第22話 VSエンペラーマンティス2
僕の目の前で護君が斬られる。
彼の血であろう赤い物が飛び散っていく。あの巨大マンティスの大剣のような腕に斬り裂かれたのだと、すぐに頭が理解してしまう。
「「護君!!」」
僕は心配で護君へ向かって叫ぶ。リオンさんも同じ事を考えてたのか、彼女と声が重なっていた。
「っ……左腕を斬られただけだ、問題無い……!」
問題あるよ!護君の左腕の肘辺り、血が流れてきてるじゃん!
「護君! 一旦下がって! あたしが治療するから!」
そうだ、リオンさんはさっきのレベルアップでトリートを覚えている。治療法がある今、リオンさんの存在はより重要となっていた。
護君はその声に従い、後方へ下がる。巨大マンティスは護君へ向いたままだ。
「こっちだー! フラム!」
「ギィィーー!!」
僕は後ろから炎の玉を当ててやると、巨大ソードマンティスが振り返って来た。その紫の体には護君が渾身の力で振るったと思われる、彼の剣が食い込んで刺さったままだ。
ダメージは与えてそうだけど、これでも倒すまで行かないのか……レアフロアボスモンスターってどんだけ強いのさ!?
とにかく今はリオンさんや護君の所へ向かわせる訳にはいかない。此処で足止めしないと!
僕のお腹が持ち堪えてくれる事を祈る……!
リオンSide
大変大変大変!大変過ぎる!!
うう、護君の左肘からドクドクと血が流れてるのが見えるよぉ……!
護君の表情は変わってないけど、汗をかいててかなり辛そうに見える。そりゃこんなに血を流して平気、な訳ないよね。
「(どうにかせめて止まるまではお願い!)」
覚えたばかりの魔法だから、あたしも何処まで効果があるのか全くの未知。これで失敗して回復全然しなかったとかやめてよ!?
「傷ついた者を癒したまえ……トリート!」
あたしは傷ついた護君の左肘に両手をかざし、魔法を詠唱して発動させる。あたしの両手から緑色の優しい感じの光が発せられていた。
光を浴びた護君の左肘は出血が止まって、傷口が塞がっていく。なんとか効果あるけど……回復魔法って思ったより疲れる!
中華鍋振り回しまくって、料理作ってる方が全然楽なぐらい!
明弥Side
巨大ソードマンティスもあの巨大イノシシみたいにガンガン突っ込んで来るタイプだけど、こっちは闇雲に突進して壁に体を打ち付けないから隙が無い。
GランクからFランクに1つ上がったら、一気に難易度が上がってる気がする。だっていかにも攻撃力高い、かと思えば鉄壁の鎧のような体に覆われて、こっちの攻撃を弾いてしまう。
護君が渾身の力を込めたであろう斬撃も耐えて、彼の剣が紫の体に食い込んでいるのが僕の向いてる正面から見えた。
「ギィィーー!!」
「!?」
巨大ソードマンティスがいきなり天井に向かって吠える。すると右腕が光り出したかと思えば、それを振るうと衝撃波が飛び道具のように僕へ飛んで来た。
「っ!」
僕の目からハッキリ見えた紫色のオーラ。それを右に跳んで避けた後、僕の後ろにあった壁はサックリと斬り裂かれた後が残る。
こんな飛び道具まであるって強いよこのボス!
「ギィィーー!」
攻撃パターンを変えて飛び道具メインで来る、かと思ったら再び僕に距離を詰めて思いっきり右腕の大剣を振り下ろす。
それを受けたら終わりなので僕は必死に右へ避ける。さっきまで僕が居た位置には、巨大ソードマンティスが叩きつけた腕によって床が砕かれて破壊力を物語っていた。
こんなボスの攻撃を受けたら装備を新調してもしなくても、良くて瀕死の重傷で悪くて即死になりそう。
せめて護君がいてくれたら良いけど、彼は左腕を斬られて傷の治療中だ。リオンさんの魔法で何処まで回復出来て、時間を必要とするのか全く分からない。
「護君が回復するまで待って、くれないよね!?」
「ギィィィィーー!!」
目の前のボスがご丁寧に護君の回復が終わるまで、待ってくれるはずもなく僕へ両腕を振り回して来た。攻撃してばかりで疲れないって狡くないー!?
大剣のような腕をブンブン振って来る攻撃を躱し続ける、けど僕の体力は無尽蔵じゃないから疲労は確実に迫ってしまう。
なんとか弱点を見つけないと、僕は改めて目の前の大きなボスを見据えた。
すると正面で向かい合って気づく。さっきまでは完全無欠だったボスに綻びが生まれている事に。
「ブリッツ!!」
僕は右手で握る杖から雷の矢を飛ばす。ターゲットは巨大ソードマンティス、じゃなくてその体に突き刺さる護君の剣にだ。
「ギギィィィィ!?」
雷の矢が剣に当たると、それを伝ってボスの体内に雷が直接流れ込んでいく。巨大ソードマンティスの体が大きく仰け反り、苦しんでいるような声を出しているように聞こえた。
外の守りが鉄壁でも中の守りは弱いみたいで、こういった攻撃が今の弱点になっている。
「ブリッツ! ブリッツ!」
「ギィィィィ〜〜〜!!」
僕は相手に攻撃が効いて動きが止まってる間、雷魔法をガンガン唱えまくって剣に雷の矢を当てては体内に電撃を流す、といった攻撃を繰り返す。
このままゴリ押しで倒せる!行ける!
そう思った時、僕の身に最悪の事態が起こってしまう。
グゥゥ〜〜
「う……!?」
魔法を多用した事で僕の身に空腹感が襲って、お腹が飯を寄越せと叫んでくる。そのせいで放った雷の矢がヘナヘナっと、地面に墜落して消滅してしまう。
こんな最大のチャンスに限って僕の持つ、大食いスキルの最大デメリットが嫌なタイミングで来ていた。空腹で魔法が使えず、チャンスから一転して大ピンチだ。
「ギィィィィ……!」
巨大ソードマンティスはまだ倒れてなくて、僕へと明らかに体を向けていた。
ヤバい!早くリオンさんのおはぎを食べないと、そう思ってる間に両腕の大剣を振り回しながら僕に迫る。
なんとか接近してくる前に避ける!
必要は無かった。
「ギィ!?」
何故なら巨大ソードマンティスは、さっき自ら砕いた崩れた床に足を取られて動けなくなったからだ。
此処に来て自分の見せつけたパワーで墓穴を掘ってしまう、僕にとっては超ラッキーな展開でしかない。向こうが動けない隙に僕は荷物からリオンさんの手作りおはぎを頬張る。
口いっぱいに広がる上品な甘さが僕を癒すと同時に、力を蘇らせてくれる。僕は再び魔法が使えるようになって、再びあの雷魔法を唱えた。
「ブリッツ!!」
さっきまでのブリッツより、大きな矢が杖から飛ばされて護君の剣に真っ直ぐ飛ぶ。
「ギィィィィ〜〜〜〜!!」
その巨体全体に今流れてるであろう雷の衝撃。護君の剣を伝って体の内側から駆け巡って避ける術はない。
巨体ソードマンティスは体がぐらつくと、スローがかかったみたいにズズーンと倒れていった。
「神城……!」
「神城君!」
そこに左腕を抑えた護君とリオンさんが僕の傍まで駆けつける。
「なんとか倒せたよ〜……」
今になって疲労が来て、僕はその場に座り込みながらも2人に向かって右手親指を立ててみせた。
護君が渾身の力で斬りかからなかったら綻びは生まれていないし、リオンさんがいなかったら傷ついた護君を任せる人がいなくて戦えなかったと思う。
今回も僕だけの力じゃなく、頼れる仲間がいてこその勝利だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます