第三十二話 国際比較
静流が持ってきたデータチップには、もう一つ別のフォルダが入っていた。
フォルダ名は『国際情勢分析レポート』。
「……これも見てください」
静流はそう言うと、MIYABIにファイルを開くよう指示した。
ディスプレイに映し出されたのは衝撃的な映像の数々だった。
それは世界各国で秘密裏に、あるいは公然と開発が進められている新型パワードアーマーたちの、実戦あるいは演習の記録映像だった。
最初に映し出されたのは、あの中央大陸の紛争地帯で破壊の限りを尽くしていた、傭兵会社『カタフラクト社』の量産型パワードアーマー『ホプリタイ』だった。
無骨な人型。装甲は薄く動きもぎこちない。だがその両腕には大口径のガトリングガンが装備されている。
映像の中でホプリタイの部隊は、何の躊躇もなく市街地に向かってその弾丸の嵐をばら撒いていた。
建物が崩れ車が炎上する。
その圧倒的な火力の前に抵抗する民兵たちは、なす術もなく薙ぎ払われていく。
「……ひどい……」
匠が思わず呟く。
「……これが世界の現実です」
静流が静かに言った。
「彼らにとってパワードアーマーとは兵士の生存率を上げ、そしてより効率的に敵を殲滅するための道具でしかありません。そこに非致死などという思想は一片も存在しないのです」
映像は切り替わる。
今度は赤龍帝国が誇る巨大機動兵器『祝融』の最新の演習映像だった。
その巨体から放たれるクラスターミサイルが、山の斜面に着弾し広範囲を焼き尽くしていく。
『……MIYABI、この攻撃による環境への影響をシミュレートして』
静流が冷静に指示を出す。
MIYABIは即座に計算を開始し、その結果を表示した。
『……半径2キロメートル圏内の生態系は完全に破壊。土壌汚染は回復までに推定50年を要します』
「……彼らは自分たちの国土で平気でこんなことをするんです」
静流の声には深い絶望の色が滲んでいた。
「……力こそが正義。それが彼らの思想です」
次々と映し出される世界のパワードアーマーたち。
どれもこれも《霞》とは対極の思想で作られていた。
より厚い装甲。
より大きな火力。
より効率的な殺戮。
それこそが彼らが目指す進化の方向性だった。
「……ではもし」
静流はそこで一度言葉を切った。
「……もしこれらの現場に《霞》が投入されていたらどうなっていたか。……MIYABI、シミュレーション映像を」
ディスプレイの半分に先ほどのホプリタイが暴れ回る映像が映し出される。
そしてもう半分に、その全く同じ状況を《霞》がどう解決するかのCGシミュレーションが映し出された。
シミュレーションの中の《霞》は決して正面からは戦わない。
八咫モジュールで敵の配置と動きを完全に把握し、建物の死角を利用して巧みに接近する。
そしてすれ違いざまにスタンネットで敵の視界を奪い、粘着フォームでその足元を固める。
ガトリングガンを乱射する敵に対しては、硬質フォームで銃口そのものを塞いでしまう。
戦闘はわずか数分で終わった。
ホプリタイの部隊は一体も破壊されることなく、その全ての動きを封じられている。
そして何よりも市街地の被害は最小限に抑えられていた。
死者はもちろんゼロだ。
「……これが先生の鎧の戦い方です」
静流は誇らしげに言った。
「破壊ではなく無力化。殺戮ではなく救済。……どちらが本当に優れているか、議論の余地もありません」
「……だが」
匠は反論した。
「……もし一対一で正面から撃ち合ったら? あのガトリングガンの集中砲火を浴びたら、いくら《霞》でも無事では済まないだろう」
「……その通りです」
静流はあっさりとそれを認めた。
「……それこそがこの思想の脆弱性でもあります。盾は最強の矛の前にはいずれ砕け散ってしまうかもしれない。……だからこそなんです、先生」
彼女は真っ直ぐに匠を見つめた。
「……だからこそこの盾をもっと多くの人々の手に渡らせる必要があるんです。国全体がこの盾を構えた時、初めて最強の矛もその意味を失うのですから」
その言葉は静かに、しかし確実に、匠の心の一番深い場所に届いていた。
守るべきものが何なのか。
そしてそのために本当に為すべきことが何なのか。
答えはもう出かかっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます