『サイドストーリー オブ マージャー・アンド・アクイジション!』
瑞木 燐
1st Scene 「雪乃と灯」1/2
「……ねえ、そういえば雪乃ってさ、どんな男がタイプなの?」
突然、
アドバイザー部襲撃事件、それを受けたエクイティ・ファンド部の設立から、少し経ったある日の放課後、二人は、新大久保に来ていた。
事件直後は、さすがにショックで塞ぎ込んでいた灯だったが、今ではすっかり元気を取り戻している。
「最近流行っているスイーツの取材に付き合って⭐︎」、灯からのそんな“甘い“誘いに乗って、のこのこと着いて来た雪乃であったが、初めてきたこの街に、最初は圧倒された。
韓国コスメの看板がキラキラと輝いているかと思えば、焼肉やチーズといった食欲を刺激するような香りがそこ儚くなく漂う。
自撮り棒で写真を撮っている女子高生たちの集団の横を、食べ歩きしているカップルが歩き、いかにも「映え」そうなフルーツ飴専門店の行列の先には、ずっと昔からあるような古いアジア食品店や雑居ビルが軒を連ねていたりする……。
「これぞ、“情報の
駅に着いた灯が、動画を回しながら、なぜか得意げに言ってくる。
雪乃にとっても、どんな人間でも受け入れてくれるような、懐の深さを感じる“カオス“は、不思議と居心地が悪いものではなかった。
「
色々と“地味“な雪乃としては、少々場違いではないかと心配になるようなお店だった。
「これが、“クロッフル“か〜。確かに“映える“ね!⭐︎」
お目当てのスイーツを前に、灯が感嘆の声を上げるが、普段のテンションと比べてそこまで高まっている様子ではない。
雪乃にとっても少々意外だったのだが、いかにも“イケイケの女子高生“の雰囲気の灯だったが、甘党ではなく、どちらかというと辛党、というかしょっぱい党だった。
「塩辛で食べるご飯こそ、至高ッ!!」
と以前、熱く語っていた。
逆に、雪乃の方こそ、重度の甘党だった。甘いものは別腹なのは当たり前。むしろ、本腹というか三食スイーツでもいいくらいだ。
子供の頃、七夕の短冊に、「ホールケーキを一人で食べたい」と書いたことは、今でも覚えている。(残念ながら、まだ実現はしていない)
クロッフルは、ワッフルの上に、クリームやアイスがデコレートされた韓国発のスイーツだ。この組み合わせで美味しくないわけない。
雪乃は思わずにやけてしまえそうになるのを堪えながら、散々迷った挙句、ようやく注文を終える。
灯は、チョコミントのクリームとクッキーが乗ったクロッフルとコーヒー、雪乃は散々迷った挙句、スタンダードにイチゴとクリームがたっぷり乗ったクロッフルとカフェオレを頼む。
「ねぇ、雪乃。私、ずっ〜と、密かに思ってるだけどさ〜。
雪乃みたいに、スイーツ食べる時に、甘い飲み物頼む子って結構いるじゃん?
なんかせっかくの甘さが相殺されちゃってもったいなくない??
お茶とかコーヒーとかで“リセット“した方がいいと思うんだけど」
注文を待っている間、灯がそんなことを言い出す。
全くもって、「甘党」の本質がわかっていない。
「甘いものに、甘いものを合わせる。
それすなわち、幸せに幸せが重なるってことだよ!
例えば、本屋で本を買おうとして、たまたま本屋のキャンペーンで無料になって、しかもその本がすごい面白かったら、幸せ以外の何者でもないでしょう?
重なって悪いことなんてないの」
「うーん、例えはわかったようなわからない感じ〜⭐︎ けど、とりあえず、雪乃の甘いものに対しての情熱はわかった」
「わかったなら、よろしい」
……そんなことを話していたら、待ちに待ったクロッフルがやってきた。
可愛いワッフルの上にタップリのクリーム。そして、可愛く、美味しく見えるようにカラフルなソースやトッピングが散りばめられていて、まるで砂糖の国のパレードを走るフロート<<台車>>のようだ。
綺麗な飾り付けを崩してしまうのは勿体無かったが、我慢しきれず、早速、食べようとしたところを、灯に制される。
「雪乃、ちょっとストップ! 取材用に写真だけ撮らせて」
甘いものにそこまで関心がないというのもあるだろうが、灯のこういう“プロフェッショナル“なところは、本当にすごいと思う。
少し恥ずかしく感じながら、大人しく雪乃は、灯が写真を撮り終えるのを眺める。
「オッケ〜⭐︎ ごめんね、待たせちゃって。さっ、食べよ食べよ♡」
灯の言葉を聞くのと、同時くらいのタイミングで早速クロッフルを口に入れる。
クリームの甘さとイチゴの酸味が、とろけるようなワッフルの食感と混ざりあり、口の中で天使がダンスを踊り出したかのような至高の瞬間が私に訪れる。
「……おーいしーい!!♡」
思わず、普段の灯のようにハートマーク付きのセリフが飛び出してしまう。
「うん、確かに美味しいね〜。こりゃ、流行るのもわかるわ」
灯が評論家のように冷静にコメントを入れる。……いつものお互いのキャラクターが、入れ替わってしまったようだ。
しばらく、お互い無言で食べ続ける。
ふと、視線を上げると灯が頬杖をつきながら、私のことをじっと見ていることに気づく。
「しっかし、雪乃は本当に幸せそうに食べるね〜♡ こっちもなんだか嬉しくなっちゃう」
雪乃は少し気恥ずかしくなって灯に答える。
「えー、なんか灯、彼氏みたいなこと言うね」
「彼氏ね〜……。ねえ、そういえば雪乃ってさ、どんな男がタイプなの?」
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(話末あとがき)
お読み頂きましてありがとうございます🙇
ノートでご報告させて頂きました通り、スピンオフ(「情報部、東堂蒼士の事件簿」)の公開、本編の第2部と並行して、何話か、サイドストーリーを執筆させていただければと考えております。
第一弾は、灯と雪乃コンビの日常回で、本日と明日公開予定です。
ただ、一通り書き上げてから公開する普段と異なり、こちらは急遽執筆を決めた関係で、不定期の更新になる点、ご容赦頂けますと幸いです。
(ちなみに、クロッフルは本当にありますが、ルーチェというお店は架空のものになりますのでご了承ください💦)
出来るだけ、お気軽に楽しんでいただける内容にできればと存じますので、是非、ご賞味くださいませ。
瑞木燐
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