俺のスキル【調べる】は役に立つのか?

αβーアルファベーター

序章

第1話 スキル【調べる】

◇◆◇ 


――意識が浮かび上がる。

まるで水面に引き上げられるように、重たい闇から視界が広がっていった。


眩しい。

目を細めると、そこは見知らぬ草原だった。青空はどこまでも広がり、白い雲がゆっくりと流れている。足元には柔らかな草が揺れていた。


「……え? ここ、どこだよ」


寝転んだまま呟く。確か、放課後に帰宅途中で車のブレーキ音を聞いたはずだ。衝撃、そして暗闇――。

記憶が途切れたところから、

気づけばこの世界にいた。


頭を抱える俺――ユウ、16歳。高校一年生。特に取り柄もない、平凡な学生だ。

漫画やゲームならよくあるけど、

まさか自分が「異世界転生」するなんて、考えたこともなかった。


「……って、夢じゃないよな、これ」


頬を軽くつねる。普通に痛い。

現実だと認めた瞬間、目の前に光のパネルが浮かび上がった。



◇◆◇


〈ステータスウィンドウ〉


【名前】ユウ

【年齢】16

【職業】無職

【スキル】調べる Lv1

【所持品】なし



◇◆◇


「……うわ、マジか」


もっとこう、《剣術》《魔法》《勇者》

とか、

かっこいいのが出ると思ったのに。

俺に与えられた唯一のスキルは――


 【調べる】。


「は? 調べる? なんだそれ」


思わず声が裏返る。


試しに、

近くの石を指差して念じてみる。



◇◆◇


【対象】ただの石

【硬度】低

【用途】投げれば痛いかもしれない



◇◆◇


「…………いや、

 確かに調べたけどさ」


めちゃくちゃ地味じゃないか?

スライムを一撃で倒す火球魔法とか、剣術の達人になるスキルを期待してたのに。


さらに自分自身に向けて使ってみる。


◇◆◇


【名前】ユウ

【体力】平均

【魔力】微量

【特性】学習意欲あり

【弱点】戦闘力皆無 知識不足


◇◆◇


「うるせえよ!」


突っ込みながらも、

心臓の鼓動が早くなる。

確かに役立たなさそうだけど……

でも、情報がこれだけ細かく出るのは便利かもしれない。


◇◆◇


しばらく草原を歩く。

見渡す限りの緑。道も建物もなく、

風の音だけが耳に残る。

空腹を覚え、

木の実らしきものを見つけた。


「毒とかだったら嫌だな……」


 すぐに【調べる】を発動。


◇◆◇


【対象】赤い木の実

【食用】可

【味】甘酸っぱい

【効果】少量の体力回復


◇◆◇


「おお……! 

 これ、かなり便利じゃん」


安心して口に含む。ほんのり酸っぱくて、乾いた喉に染み渡った。

どうやら、全く役に立たないスキルってわけでもなさそうだ。


◇◆◇


 ――ガサリ。


茂みが揺れた。

息を呑む。現れたのは、小さな半透明のスライム。ぷるんと揺れる体、のろのろと近づいてくる。


「うわ……! これ、

 完全にRPGで見るやつ!」


武器もない。逃げるか――そう思ったとき、ふと脳裏に閃く。

 【調べる】。


◇◆◇


【対象】スライム

【強さ】弱

【核】体内中央に存在

【弱点】核を破壊すると即死


◇◆◇


「なるほど……」


足元に落ちていた棒を拾い、

恐る恐る突き出す。

スライムが弾力で跳ね返そうとした瞬間、棒の先端が体内の赤い核を突き抜いた。


 ――ぼふっ。


スライムは弾け、消えた。


「……やった、倒せた」


心臓がドクドクと脈打つ。

恐怖と同時に、

言いようのない高揚感があった。


「俺のスキル……使い方次第で、

 戦えるかも……?」


そう呟いたとき、遠くに煙が上がっているのが見えた。

どうやら人のいる街か、集落があるらしい。


不安と期待を胸に、

俺はそちらへ歩き出した。



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