第36話 VSスチールゴーレム2

 リオンSide


 正直無我夢中だった。


 結界の事だとか、ボスモンスターが迫ってるとか、そういう考えがこの時のあたしは全部吹っ飛んでたかもしれない。


 ただ2人が危ない、助けなきゃって、それしか考えられなかった。


「リオンちゃん危ニャいー!!」


 そこに鋼の巨人があたしの方に来た事に気づいたのは、リンちゃんからの大声。


 もう間近まで迫って拳を振り下ろそうとしてるのが見える。



「ブリッツ!!」


「ゴォォ!?」


 そこへ神城君の魔法を唱える声がしてから、スチールゴーレムが電撃を浴びて動きが止まっていた。


「此処は僕が引きつけるから! リオンさんは倉田さんと一緒に2人を回復して!」


「わ、分かった!」


 あたしに指示を出す神城君は気の所為か、ちょっと頼もしくて格好良いと思ってしまう。何時もは可愛い寄りなのに、この時だけは彼の姿がそう見える。



「ほら、こっちこっち!」


「ゴォォー!!」


 神城君が誘うと釣られるように、スチールゴーレムは彼の方へ向かっていった。振り回す拳を右に左に避ける神城君は、本気で躱すのが上手い。


 レベルが上がったせいか、あの大きなイノシシのボスと戦った時より良い身のこなしかも。って何時までも神城君の戦いを見てる場合じゃなかった!あたしはあたしの出来る事しておかないと!


「傷ついた者を癒したまえ……トリート!」


 ダメージを負った護君へ回復魔法を使う。発せられた癒やしの光に向かって、早めに治ってほしいと念を押したりもしておいた。


「癒しの神よ、我が声に応えよ……トリート2!」


 流石は回復のスペシャリストと言うべきか、倉田さんは盾山君の体に両手を翳すと、より強い回復の光を発して傷を癒す。


 後は神城君の方でなんとか時間を稼いでもらうしかない。待ってて、すぐ治すからね!




 明弥Side


 さっきまでの鈍重な動きとはまるで変わって、鋼の巨人とは思えない速さで僕に迫って来る目の前の巨大ボス。


「ゴォォ!!」


 ブンブンと左右の拳を振り回し、壁や床に鋼の鉄拳が炸裂すれば、砕いて破壊していた。それは食らったら僕の体がひしゃげて終わってしまう事を意味する。


 今までも食らえば不味い攻撃ばっかりだったけど、今回はシャレにならないかも。だから攻撃は一発も受けたくない!


 幸い僕の目からスチールゴーレムの動きはよく見えて、繰り出す両拳も横っ飛びやバックステップで、なんとか避けられた。


「シュンちゃん! シュンちゃんいるー!?」


 僕は攻撃を避けてて呑気に周囲を見回す余裕が無いので、シュンちゃんに対して必死に呼ぶ。


「いるニャー! 速くて狙い定め難いニャー!」


 スチールゴーレムの真後ろからシュンちゃんの声が聞こえ、僕達は今ボスを挟み撃ちする形となっている。


 ハンマーの一撃は強烈だけど、今みたいに素早く動き回る敵に対しては狙いづらいみたいだ。


「今パワーを溜めてるから、動きが止まった所へ脳天にドッカーンってやれば行けるかもしれないニャ!」


 シュンちゃんは強力な技を使う為にチャージ中って訳か。だとしたら今、スチールゴーレムが彼女へ振り向くのは絶対阻止しないといけない。


 引きつけてブリッツで動きを止める!


「ゴォォーー!!」


 鋼の巨人は力任せに拳を振り回し続け、僕はそれを避けるという繰り返し。流石にしんどくなってきた……!


 僕のスタミナがいい加減尽きそうだから、此処でブリッツをバックステップで下がりながら使う。


 それをしようとした時。



「わぁっ!?」


 スチールゴーレムの砕いた床に足を取られ、僕は転倒してしまう。ボスが砕きまくったおかげで、気づくと僕にとって足場の悪い地形となっていた。


 そこへ迫る鋼の巨人。大きく振りかぶり、右拳で僕を潰そうとしているのが見えてしまう。


 ヤバい、どうしようとこの時の僕の頭はパニック状態。こんな事ならカツサンドもっと食べれば良かったという、後悔が頭の中で過ってくる。


 僕に対して無慈悲に振るわれる鋼の鉄拳。



「ガードシールド!!」


 救世主は突然やって来た。


 一度はその拳で吹っ飛ばされたはずの盾山君が、僕の前に立ってスキルで強化された盾を構え、スチールゴーレムの拳を真っ向から受け止めていた。


「待たせたな神城ぉ!」


 ナイスタイミング過ぎるって盾山君。僕が女子だったら、多分キミに惚れちゃう所だったよ。


 そこにスチールゴーレムが、反対の左拳も盾山君へ突き出そうとする。


「おおおっ!」


 気合いと共に護君が飛び上がると、鋼の巨人の頭部を狙って剣を振り下ろす。


 ガギィンッと金属同士のぶつかる音がして、ダメージ自体は与えられなかったけど、注意を引く事には成功。スチールゴーレムは盾山君から護君へと狙いを変えていた。


 頼もしい2人のおかげで、充分な時間を稼げる。僕はこの隙にリオンさんの手作りおはぎを取り出し、かぶりつく。


 戦ってる皆には悪いけど、もち米を包むこしあんの甘さが非常に美味しく味わってしまう。


 疲れた体の癒やしにもなり、リオンさんのおはぎのおかげで僕は力を取り戻す。そこから僕はスチールゴーレムに杖の先端を向けて、狙いを定めた。


「ブリッツ!!」


 さっき唱えた時のよりも大きな雷の矢が、鋼の巨人に真っ直ぐ、文字通り電光石火のスピードで飛んでいく。


「ゴォォ!?」


 中心の胸を雷の矢が撃ち抜いた時、スチールゴーレムの右膝が地面を突いて、動きは止まる。


 シュンちゃん今だ!と僕が叫ぶまでもなく、剛腕な彼女は既に跳躍して巨大なハンマーを振りかざそうとしていた。


「メガトンハンマー!!」


 力を溜めての渾身の一振り。それが鋼の巨人の脳天にクリティカルヒット。


「ゴォォ〜〜!!」


 悲鳴を上げると共に、スチールゴーレムの体が頭部から体全体へピシピシとヒビが入り始める。


 そこから巨体が崩壊を迎え、鋼の巨人の体はバラバラと崩れ落ちて動かなくなった。



「お、おい……やったよな? 討伐したよな!?」


「どう見ても倒れただろう」


 盾山君は一瞬何が起こったか理解出来なかったらしく、護君へ状況を確認。


 あれだけ攻撃を食らって平気そうだったスチールゴーレムが、最後はシュンちゃんの強烈なハンマーの一撃で倒す事に成功。


「リンちゃん凄い! 大手柄だよー!」


「ふにゃ〜、今日は結構張り切って疲れたニャ〜」


 リオンさんがシュンちゃんの方へ真っ先に駆け寄り、労う姿が見えた。


『レベルアップしました』


「む」


 そこに暗夜さんのスマホからレベルアップを告げる通知が届く。


『レベルアップしました』


「おお、来たぞ俺にも!」


「私も来たニャ〜♪」


 続けて盾山君、シュンちゃんのスマホにもレベルアップの知らせが来る。


『レベルアップしました、レベルアップしました』


「あ、あたし2回だ!」


「む、来たか」


 アンフィニアーミーの方でもリオンさんと護君のレベルアップが確認、それもリオンさんは2レベルで一気に19となっていた。


 僕の方はどうなんだろ……?


『レベルアップしました、プレスを習得しました』


「やった来た!」


 僕だけ上がらなかったらどうしようとなってたのが、無事にレベル8に上がる。それもまた新しい魔法付きで。


 どんな魔法かなと効果をスマホで確認すれば、対象の相手に負荷を与える重力の魔法か。これは使えそう。



「流石はレアフロアボスですね、全員のレベルが上がる程に莫大な経験値とは」


 こういう時でもメガネをクイッと上げて、煌めかせる所はブレない暗夜さん。難敵を倒してレベルアップしたせいか、嬉しそうに見える。


「あ、そうだ! 鉱石……!」


 盾山君は念願だったスチールゴーレムの鉱石を手にすると、それをじっくり観察。


「やべぇ……達成感が半端ねぇよ……」


 今にも泣きそうな感じで、よっぽど嬉しかったんだなぁと見ていて充分伝わった。


 とりあえずめでたく、今回のダンジョンもクリアだね。

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