第13話・2006.4.25(the)『ともだち』

紺野とケンカした・・・というか、あいつを怒らせてしまった。


部活後に紺野を怒らせて、あいつは女とこに行っちゃって、で、そのあとバイトに行ったのかどうだかわかんないんだけど・・俺は塾どころじゃなくって、生涯初めて塾をサボって、かといって行くとこもなくて・・そのまま家に帰って眠った。


塾をサボったら他にもさ、することあるじゃん。ゲーセンとかさ・・ぼんやりと町を彷徨いながら仲直りの方法考えるとかさ・・・そういう事すら出来ないんだよ。俺、情けないよね。


そんな事を考えながら見た夢は最悪で、紺野に屋上から蹴落とされる夢だった。『わあっ!!!!』って大声上げて飛び起きたら、『わあ!!』って声がベッド脇であがった。声のほうを見て俺は固まる。紺野がマンガを持っていた。時計は夜の9時をとっくにまわってる。



俺はとりあえず寝ぼけた頭で、色々な謝罪の言葉を考えたんだけど、うまい言葉が見つからない。沈黙が続いて、余計焦って泣きたくなった時、紺野がいきなり俺に謝ったんだ。                     


「さっき、ごめん。俺、ついカっとして」      


・・・・・・。


「え、そんな、悪いのは俺だよ。本当にごめん」 



慌てて謝る俺。比呂はそんな俺を見て、ふふっと笑ってマンガを閉じる。


「ううん。俺が悪い。お前、悪気なかったのに・・ごめん」

「・・・・」

「ちゃんと謝りたくて・・で、家おしかけた。ごめんな」


・・こんの・・・・。


「・・・女の人・・・大丈夫だった?」

「ああ、うん。大丈夫」

「・・・バイト・・行った?」

「行ったよ。で、その人のとこに寄ってから、ここ来た」

「・・ごめんな。わざわざ」

「ううん。俺こそゴメンな。じゃ、帰るから」


「え?」


「や。ご迷惑な時間にお邪魔しちゃってるから・・」

「なんで!いいじゃんっ・・ゆっくりしてきなよ」


俺の言葉なんか一切無視で、さっさと帰り支度する紺野。俺の部屋のドアをあけると、『じゃ、またな。』といって、ウィンクしてでていってしまった。


・・・・なんか・・仲直り・・できた・・・。

・・・え・・・でも・・・ちょっとまて。


今回は絶対俺のほうが悪かったんだってば!!!


俺は紺野に電話する。そしたらちょっとして紺野が電話に出る。『・・・なーにー・・? 』いかにも俺の事がうっとおしいって感じの声。こういうの真に受けたら駄目なんだっ。紺野はこういうキャラだから。


「マジごめんっ!今回の件は俺が全部悪い!ほんとにごめん!」

『・・・・だからそれはー・・』

「だからじゃないっ!俺が悪いの!俺がゴメン!」

『・・・じゃあ・・両成敗ってことで・・』

「や、だめだそれじゃ。俺が完全敗訴だって」

『・・・・敗訴でも勝訴でもどーでもいいよ・・。じゃあね・・。』


ガチャン。


・・・・・・よし。リダイヤルだ。


呼び出し音一回分で、すぐに電話に出る紺野。反射神経が尋常じゃない。


『なにっ?!いやがらせ?!』

「なに?じゃなくて、だからごめんねっていってんのっ」

『それ、さっきも聞いたし意味も通じてる。っていうか、俺いつになったら家に帰れるんだよ。』

「・・・・」


文句言う声がかわいい。


俺が思わずふきだすと、受話器の向こうで紺野が『笑ってんじゃね~・・・・』って小言でぼやいたのが聞こえた。


沈黙。


電話繋がってんだけどね。沈黙。沈黙してんだけど、電話を切らない俺たち。無数に飛び交う電波をまるで独占しているかのように、俺らの周囲は静かだった。



目を閉じて心に紺野を描く。


「俺・・・お前を失くすのが怖いんだ」

『?』

「紺野と仲良くしてるとさ・・すごく楽しくて・・・」

『・・・・。』

「色々なものにやきもちやいた。ごめん」

『・・あー・・。うん。わかった。』


静かに俺が謝ったら、紺野はあっさりそれを受け取った。その後俺らは互いの場所で、それぞれにふふっと軽く笑う。『じゃあね。』小さな声を掛け合って電話を切る。つながりが途切れる。だけど何かで・・俺たちは繋がってる。そんな気分になった。なんだろう、この気持ちは。


誰からも口をきいてもらえない一人ぼっちの日々を過ごしてた中学の頃の俺。あの時は意味も分からず突然に友達の輪の中から弾き飛ばされた。


でも今の俺は、自分のちっぽけな意地のせいで怒らせた友人と、しっかり仲直りすることが出来た。そうだよな・・うん・・。これが友達だ。揉めたらも揉めたで話し合って、解決していくのが友達。


紺野がかおりって女の前で、どんな顔をしてるのかは知らない。でも、いいんだ。そんなことは。


今はいいんだ。仲直りできて本当によかった。

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