ヒガンバナの悲願

るいむ

第1話

【シーン1:穏やかな始まり】


とある村。

少年が突然、家に火を放ちそうになり、人々は恐慌状態。

原因は、家族への深い憎しみと孤独。


沙華は現れ、静かに「慈悲の鎌」で彼の怒りを断ち切る。

少年は落ち着きを取り戻し、静かに微笑む。


「……怒り、が……もう、どこにも、ないんだ」


村人たちは一時、沙華を称える。

「さすが、感情を断ち切る“鎌の乙女”」と。



【シーン2:その夜】


沙華は村の外れでたい焼きを頬張りながら、

村の彼岸花を眺めて日向ぼっこ(夜だけど)している。

満足げ……かに見えるが、少女の記憶がふとよぎる。


「怒ることも、きっと大事なんだよ。悲しい時は泣いていいって、誰かが言ってた」


沙華は首をかしげる。「……怒りは、害、では?」


だが、直後──



【シーン3:怒りの矛先】


少年の姉が現れる。

目に涙を溜め、息を荒げながら、沙華を睨む。


「返してよ……!!私の弟を……!!」


驚く沙華。

姉は続ける。


「確かに、あの子は暴れてた。家族のことも憎んでた。でも……それでもっ!」

「悩んでたの。必死に生きてたの。怒ってたって、それは“あの子の心”だったのよ!」

「アンタが“優しさ”で斬ったのは、その子の“輝き”だった!!」


沙華は初めて、言葉に詰まる。


「……あたくしは、ただ、怒りを……消しただけ……」

「それは、きっと、助けになると……思ったのですが……」


「……そんなの、勝手な思い込みよ」


姉は泣き崩れる。

沙華は、静かにその場を立ち去る。



【シーン4:慈悲とは何か】


その夜、沙華は彼岸花の前でじっと立ち尽くす。

たい焼きは手にあるが、口には運ばれない。


「……あたくしは、間違えたのでしょうか」

「苦しみを消せば、それで人は救われると……そう、思っていたのです」


彼岸花は答えない。

けれど、記憶の中の少女が、微笑んで言う。


「怒ってる自分も、大事にしたかったんだよ。全部、私だから」


沙華の瞳に、ほんのわずかな変化。

何かが心の奥で動いたような──



【シーン5:少年の声】


翌日、沙華は少年のもとへ。

彼は穏やかに花の水やりをしている。


「姉ちゃん……ずっと泣いてた」

「でも、怒ってる時の僕のことも、ちゃんと見ててくれたんだなって……思った」


沙華は鎌に手をかけるが、振るわない。


「あたくしは……あなたの感情を、奪いました」

「今、あたくしにできるのは……あなたの言葉を、聞くことだけです」


少年は微笑み、こう答える。


「……それでいいよ。今は、誰かと話せるだけで嬉しい」



【エピソード終わり・沙華の心の変化】


たい焼きをかじる沙華。

ほんの少し、味を感じたように──


「……少しだけ、甘い、気がします」


白い彼岸花が、風に揺れる。

感情の意味を知り始めた沙華は、

“真実の慈悲”に、ゆっくりと近づいていく。

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