第4話 ただのエロ漫画好きにも信念はある
【どうして!どうしてあの者との手合わせを断ったのですか!】
「うるさ…………」
城から戻った俺は、とりあえず教会に住まわせて貰うこととなった。教会の中にあった客室を借り、寝心地の悪いベッドで横になっていた。
ただでさえ現代日本と比べて寝心地が悪いというのに、頭の中で女神が話しかけてくるから寝れない。城から帰っている時からずっとこの調子だ。思考を読めるんだから大体分かってるくせに。
【あのですね。俺は本来無関係な人間なんすよ?それなのにアイツらときたら貧弱だの奴隷だのと…………そんな奴らに協力してやる義理がどこにあると?】
【ウッ…………で、ですが!チートを授けたじゃないですか!そういう約束だったじゃないですか!】
【こんな使えないもんの何がチートだ!というか!アンタがもーーーちょっと信仰されてれば手合わせなんてしなくても良かったんじゃねぇのかよ!】
【ウゥッ……!】
俺からの反論に女神は呻くだけで何も言い返せないでいた。やっぱり信仰されてない理由に心当たりがあるってことだ。
【俺がこの世界の人間でも同じことを思うだろうさ!なんだっけ?大噴火?大地震?魔王誕生は十年前?それらを全部無視しておいて今更信じてくださいってのは無理があるよなぁ!?】
【だって…………だってぇ……!】
顔なんて見えなくても声だけで女神が泣きそうになってるのが分かる。ちょっと可哀想になってきたが、謝る気はない。だって悪いの多分コイツだぞ。
【仕方ないじゃないですか……!あの日はものすっっごく煽られて……勢いでアケコンまで壊しちゃったんですよ…………!三年前は……ちょっと食べるのにハマっちゃって………………魔王だってそのうちなんとかなるって思ってたんですもん!】
ほら見たことか。自業自得のオンパレードだ。ていうかなんだアケコンって。まさか格ゲーで煽られた怒りで火山が噴火したってことか?はた迷惑すぎるだろこの女神。
【分かっています!今までの私が不摂生の不健康女神だったってことくらいは!でも死にたくはないじゃないですか!このまま魔王によって世界が滅ぼされると、私の存在も消えてしまうのです!】
【あーはいはい。そういう悲しいのいいから。誠意見せてください誠意を】
【誠意……?】
女神からの命乞いを軽く流しつつ、あることを要求することにした。
【チートについての制限を外してもらっていいっすか?それなら魔王討伐も考えてあげないこともないっすよ】
【そ、それは…………色々と……問題が……】
【……技術?】
【……いぇ、その、天界のルール的に……ちょっと…………】
【ルールで命が救えるんすか!バレなきゃいいんですって!】
【それだけはダメなんですよぉ!バレたら大女神様に怒られちゃいます!いや……最悪魔王の手よりも先に消されちゃいます!】
やけに頑固な女神の態度に俺はこの交渉は無駄だと諦めることにした。命がかかっているだろうに出来ないというのであればきっと色々あるんだろう。
だが、かといって素直に「じゃあ魔王倒してきます」とは言えない。何かしらの御褒美があっても良いはずだ。
【……で、ですが】
【ん?】
何か代替案が無いかと俺が模索していると、女神は恥ずかしそうにボソボソと呟き始めた。
【その…………少しだけなら……貴方に夢を見せる……という形でなら…………チートの制限を外すことも……出来なくはないです】
【……つまり?】
【…………貴方が何か成果を上げた時、寝ている貴方をここに似た別の世界へと誘います。そこでなら……えっちなことに使いたい放題……です】
【………………ふぅん?】
「すいません。少しだけお時間よろしいでしょうか?」
女神との交渉が一段落つきそうなタイミングで部屋の扉がノックされ、シルヴィが声をかけてきた。俺は一旦女神との会話を止め、部屋の扉を開けてシルヴィの元へと赴くことにした。
「大丈夫ですけど……なんかありました?」
「えぇっと……少し教会の中を案内しようかと思いまして。貴方に会いたがっている者達もおりますので」
「……分かりました」
シルヴィに誘われるがままに教会の中を案内されることになった。とはいってもそこまで大きな教会ではない為、施設の紹介自体はすぐに終わり中庭の方へと連れていかれた。
「あ、シルヴィさん!まさかその人が!」
「えぇそうです。女神様の使いである…………えっと……」
「……リョウマです」
「はい!リョウマ様です!」
連れてこられた中庭には十名くらいの子供達がいて、その全員が女の子だった。年齢的には……大体がまだ十歳にも満たないくらいだろう。
「すっごーい!本物だぁ!」
「なにか魔法とか使えるんですか!見せてください!」
「どうして髪が黒いの?女神様も黒いの?」
「こら皆。あんまり一気に質問しちゃリョウマ様も困ってしまいますよ」
純粋な子供達は俺が女神の使いであるとアッサリ信じてくれた。さっき冷たい対応をされたおかげか、歓迎されてる感が心地良い。
そんな元気な子供に囲まれている中、一歩離れた位置で俺の事を睨んできていた緑髪の女の子と目があった。背丈的にも中学生ほどだろうか。右腕は手首から肘あたりにかけて包帯が巻いてあり、顔には絆創膏らしきものも貼られていた。見かけに依らずヤンチャな子なのだろうか。
「……あらフィア。首元に虫刺されが出来ていますよ?」
「!?」
その女の子はフィアと言うらしく、シルヴィからの指摘を受けて咄嗟に首元を手で隠した。
「治してあげますから見せてください」
「……いらない」
「ですけど……」
「いらないってば!」
フィアは突然シルヴィに怒ると、逃げるように教会の方へと走り去っていった。シルヴィはそんな彼女の様子に落ち込み、周りの小さい子達から慰められることになっていた。
「今日はありがとうございました。あの子達もすっごく楽しそうで……また遊んであげてください」
「……明日以降でお願いします」
その後、子供達に振り回されまくった俺の全身は悲鳴を上げていた。女の子だと甘くみていた。俺の子供の頃なんかよりも元気が有り余っていやがる。
「あの子達は……親のいない孤児なんです。施設に入るお金もなく、途方にくれている子達を神父様が無償で助けているのです」
「へー……立派っすねー」
シルヴィからの話に俺は適当に返事をした。なんとなく予想できていた範疇ではあったし、一つだけ気になることがあったからだ。
それはなんといっても男が居ないという点。偶然と言われればそれまでだが、これだけ人数がいてそんなことがあり得るのだろうか。あの神父が集めているのであれば選り好みしている可能性だってある。まぁそれで結果的に助かっている子達がいるのであれば俺がとやかく言うことではないのだが。
「……ところで、フィアって子はいつもあんな感じなんですか?」
俺はフィアについても気になり、シルヴィに尋ねてみることにした。結局あの子が戻ってくることはなく、小さい子達も寂しそうにしていた。
「いえ…………普段はもっと元気なんです。それこそ皆に負けないくらいに。でもたまに……暗いこともあって、そういう時は必ず怪我をしているのです。私が回復魔法をかけると言っても『いらない』の一点張りで……」
「…………なるほど」
シルヴィからの話を聞き、一つの最悪な仮説にたどり着いた俺は、部屋に戻ってひとまずはベッドで疲れをとることにしたのだった。
「今日もよく来ましたねフィア」
「………………」
深夜。薄暗い教会の講壇の前で神父とフィアがいた。フィアは服を身につけておらず、上下の秘部を腕で隠していた。
「……何を今更恥じることがあるのですか。よく見せなさい」
「………………っ……はい…」
神父に言われるがままに腕をどかし、全てをさらけ出すフィア。そんなフィアを前に神父は舌なめずりをし、ゆっくりと手を伸ばした。
「それでいいのです。さぁもっとこちらへ」
「っ………………」
神父のゲスな魔の手がフィアに届きそうになったタイミングで、俺は発動していた能力を解除することにした。
「俺はそういう作品ってエロくて抜ければ良いって思う派なんだよね」
「なっ……!!?何者だ!?」
二人しか居なかったはずの空間に突然俺が現れた事で神父は驚愕し、俺を探すように辺りを見渡しながら叫んだ。そんなことをしなくても俺は少し前から教会のど真ん中で突っ立っていたというのに。
「でもさぁ……これだけは譲れない信念ってのもあるにはあるわけで」
「さっきから何を……!」
コツコツと講壇に歩いて近づきながら話を続ける。俺の姿をようやく捉えた神父と目が合い、その場で立ち止まって俺なりの信念をこのクソハゲ野郎に伝えた。
「可哀想なのは抜けねぇんだよ」
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