第148話 アクアプラド
一瞬霧が濃くなり視界が悪くなる。
そして直後、目の前に美しい水棲族が現れた。
青い肌に上に長い耳、青髪に赤い目、肌の所々が鱗で覆われていた。
服は青地の民族衣装のようなものを着ている。
さっき倒した奴と違い水掻きはほぼ無く、足は素足、手には三又の槍を持っている。
三又の槍の穂は刃となっており、薙ぎ払っても斬れそう。
見るからに雑魚敵には見えない。
剣を構えると相手は意外にも話しかけてきた。
「私の名はアクアプラド、水棲族の長にして魔王エルゼタ様に仕える者です」
「それはご丁寧に、俺は……」
「必要ないです」
言葉を遮られた。
「イクス・トットベルでしょう、サーキスの話では絶死の刻印を打ちこまれたはずですが、まさか生きているとは」
「受けた俺もびっくりですよ」
これは本当、エルネルがいなかったら死んでたと思う。
「ふん、あの口だけ男め。まあ良いです。エルゼタ様の障害になるならば私が倒してしまいましょう」
アクアプラドが指を鳴らすと周囲で戦っていた兵士達が俺らから遠ざけられた。
意図的に一騎打ちをさせようというのだろう。
周囲の喧騒が徐々に耳に入らなくなっていく。
一騎打ち、俺が最も得意としているスタイルだ。
なんだかんだケンジ君とは一対一で戦っていたから、多対一よりは心得がある。
剣を構えながらアクアプラドを見た。
アクアプラドは両手で槍を構えながらじりじりと近づいてくる。
槍の間合いは剣より長い、普通に考えれば槍の方が遥かに優位であると言えるけども。
さて……。
数秒、距離が狭まった直後。
アクアプラドの方から動いた。
予備動作の無い突きである。
しかし、その速度は速く、最短の距離を最速で進んでくる。
俺はそれを受け止めようとして、しかし横から叩き弾いた。
三又の中に剣を入れたら捻っただけで剣を飛ばされる可能性があるし、最悪剣が折れる可能性もある。
ならばと弾き、そのまま前に出て斜め下から切り上げたのだが、それは槍のかぶら巻と石突の間の部分で止められる。
それごと斬れると思ったのだが、思ったより槍は頑丈だった。
「はっ!」
声と共に剣を弾き、続けて槍を回しながら連続突きを放ってくる。
正面から受けるわけにもいかず、弾き続けた。
相当な速度だ、しかも力も結構あるらしく、槍を弾くたびに剣を持つ手が痺れそうになる。
力はサーキスの方が上だが、速さだけならサーキスに勝る上にリーチも槍のせいで長い。
だがこれくらいなら受けきれる……と思っているとアクアプラドの動きが止まった。
「急な一騎打ちにも動じないだけあって、なかなかやりますね」
「それはお互いさまでは?」
「ふん、となればここで決めさせて貰いましょう」
アクアプラドが槍を引いた。
同様に俺もぴたりと止まる。
背中を冷ややかな何かが通る。
ケンジ君と訓練していた時に感じたことがある。危険な何かが来る時特有の……。
「
アクアプラドの手元が光に覆われた。
光の花ビラが五枚現れる。
そしてぼんやりとした中心の光の中から一陣の白く細長い光が飛んでくる。
普通ならばそれを視認出来ないまま、身体を貫かれて死んでいただろう。
だが……。
俺はダークブラックでその光の如き速さの槍の一撃を強引に跳ね飛ばす。
ぎりり……と歯を食いしばった。
横の動きを縦に無理やり弾く。
重さより速度重視なのか、予想より軽く弾きやすかった。
完全な力技だったが、俺の身体は動いてくれる。
次の瞬間、ひゅんひゅんと宙を舞う三又の槍。
空手のまま、目を見開いたまま固まるアクアプラド。
俺は更に一歩踏み込み、アクアプラドに対し氷獣王の宝剣を斜めに振り下ろした。
アクアプラドは避けようと後退した。
――が手応えはあった、遅れて鮮血が舞う。
「あ……」
アクアプラドが咄嗟に斬られた胸元を抑えるが、その手の隙間からおびただしい量の血が流れる。
「私が……そんな……」
アクアプラドは目を虚ろにしたまま、膝をつく。
「エルゼタ様……もっと……お側で……」
吐き出すような小さい声音と共に吐血。
そしてそのまま地に伏した。
夕方、霧もなくなり他の所で残っていた水棲族達を倒し終わった。
敵の大将を倒し、勝利した事に歓声が上がるが、今回は被害が大きかった。
結構な数の兵士を埋葬する形になった。
流石にB級以上の危険度のモンスター、水棲族を相手に死亡者ゼロには出来なかった。
「俺がいてこれか……」
今回は少々後手に回ってしまった。
一応早めに異変に気付けたとはいえ、もう少し何かやりようがあった気もする。
死亡した兵士達が埋葬されているのを見ていると後ろから肩を叩かれた。
見ればヴァンが真剣な表情で立っている。
「どうした、勝利だぞ」
「あー……うん、一応ね。でももう少し俺が気付くのが早かったら犠牲者はもっと少なかったなって思ってさ」
悲しそうに仲間の穴を掘っている兵士達を見ているとついつい思ってしまう。
「ふむ、気持ちは分かるが……仕方あるまい。犠牲者は出たがポーションのおかげで死なずに済んだ者も多い。イクスの動きが早かったからミハエル殿も救えたのだろう」
「それはそうなんだけどね」
そう、ミハエルはあの後無事に起き上がった。
他にも負傷者にポーションを飲ませて何とか命を失わなかった人達も多い。
「兵士達も覚悟を決めて戦っている、それに文句を言うのは兵士の覚悟への冒涜だ……と吾輩は思う。まあ、吾輩の場合冒険者の目線ではあるのだがな」
「…………」
「イクスのおかげで救われた命も多いのだ、そう気に病むな。それより明日に備えようではないか」
「……うん、ありがとう」
そうだ、確かにまだ戦いが終わったわけじゃない。
まだ魔王がいるんだ。
その日の夜はなかなか眠れなかった。
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