5話

茶の間での余興が終わると、キヨさんはいつものように後片付けを素早く済ませてくれるから俺は廊下を歩いて寝室へ向かう。

この時も床板の軋む音が今夜も心地よく響くから穏やかな気分のまま寝室に入ると、柔らかな灯りが自動で点いた。


古い家だけど、キヨさんや俺に家族が遺した妖術で現代的にアップデートされてる部分が結構あるから、こういう便利さはそこらの家と比べてもいい線いってると思う。

色々考えながら着物をいつも通りサッと脱いで箪笥に丁寧に仕舞ってから肌小袖に袖を通す。


軽くて肌触りがいいこれが俺の中では寝る時の定番だね、外の世界で疲れた体を優しく包んでくれる感じが好きなんだ。

パジャマ?そんなの知らないね、少なくとも父上も爺様も使用人の皆も全員家の中なら着物系で統一してたから。


別にキヨさんがこだわって選んでくれて、昔からのお付き合いがある老舗の人達が縫ってくれた外出用の服に文句はない。

むしろ、申し訳なくなるくらい良い品をくれるけど…慣れた着物とか肌小袖には適わないんだよね〜こればっかりは気持ちの問題だから、俺もどうしようも無いんだ。


ベッドサイドのテーブルにカードの束を置いてから声をかける。


「おやすみ、皆。今日は色々あったけど明日からまたよろしくー、ゆっくり休んでね」


『『『………〜』』』


カードから微かな反応が返ってくる気がしたところで布団に潜り込みながら目を閉じると、今日の出来事が俺の頭をよぎる。

下衆野郎の件は完全に片付いてないけど今は寝ようか、キヨさんが見守ってくれる家で安心して眠れるんだからさ。


zzzz




◇◇◇


「よく寝た〜!」


『……!!!』


「うん、カードの皆もおはよう。元気だね」


朝の陽光が障子越しに柔らかく差し込んでくる中で俺が目を覚ますと、キヨさんの作ったであろう朝食の良い匂いが廊下から漂ってきて自然と体が起き上がる。

すぐに食べに行きたい気持ちも山々ではあるけど…まずは寝室の隣にある洗面所へ移動して、顔を洗う。


すると、冷たい水が俺の肌を引き締めて眠気を吹き飛ばしてくれるから鏡に映る自分の顔をチェックしながら、化粧水を丁寧にパッティング。

男だからって手抜きはしないよー、美しい外見を保つのは妖術師の家系として当然の嗜みだし、当主ならば尚更何より自分を大切にするってことさ。


乳液も両手で丁寧に顔の筋肉を解すようにしながら軽く塗って…UVケアのクリームで仕上げだ、外の世界は紫外線が敵!これテストに出ると思うよ。


「フォレスター君、後で実体化したらスキンケア教えるよ? 難しいけど、妖力でやればカードに反映も出来るし」


オシャレ番長のフォレスター君以外からも軽い反応が返ってくる気がするけど、きっと気のせい。

気のせいってことにしないと数え切れないくらいあるカード全員の、コーディネートをしてたら流石に過労死しちゃうよ。


「皆、構ってほしいだけでスキンケアの"ス"の字も理解してないだろ?」


『……!!??』


どうしてもって言うなら付き合おうとは思ってるし、そうなったら今日も忙しくなりそうだから準備万端で朝食に向かおうか。

キヨさんが待ってるはずだしね、怒らせた時の怖さは櫻井家でも有数だから少し急ごう。



昨日のデジャブのような駆け足で洗面所から茶の間へ向かうと、キヨさんが予想通りに朝食を準備してくれていた。

今日のメニューは、ふっくらした卵焼きに味噌汁と納豆にご飯の定番セットでそれぞれの香りが俺の嗅覚をくすぐる。


座卓に座って箸を取るとキヨさんも向かい側に座ると預けたままだった新しいカードの皆を、卓袱台の真ん中に立てかけて貰い話しやすい感じで置いてある。


「「いただきます」」


俺達は声を揃えて食べ始め、味噌汁の出汁を体に染み渡わせつつ新しいカードの皆が退屈しないように声をかける。


「昨日、キヨさんに家の中を案内してもらったみたいだけど、どうだった? 何か面白いことあった?」


『//~~~?………!、。。。』



皆を実体化させてないから声は聞こえないけど、妖術でなんとなく感情が伝わってくるのを読み取る。

まあ、一般人じゃ有り得ない程の偉業でも慣れてる俺なら呼吸みたいなものだね。


あー、はいはい。聞いてるから安心して………成程?皆の中でも一番新入りの子が、廊下の軋む音にびっくりしたみたい。


「喧嘩しないでね、サンドドール!新入りイビリは冗談でもやめよう?下克上されるよ」


ちょっとお調子者な子に注意している俺へすぐにアピールしてくる元気な子は、箪笥の中の香木の匂いが不思議なんだね。

サンドちゃんは、キヨさんの妖術で浮かぶ器を見て興奮した様子を伝えてきた。


そうやって、行儀が悪くならない程度に皆と話しつつ箸を進めていたら同じように食べながらのキヨさんが補足を入れてくれる。


「カードの皆様は、我が家の妖術に大層驚かれた様子で自動の灯りや埃一つない部屋を保つ為の清掃術を見た時なんて、私の手から溢れ落ちる勢いでしたよ?」


「目に浮かぶな〜、皆リアクション良いからね」


「蓮様の子供部屋等も覗かせて頂きましたが、古いのに綺麗と感心なさっていましたね」


キヨさんの言葉に、その時を思い出したのか軽く震える気配がして俺だけでなく彼女もこっそり目を合わせながら笑ってしまう。


「へえ…俺にとっては普通だけど、外から見たらやっぱり不思議だよね。妖術のお陰で、我が家は生きてる錯覚するくらいの面白さがあるし皆が慣れてきたら実体化散策しようか」


「お望みとあらば、いつでもご案内いたします」


朝食を食べながら楽しいやり取りが続く朝は、穏やか且つ凄く賑やかな…矛盾してるけどそんな時間となった。

サンドちゃん、君達カードは食事不要な身体だからお腹を気にしなくても大丈夫だよ。

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