7話

ーー山深い場所にある目を引く古い建物には「綾織屋」と書かれた看板が掛けられ、風雨に晒された文字はかすれている。

その店前に石像のように立ち続けている店主の老人は仙人を想わせ…実際、布を裁ち糸を紡ぐだけの職人でもない。


一子相伝の秘術「織姫」で特別な布を織り上げる彼が手がけた服は、身を守るだけでなく心を温め勇気を与えてくれるーー


「そんな凄腕の九代目店主、綾織 幸雄さんだよ。フォレスター君もしっかり挨拶してね」


『ンァッ!ンンンゥ』


暖かな日差しが入る店内で、俺は転移する前から抱えているフォレスター君の手を握って綾織おじいちゃんにご挨拶。

黒で統一された着物をビシッと着こなす彼は、フォレスター君の元気な声に頬を緩ませながら前に進むと軽く頭を下げた。


「ご紹介に預かりました綾織です。ぼっちゃ…いえ、旦那様並びに可愛らしい新たなお客様もようこそお越し下さいました」


フォレスター君?周りの服が気になるのは分かるけど、もうちょっとおじいちゃんと目線合わせようね。

折角痛む腰を曲げて俺より高い背を小さくしてくれてるんだから、それをスルーしたら悪気があってもなくても失礼に当たる。


昔から可愛がってくれてるおじいちゃんを無理に屈ませたくはないけど…俺は成人しても160cmでキヨさん171・おじいちゃん177。

お爺様みたいに、身体を作り変えられず運命から逃れられない悲しきチビだからちょっと背伸びしたり厚底の靴を履いて、誤魔化すしか方法が無いんだ。


「おじいちゃんごめん、この子が我慢出来そうにないから注文してた品出して貰っていい?」


「勿論大丈夫です、旦那様は私のことなどお気になさらず…至らぬ点が多い老耄を最後まで構ってくれるのは貴方くらいなんですから。もっと甘えて欲しいくらいですな」


そう言って笑い飛ばしてくれるおじいちゃんは、少々お待ちをと頭を下げて奥に引っ込んだから店内を冷やかそうかな。

ほら、フォレスター君。色々あるでしょ、これ全部が妖術を用いて彼が1人で作った一点物だよ〜。


『ンッ!?』


「びっくりするよね、俺も初めて来た21年前は寡黙な父上に笑われるくらい驚いたんだ」


「4歳の蓮様は、その場で転ぶ程に驚いて綾織様の足にしがみついたんですよ。あの時の赤面を捉えた、私の妖術による渾身の写真は我が家で争奪戦になりました…」


後ろで静かに控えていたキヨさんが、突然話し出したかと思ったら俺の暴露話だった。

あの時のことは、出処不明な写真があったせいで家族全員にバレて幼いながらに恥ずかしい思いをしたんだけど…


フォレスター君は興味を持たなくていいよー、というかアレはキヨさんの仕業だったんだ?後で覚えておいてね、背後に注意だ。

服よりも俺の恥ずかしい話が気になるなら、今は猫みたいに伸ばし抱っこしてるのを活かして右へ左へ揺さぶるよ。


俺の思い出話をし続けるキヨさんに夢中なフォレスター君は、揺さぶられて嫌がるどころか楽しそうだ。

まあ、俺も本気で嫌がってるわけじゃないから皆でそうやって遊びながらおじいちゃんが服を持ってきてくれるのを待った。

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