」

ダラダラ喋っていると玄関から「ただいまー」という父親の声がした。

「幸也帰ってきてたのか、お疲れさん」

「ただいま」

父親がコンビニの袋から酒とおつまみを何本か出してきて「お前も少し飲むか?」と誘ってくれる。

「うん。そういえば兄さんいないよね?」

「奥さんのご実家でお酒飲んじゃって運転出来ないからお泊まりですって」

「そりゃしょうがないかぁ」

父親のお裾分けしてくれたビールを開けて、さっそくグビッと飲めば苦味と爽やかさが喉を抜けていく。

「「「はー……!」」」

しれっと妹も飲酒してたので「お前は誘ってないんだが?」と父親に叱られていた。

ビールをおせちでちびちびと呑みながら、父と妹のアホみたいな喧嘩を眺めて過ごすと実家に戻ってきた感じがする。

「やっぱ実家はのんびりできるわ」

「うまく行ってないのか?」

「それなりにやってるよ、少なくとも向こうはちゃんと俺のこと夫として扱ってくれてるし」

妹が悪そうな顔で「詳しく聞かせてよ」と聞いてくる。

「一応王族ってこと四六時中人がついてくるのは不自由だけど、仕事の都合がつかない時以外は毎日一緒に飯食ってくれるし、仕事とかでも俺のこと頼ってくれたり、あと一緒に寝てると寝顔がすごく可愛い」

「ほうほう。お、ハイボールあるよ」

「飲む」

ハイボール缶を開けると、ウィスキーの深い風味が炭酸と一緒に弾けて広がっていく。

妹に勧められるままに日本酒やハイボールを飲みつつアドルフとの生活の話をしていると、程よく酔いが回ってきた辺りで妹が突然ぶっ込んできた。

「で、そんな可愛い旦那との夜の生活はどんな感じよ?」

「ストレートに下ネタ突っこんできたな……というか、手ぇ出せるわけないだろ。10歳下だぞ?」

「えー、出してないの?」

「出せるかよ。向こうが選んだとはいえ、俺はただ単に都合が良かったから選ばれただけだし多分死ぬまでそう言う事にはならないよ」

アドルフが結婚相手に望んでたのはとにかく病気しなさそうな健康な男性であることだけ、政略結婚なのだから良い夫として遇してくれるだけマシというものだ。

「漫画みたいに冷遇お飾り夫じゃないよりは良いんだろうけどさー、添い寝してるんならそう言う空気にはならないの?」

クリスマスの夜のことを思い出して少し頭を抱えると「……ない」と答えて、とりあえずなかった事にした。

妹はニヤニヤと笑いながら「えー?」と聞いてくる。というかもう酒飲むのやめろよ、真っ赤じゃねぇか。

「ほんとにー?」「何もない!」「ないのー?」「無いったらない!」

いくらデリカシーを忘れて生まれたような妹のせいとは言え、流石にクリスマスの夜のことまでは言いたくない。

めんどくさい酔っ払いとなった妹に母が「そろそろ辞めなさいな」と水を持ってきて、父が酒を妹の手から取り上げる。

「えー、まだ飲むー!」

「だーめ!」

そうしてひとしきり揉めたあと、「私のこと可愛くないんだー!」とふてくされて部屋に戻って行った。可愛いから飲まさないんだろ……お前あれ以上呑んだら絶対吐いて寝るだろ……。

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